【加齢のトリセツ】原因は顎ではなく脳にあり? 歯ぎしりが起こる原因と対策を学ぶ
就寝時に歯ぎしりをしてしまう人は、自律神経の乱れなどから睡眠中に交感神経が優位になり、それが原因で歯ぎしりをしている可能性がある。自律神経を鎮める3分ストレッチと、認知行動療法「1分間TCHチェック」を知っておこう。
取材・文/廣松正浩 イラストレーション/八重樫王明 取材協力/白濱龍太郎(RESM新横浜院長)、有田博一(有田歯科医院院長)
初出『Tarzan』No.794・2020年8月27日発売
ストレスだけじゃない? 自律神経の乱れが誘発。
起床時に原因不明の顎のだるさやひどい肩こりが続く。そんな症状のある人は歯ぎしりをしている可能性が高い。
「昔は患者さん20~30人に1人くらいだったのが、今では10人中7~8人に歯ぎしりの形跡が見られます」と驚きの報告をするのは有田博一医師(有田歯科医院院長)だ。
日本人の8割が罹患している歯周病を治さないまま歯ぎしりが始まると、歯と歯槽骨は短期間で破綻に向かって突き進む。過去にむし歯の治療で削った歯は力学的に脆く、歯根が破折を招き、歯を失うことも。
顎は毎晩、筋トレをやっているようなものだから咬筋が発達し、エラの張った顔貌になる人も現れる。
「睡眠の質も著しく落ちて浅い眠りが増えます。睡眠時無呼吸症候群だと、無呼吸のときに歯ぎしりをしがちだという報告もあります」
歯並び、嚙み合わせに問題のある場合、歯列矯正に一定の効果は期待できそうだが、構造の修正だけで根治するのは難しそうだ。
「人は起きているとき、上下の歯を嚙み締めず、安静空隙といって2~3mmほど無意識に空けているものですが、歯ぎしりをする人は嚙んでしまっていることが多いですね」
こうした人は自律神経の乱れなどから睡眠中に交感神経が優位になり、それに対し歯ぎしりによって副交感神経に働きかけ、リラックスした状態を取り戻そうとしている可能性がある。後述するが、認知行動療法で日中の嚙み締めをやめると、自律神経の乱れを緩和できるという。
まずはセルフチェック。
- 歯茎にこぶ(隆起)がある。
- 欠けたままの歯がある。
- エラが張った顔つきだ。
- タコやビーフジャーキーなど歯ごたえのある食べ物が好きだ。
- 日中、上下の歯は接している。
- 意識して口を閉じたとき前歯が下の歯に当たっていない。
- どちらかというと出っ歯である。
- 全体的に歯が内側に倒れ気味だ。
- 朝起きると肩こりがひどい。
- 舌の縁が木の葉のような形になる日がある。
- リモート続きで無表情になった。
睡眠中のことだからわからない? いや見当はつく。上記に3個以上当てはまったら要注意。中高年以降、歯を失ったまま放置すると認知症のリスクが高くなる。歯から脳への情報量は多いのだ。歯ぎしりは歯を痛め、失う一因。きちんと向き合うべし。
歯ぎしりの物証は口内にあり。
歯ぎしり対策・3分間ストレッチ。
歯ぎしりの背後には就寝中の自律神経が、さまざまな理由で交感神経優位になっている可能性が考えられる。これに対する自然な反応としての症状だとしたら、自律神経のバランスを整えることに問題解決の糸口があるはずだ。
自身、多忙から睡眠のリズムの乱れに悩んだことのある睡眠専門医、白濱医師(RESM新横浜院長)が、みずから練り上げたメソッドをご紹介しておく。どれも1動作が短時間で済むから、忙しい人の一日の終わりにも習慣化しやすいはず。これで自律神経が安定すれば、ムダな力が抜け、安らかに眠れるだろう。
① 風呂場で首の付け根を揉む(1分)
② 肩甲骨を大きく動かす(1分)
③ ベッドの上で深呼吸(1分)
安静空隙を習慣化しよう。
3分間ストレッチにプラスして「1分間TCHチェック」も。前述した認知行動療法のターゲットはTCH=Tooth Contacting Habit、つまり上下の歯の接触習慣。力を入れずとも、接触させているとそれが快感になる人がいる。ここから抜け出すには、チェックと安静空隙の維持を習慣化しよう。
本来、歯は嚙み締めないもの。安静空隙は2~3mm。接触するのは食事のときぐらいだが、そうだとしても嚙みちぎりでもする瞬間以外は、接触するほど嚙み合わすことは普通ないはず。歯は緩やかに空けよう。
赤いシールなどを職場や家庭のあちこち、パソコンの画面などにも貼り、目に入ったら歯を嚙み合わせていないかチェック。これを習慣化すると日中の疲労予防にもよさそう。
治療法としてはこんなものも。
① とりあえず歯槽骨と歯の保護にはマウスピース。
歯ぎしり癖を直接治すものではないが、緊急避難策としてマウスピースを使うのは一つの選択肢。歯科でオーダーメードを希望すれば保険が適用される。ネット通販でも入手でき、量産品には1000円を切るものもある。
② 咬筋の緊張をほぐすには、なんとボトックスも効く!
主に女性が美容のために注射しているボトックスは、脳から咬筋に伝わるシグナルに干渉、遮断することで咬筋に力が入りにくくして、就寝中の嚙み締めを抑える。歯ぎしり解消に加えて、ついでに小顔になれるかもね。