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今日は公園の鉄棒で腹筋を鍛えよう!
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放っておいたら落ちる一方。4つの項目で“貯筋”残高をチェック

ロコモ(運動器症候群)なんてずっと先の話、と思っていますね? でも家で一日中ゴロゴロしていた休日に、あなたは筋肉の1%を失いました。さあ、今すぐ「貯筋」を始めないと大変です!

健康指標の「太腿の筋肉」は、1年で約1%落ちていく

体組成の除脂肪体重のうち、約半分を占めているのが骨格筋。これをいかにキープするかが健康のカギとなる。スポーツ科学の第一人者、鹿屋体育大学前学長の福永哲夫先生は、超音波で何千人もの筋肉の量を計測し、加齢による量の変化を「見える化」した。

「とくに問題なのは太腿です。若いときから腕の筋肉量はあまり変わりませんが、太腿前面の筋量は50歳以降急激に少なくなっていきます」

平均すると、なんと1年間に1%くらいの割合で落ちていくというから驚く。

とくに運動もせず、何もしないで放っておくと50〜60歳にかけて10%、さらにその後の10年間で10%減。計算上、80歳になると20歳の頃に比べて太腿の筋肉は30%落ちてしまうことになる。

太腿前の筋肉の量は20代で一升瓶1本分、約1.8kgといわれている。つまり両脚で約3.6kg。80歳になると約2.5kgまで減ってしまうということ。恐ろしや。

筋肉量

最も筋肉の減少率が多いのは腹筋。とくに妊娠・出産によって女性は腹筋が衰えやすい。次に大腿前部、大腿四頭筋。こちらは男女ともに衰えやすく中年以降の健康度の指標となる。福永原図 2001年

不活動の自粛生活では、2日で1年分の筋肉が落ちる

太腿の筋肉が年に約1%減少するというのは、とくに運動せずに日常生活を行っている場合。福永さんが宇宙飛行士の筋肉量を計測したところ、2週間のフライトで筋肉が15%落ちていることが分かった。つまり1日約1%の割合で筋肉は減少したということ。

無重力状態では筋肉に負荷がかからないからだ。さらに、学生を対象にした寝たきり実験では、1日0.5%の割合で太腿前の筋肉が減少したという。宇宙では1日で1年分、寝たきり状態では2日で1年分の筋肉が失われるのだ。

「体重1kg当たりの太腿の筋肉量を調べてみると、1kg当たり10gを切ると歩けないという状況が起こります。11gくらいある人が風邪をひいて1週間寝込んだらもう歩けなくなるということです」

太腿前の筋肉が健康指標となるのはこうした理由だ。コロナ禍でぐだぐだゴロゴロの自粛生活を送っていたという人、さてあなたの筋肉は何年分減っただろうか?

筋肉量

膝伸展筋は大腿四頭筋を指す。体重1kg当たりの大腿四頭筋の量が10g以下になると寝たきりに。運動習慣があると高齢になっても平均値を上回り、寝たきりラインに達しない。資料提供/福永哲夫

よく躓く? 歩幅が小さい? 自覚症状があったら要注意

では、グダグダのおこもり生活で太腿の筋肉が激減すると、一体何が起こるのか?

「まず、歩くとすぐ疲れるようになります。これは運動したときの自覚的な疲れとは異なり、なんとなくだるいという感覚。

また、ちょっとした段差でよく躓くといったことが起こってきます。どちらも太腿の筋肉量が低下することで膝を引き上げることができなくなるからです。そして歩幅が小さくなるというのが最大の問題です」

歩走行の機能はピッチストライドの2つが指標となる。ピッチは1秒ごとの歩数。ストライドは歩幅だ。このうちピッチはあまり加齢による影響を受けない。走行の場合、男性では20〜70歳まで1秒当たり4〜4.5歩というレンジに収まる。

一方、ストライドの方は加齢変化が著しい。20歳の頃には110cmだったのが、ここから一直線の右肩下がりで70歳になると65cmにまで狭まってしまうのだ。若い頃に比べてほぼ半分。ピッチは変わらず、でもストライドは小さいので必然的にチョコチョコ歩きに。

で、ちょっと歩くとすぐに疲れる。ストライドの変化は大腿四頭筋の衰えを即、反映する。歩幅が小さくなってきたという自覚がある人は用心されたし。

筋肉量

ピッチに比べてストライドは加齢や生活習慣の影響がもろに出る。久々のオフィス通勤の際、以前より駅までの歩行時間が長くなったという人は、太腿の筋肉が衰えてストライドが小さくなっている可能性大。福永原図 2001年

あなたの筋肉残高チェック!

