放っておいたら落ちる一方。4つの項目で“貯筋”残高をチェック
ロコモ(運動器症候群)なんてずっと先の話、と思っていますね? でも家で一日中ゴロゴロしていた休日に、あなたは筋肉の1%を失いました。さあ、今すぐ「貯筋」を始めないと大変です!
取材・文/石飛カノ 撮影/谷 尚樹 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/天野誠吾 取材協力/福永哲夫(鹿屋体育大学前学長、東京大学名誉教授)
初出『Tarzan』No.799・2020年11月5日発売
目次
健康指標の「太腿の筋肉」は、1年で約1%落ちていく
体組成の除脂肪体重のうち、約半分を占めているのが骨格筋。これをいかにキープするかが健康のカギとなる。スポーツ科学の第一人者、鹿屋体育大学前学長の福永哲夫先生は、超音波で何千人もの筋肉の量を計測し、加齢による量の変化を「見える化」した。
「とくに問題なのは太腿です。若いときから腕の筋肉量はあまり変わりませんが、太腿前面の筋量は50歳以降急激に少なくなっていきます」
平均すると、なんと1年間に1%くらいの割合で落ちていくというから驚く。
とくに運動もせず、何もしないで放っておくと50〜60歳にかけて10%、さらにその後の10年間で10%減。計算上、80歳になると20歳の頃に比べて太腿の筋肉は30%落ちてしまうことになる。
太腿前の筋肉の量は20代で一升瓶1本分、約1.8kgといわれている。つまり両脚で約3.6kg。80歳になると約2.5kgまで減ってしまうということ。恐ろしや。
不活動の自粛生活では、2日で1年分の筋肉が落ちる
太腿の筋肉が年に約1%減少するというのは、とくに運動せずに日常生活を行っている場合。福永さんが宇宙飛行士の筋肉量を計測したところ、2週間のフライトで筋肉が15%落ちていることが分かった。つまり1日約1%の割合で筋肉は減少したということ。
無重力状態では筋肉に負荷がかからないからだ。さらに、学生を対象にした寝たきり実験では、1日0.5%の割合で太腿前の筋肉が減少したという。宇宙では1日で1年分、寝たきり状態では2日で1年分の筋肉が失われるのだ。
「体重1kg当たりの太腿の筋肉量を調べてみると、1kg当たり10gを切ると歩けないという状況が起こります。11gくらいある人が風邪をひいて1週間寝込んだらもう歩けなくなるということです」
太腿前の筋肉が健康指標となるのはこうした理由だ。コロナ禍でぐだぐだゴロゴロの自粛生活を送っていたという人、さてあなたの筋肉は何年分減っただろうか?
よく躓く? 歩幅が小さい? 自覚症状があったら要注意
では、グダグダのおこもり生活で太腿の筋肉が激減すると、一体何が起こるのか?
「まず、歩くとすぐ疲れるようになります。これは運動したときの自覚的な疲れとは異なり、なんとなくだるいという感覚。
また、ちょっとした段差でよく躓くといったことが起こってきます。どちらも太腿の筋肉量が低下することで膝を引き上げることができなくなるからです。そして歩幅が小さくなるというのが最大の問題です」
歩走行の機能はピッチとストライドの2つが指標となる。ピッチは1秒ごとの歩数。ストライドは歩幅だ。このうちピッチはあまり加齢による影響を受けない。走行の場合、男性では20〜70歳まで1秒当たり4〜4.5歩というレンジに収まる。
一方、ストライドの方は加齢変化が著しい。20歳の頃には110cmだったのが、ここから一直線の右肩下がりで70歳になると65cmにまで狭まってしまうのだ。若い頃に比べてほぼ半分。ピッチは変わらず、でもストライドは小さいので必然的にチョコチョコ歩きに。
で、ちょっと歩くとすぐに疲れる。ストライドの変化は大腿四頭筋の衰えを即、反映する。歩幅が小さくなってきたという自覚がある人は用心されたし。
あなたの筋肉残高チェック!
活動量が多く代謝が高くホルモン分泌が盛んな20代。筋肉量のピークはこの時期で、あとは筋肉の残高をどれだけキープできるかが残りの人生の健康度を決める。すなわち、自分の脚でキビキビ歩いて趣味や旅行を楽しんだり社会的生活を送れるか否かの分かれ目。まずは、今の筋肉の残高がどの程度かをチェックしてみるべし。
筋肉は貯められる! 今こそ「貯筋」運動を
寝たきりライン? まだ若い自分には関係ない、と思っている人。筋肉残高のチェックはいかがだっただろう? 思った以上に残高が減っていたという人もいるはずだ。そこで福永先生が長年提唱しているのが「貯筋」という考え方。
「歳をとって筋肉が減ってきた人が風邪をひいて寝込むと寝たきりラインを切ってしまいます。でも平均以上に筋肉があると寝込んでも寝たきりラインまでかなり距離、つまり時間があります。貯筋というのは運動でこの時間を稼ぐことです」
貯筋のスタートは早ければ早いほどいい。福永先生による浦島太郎のこんなたとえ話がある。
「浦島太郎は竜宮城へ行って帰ってきて歳をとりました。竜宮城は海底なのでほとんど無重力。つまり宇宙空間にいるのと同じですから1日で1年分の筋肉を失います。
浦島太郎が30歳で竜宮城に行って1か月過ごしたら30年歳をとったということになるわけです。つまり帰ってきたときは60歳。もし浦島太郎が少しでも筋トレをしていたら30歳と1か月で帰ってこられたはずです」
自宅におこもり気味の今だからこそ、貯筋に励んだ者勝ちだ。