年を取ると、むし歯がそーっと戻ってくる。
「歯周病の真実」と題した「Tarzan WEB」の記事では、現在日本人が歯を失う最大の原因は歯周病だと指摘した。
その際に参照した8020推進財団の統計には、むし歯(う蝕)が僅差で2位に入っていた。むし歯と聞くと、菓子類を好む子どもの病気のように思いがちだが、実はいま“大人むし歯”がひそかに問題になっている。
むし歯は食後のケアが不十分な人の口の中で、食べかすを常在菌が食べ、乳酸を作り出し、この酸が歯を溶かすことで発生、進行する。
だから、食べかすが溜まりやすい嚙み合わせ面の溝や歯と歯の間、歯と歯肉の境界などに多発する。
だが、大人の間で増えているむし歯は、これとは違う箇所でも発生しがちだ。昔の治療で被せてもらった詰め物と歯のわずかな隙間や、歯茎が後退したため顔を出し始めた象牙質に多いのだ(下記の図参照)。
詰め物と歯の隙間にできるむし歯を二次う蝕というが、これは中高年だけの問題ではなく、詰め物をしている人は全員リスクを負う。
詰め物には食事のたびに何度も大きな力が加わるから、詰め物自体が耐えてくれたとしても、接着しているセメントなどは劣化が避けられない。使い続ければ、いつかやむを得ず疵や隙間を生じるものなのだ。
その歯が失活歯(治療で神経を取り除いた歯)ならば、痛みを伴わないことも多く、発見が遅れやすいために重症化しがちになってしまう。
歯茎が後退したため露出した象牙質のむし歯を根面う蝕という。
なぜ、ここをやられるか? 実はエナメル質と象牙質は組成が異なるのだ。エナメル質はミネラルが96%を占め、もともと硬い。一方、象牙質はミネラルが70%でコラーゲンが20%、水も約10%含む。内部に細管が走り、血管からの浸出液が常に流れる。血の通わない硬組織であるエナメル質と違って、生きた組織であり、相対的に軟らかいため、酸による被害を受けやすい。
しかも、根面う蝕は起こっても気づかない人が多い。普段あまり見ないし、痛みを感じにくい箇所だ。
平成28年の「歯科疾患実態調査」は、20歳以上の9割以上がむし歯を経験しているのに、3割が未処置のむし歯を持つという。この調査結果の背景には、こういう中高年特有の事情も隠れている。
フロスの併用は必須。
こちらの記事では、最後の治療、検査から3か月を過ぎたら歯科を受診すべしとも書いた。
定期的に医師に診てもらえれば、むし歯は早期発見できるはず。そのためにも、何ら自覚症状がなくても、定期的な歯科受診は一生にわたって続けるべきものだ。
だが、日々のクリーニングは人任せにできない。食事が済んだら即座に歯を磨き、食べかすを取り除こう。食べかすがどこに残存しやすいかを考えたら、デンタルフロスや歯間ブラシの併用も重要になる。
歯間部の歯垢除去率を比べると、歯ブラシだけでは58%だったが、デンタルフロスを併用すると平均86%となった。実に1.5倍だ(山本他、日本歯周病誌、1975)。
これでデンタルフロスを使うべき理由はわかるだろうが、歯ブラシの除去率の低さも問題だ。実はうまく磨けていない人が意外に多いのだ。というのも、歯の汚れを落とそうと意識する人ほど、強い力で磨く傾向が顕著なのだ。
強い力でごしごし磨くと、実は歯と歯の間にブラシは届きにくく、刷掃性は低下してしまう。おまけに力、動きの大きすぎるオーバーブラッシングは歯肉の後退の一因。もちろん、寿命の尽きた歯ブラシも刷掃性を低くする。
歯ブラシの振幅は5~10mmを目安に、歯1~2本ずつのつもりで丁寧に磨くのが吉。当然、時間はかかるが、本来かけるべきもの。だが、絶望的に忙しい。そういう人こそ電動歯ブラシを活用すべし。上手に使えば手磨きの8倍くらいの刷掃効果が期待できるという報告もある。
なお、今回失活歯に触れたが、若いときの治療で神経を除去した歯は死んだ歯。年を重ねるにつれダメージだけを蓄積し、ある日遂に裂けたり、砕けることがある。これを破折と呼ぶが、定期的にしっかり受診している人が歯を失う原因では、実はこれも非常に多い。
破折の起きた箇所を放置すると細菌が増殖し、歯周組織の炎症を招く。破折が起きたら大至急受診せよ!