活動量が多く代謝が高くホルモン分泌が盛んな20代。筋肉量のピークはこの時期で、あとは筋肉の残高をどれだけキープできるかが残りの人生の健康度を決める。すなわち、自分の脚でキビキビ歩いて趣味や旅行を楽しんだり社会的生活を送れるか否かの分かれ目。まずは、今の筋肉の残高がどの程度かをチェックしてみるべし。

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体重/ウェスト比

筋肉

まずおヘソの高さでウェストを計測してみる。そしてただ今このときの体重を測定して、体重をウェストで割った数値を割り出してみよう。体重75kgでウェストが70cmなら1.07、ということ。

数値が低いほどコアの筋肉が落ちている証拠。

筋肉

たとえ体重が若い頃と変わらない数値でも、ウェストサイズが大きくなっている場合は問題あり。コアの筋肉が落ち、その代わりに脂肪が蓄積されているからだ。体重/ウェスト比は数値が高いほど筋肉量が維持されている。理想はAの1.0以上。

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椅子座り立ち

筋肉

椅子の前に立ち、椅子に座ってお尻が軽く座面に触れたらすぐに立ち上がる。これを10回繰り返す。何秒で10回座り立ちできたかを計測。両手はやりやすいポジションで。

40代では10秒、50代では11秒が標準レベル。

筋肉

70歳では遅い人は20秒、早い人では10秒を切り、年齢を経るごとに個人差が大きくなる。これはライフスタイルや運動習慣による差と考えられる。40代までは10秒で行えなければちとヤバい。50代では11秒でクリアできればギリセーフ。12秒以上は赤信号。

筋肉
福永原図 2001年

20代の平均秒数は男女ともに9秒台。加齢とともに徐々に遅くなり、70代では男性で約13秒。ただし10秒を切る人もいて個人差は年齢を経るごとに大きくなっていく。

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空気椅子

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椅子の前に立ち、お尻を座面から約10cm浮かせた位置でキープ。この空気椅子姿勢でどのくらい耐えられるかを計測。テレビや動画を見ながらでもいいのでトライしてみよう。

5分以上が理想。3分なら標準。1分未満は要注意。

筋肉

福永先生が鹿屋体育大学の学長時代、入学式ではスクワット姿勢で5分間の挨拶をしていたという話。同じ姿勢をとることで疲れてしまうのは太腿の筋肉から神経を通して信号が伝わり脳が疲労するから。5分以上空気椅子姿勢がとれれば大したもの。1分未満は×。

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片脚立ち上がり

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椅子に座って片足を床から浮かせる。そのまま軸脚の力だけで立ち上がる。右脚を軸脚にしてクリアしたら左脚でチャレンジ。椅子で立ち上がれたら、低いソファでも試してみよう。

普通の椅子から左右ともに立ち上がれれば標準。

筋肉

ロコモティブシンドロームのレベルを割り出すための下肢筋力の機能テスト。本来は両脚で椅子から立ち上がるところからスタートするが、40代であれば左右ともに片脚立ちで立ち上がれるのは当たり前。理想は低いソファからも左右とも難なく立ち上がれること。

筋肉は貯められる! 今こそ「貯筋」運動を

寝たきりライン? まだ若い自分には関係ない、と思っている人。筋肉残高のチェックはいかがだっただろう? 思った以上に残高が減っていたという人もいるはずだ。そこで福永先生が長年提唱しているのが「貯筋」という考え方。

「歳をとって筋肉が減ってきた人が風邪をひいて寝込むと寝たきりラインを切ってしまいます。でも平均以上に筋肉があると寝込んでも寝たきりラインまでかなり距離、つまり時間があります。貯筋というのは運動でこの時間を稼ぐことです」

貯筋のスタートは早ければ早いほどいい。福永先生による浦島太郎のこんなたとえ話がある。

「浦島太郎は竜宮城へ行って帰ってきて歳をとりました。竜宮城は海底なのでほとんど無重力。つまり宇宙空間にいるのと同じですから1日で1年分の筋肉を失います。

浦島太郎が30歳で竜宮城に行って1か月過ごしたら30年歳をとったということになるわけです。つまり帰ってきたときは60歳。もし浦島太郎が少しでも筋トレをしていたら30歳と1か月で帰ってこられたはずです」

自宅におこもり気味の今だからこそ、貯筋に励んだ者勝ちだ。

取材・文/石飛カノ 撮影/谷 尚樹 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/天野誠吾 取材協力/福永哲夫(鹿屋体育大学前学長、東京大学名誉教授)

初出『Tarzan』No.799・2020年11月5日発売

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