そいつはある日突然やってくる。背中の下の方、腰より少し上の辺りのカラダの奥に激烈な痛みが発生し、数時間にわたって情け容赦なく患者を痛めつける。その痛みは分娩よりひどいともされ、救急搬送されたり、なかには気を失う人も現れる。
しかし、しばらく経つと何事もなかったように鎮まる。治療を受けないと、この激痛の発作を何度も繰り返すことになる。これが30代以降の男性を中心に多発し、患者が年々増えている尿路結石。文字通り尿路の中に石が結晶してしまう疾患だ。
日本人男性の7人に1人、女性の15人に1人が生涯に一度は経験するという、泌尿器科領域では最多の、実はありふれた疾患だ。そして、困ったことに、回復後も約半数の人が再発を繰り返すという。
約半数の人が再発をする理由。
なぜか? 尿路結石はれっきとしたメタボリックシンドローム由来の生活習慣病だからだ。石のできやすい生活、体質を変えなければ、真の原因を除くことはできない。
さて、尿路のうち腎臓か尿管に石ができた場合を上部尿路結石、膀胱か尿道にできた場合を下部尿路結石と呼ぶ。発生頻度は圧倒的に上部尿路結石が多く、約96%を占める。さらに、結石のうちカルシウムと他の物質が結合したものが8~9割を占めるが、特に多いのがシュウ酸カルシウム結石だ。
シュウ酸はホウレンソウに多いことが知られているが、動物性タンパク質を多食しても体内のシュウ酸は濃度が上がる。カルシウムと強く結合する性質があり、消化管内で結合すると消化・吸収されにくくなり、便とともに排泄される。
だが、結合するカルシウムの量に見合わないほど大量にシュウ酸が流れてくると、シュウ酸のまま腸管から吸収され血中に侵入し、最終的には腎臓に辿り着く。ここでカルシウムに出合うと、腎臓結石となる。
腎臓内に石がとどまっている限りは、これといった症状はないが、尿路にさまよい出ると尿の流れを妨げたり、止めることになる。すると、行き場を失った尿で腎臓が腫れ上がり、激痛の発作を招く。
それを防ぐためシュウ酸の過剰摂取を避け、カルシウムの豊富な食事を心がけるのは妥当な備え。だが、結石の核は往々にして尿酸だという。出発点が尿酸なら、その材料になるプリン体の多い食事を避けるのがまずは先決(下の表参照)。
食品中のプリン体量(100g当たり)
繰り返すと腎機能が低下。人工透析も必要になる!?
この話は他でも聞いたことがあるはず。そう、痛風対策だ。実はこれらの病気の上流にあるのは、血中に尿酸が過剰になる高尿酸血症。その結果、尿路に結石ができれば尿路結石で、関節にできたら痛風。尿路結石が生活習慣病だというのは、こんな事情からでもある。
推定患者数が1000万人超とも目される高尿酸血症を放置すると、最終的には痛風か尿路結石に至る可能性は大だが、尿路結石の場合、腎臓が機能障害に陥ると、人工透析が必要になる人も現れる。腎機能に異常があると、将来大病を患った際に、使える薬に制限の生じることもある。腎機能障害は重大な事態を招く。
結石ができても、初期にはまったく自覚症状がないから、定期健診で年に一度は腎機能検査も受けよう。女性ホルモンは尿酸の腎臓からの排出を促すため、女性は男性より尿酸値は低めだが、閉経後はリスクが増す。更年期以降は女性も要注意だ。
予防の基本は食事と運動。
診断が下りると服薬治療が始まるが、自然排石が見込めないほど石が大きい場合は、尿道経由で内視鏡を挿入、レーザーで破砕して取り出すか、体外から結石にピンポイントで衝撃波を当てて砕き、尿が流し出すのを待つことになる。手術は現在この2つの術式が主流だ。
予防に関しては、この疾患が生活習慣病だと知れば想像できるだろう。食事に注意し、運動習慣を確立することだ。長時間の着座では尿路内の尿が攪拌されず結晶しやすくなるから、動かせ、揺すれ。ただし、強度の高い運動は筋肉の細胞に損傷を招き、血中にプリン体を流出させかねないから、強度の設定は慎重に!
また、長時間の有酸素運動などで水分補給を怠ると、尿の濃度が高まって石が結晶しやすくなる。ランナーに広く見られる“ジョギング結石”にはくれぐれもご用心。
それでも不幸にして罹患した場合は、再発予防のため、自然排石できたら石を検査機関で成分分析してもらおう。食生活の中の何が結石をもたらしたか、原因の一端が推測できるかもしれない。カラダからのメッセージは聞き逃すことのないように。