• 【グラフでわかる】大人のむし歯。口腔内環境も自然と年を取る
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2020.05.29

【グラフでわかる】大人のむし歯。口腔内環境も自然と年を取る

大人むしば
場所によって当て方を変えよう!/届かせにくい奥には、歯ブラシの“爪先”で。側面は歯ブラシを立てて“脇”で磨く。手前の箇所は“踵”を突き立てる要領で。場所によって当て方を工夫しよう。

昔、治療した箇所はもう悪くならない? 現実は、歯医者に行きたくなくて、違和感に気付かぬふり。詰め物には寿命があるし、よくない歯磨きで後退した歯肉の向こうでは恐ろしいことが…。

年を取ると、むし歯がそーっと戻ってくる。

「歯周病の真実」と題した「Tarzan WEB」の記事では、現在日本人が歯を失う最大の原因は歯周病だと指摘した。

その際に参照した8020推進財団の統計には、むし歯(う蝕)が僅差で2位に入っていた。むし歯と聞くと、菓子類を好む子どもの病気のように思いがちだが、実はいま“大人むし歯”がひそかに問題になっている。

むし歯は食後のケアが不十分な人の口の中で、食べかすを常在菌が食べ、乳酸を作り出し、この酸が歯を溶かすことで発生、進行する。

だから、食べかすが溜まりやすい嚙み合わせ面の溝や歯と歯の間、歯と歯肉の境界などに多発する。

だが、大人の間で増えているむし歯は、これとは違う箇所でも発生しがちだ。昔の治療で被せてもらった詰め物と歯のわずかな隙間や、歯茎が後退したため顔を出し始めた象牙質に多いのだ(下記の図参照)。

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大人むしば
詰め物の陰、後退した歯肉の奥に。/歯ブラシに加える力、動きの大きすぎるオーバーブラッシングの他に、歯周病でも歯肉は後退していく。
大人むしば
場所によって当て方を変えよう!/届かせにくい奥には、歯ブラシの“爪先”で。側面は歯ブラシを立てて“脇”で磨く。手前の箇所は“踵”を突き立てる要領で。場所によって当て方を工夫しよう。

詰め物と歯の隙間にできるむし歯を二次う蝕というが、これは中高年だけの問題ではなく、詰め物をしている人は全員リスクを負う。

詰め物には食事のたびに何度も大きな力が加わるから、詰め物自体が耐えてくれたとしても、接着しているセメントなどは劣化が避けられない。使い続ければ、いつかやむを得ず疵や隙間を生じるものなのだ。

その歯が失活歯(治療で神経を取り除いた歯)ならば、痛みを伴わないことも多く、発見が遅れやすいために重症化しがちになってしまう。

大人むし歯
大多数の人に根面う蝕のリスクが!/40代では男女ともに80%以上の人に、50代の男性はほぼ全員に歯肉の後退が確認できた。
出典/『根面う蝕の臨床戦略』(杉原ら/クインテッセンス出版、2018年)

歯茎が後退したため露出した象牙質のむし歯を根面う蝕という。

なぜ、ここをやられるか? 実はエナメル質と象牙質は組成が異なるのだ。エナメル質はミネラルが96%を占め、もともと硬い。一方、象牙質はミネラルが70%でコラーゲンが20%、水も約10%含む。内部に細管が走り、血管からの浸出液が常に流れる。血の通わない硬組織であるエナメル質と違って、生きた組織であり、相対的に軟らかいため、酸による被害を受けやすい。

しかも、根面う蝕は起こっても気づかない人が多い。普段あまり見ないし、痛みを感じにくい箇所だ。

平成28年の「歯科疾患実態調査」は、20歳以上の9割以上がむし歯を経験しているのに、3割が未処置のむし歯を持つという。この調査結果の背景には、こういう中高年特有の事情も隠れている。

フロスの併用は必須。

こちらの記事では、最後の治療、検査から3か月を過ぎたら歯科を受診すべしとも書いた。

定期的に医師に診てもらえれば、むし歯は早期発見できるはず。そのためにも、何ら自覚症状がなくても、定期的な歯科受診は一生にわたって続けるべきものだ。

だが、日々のクリーニングは人任せにできない。食事が済んだら即座に歯を磨き、食べかすを取り除こう。食べかすがどこに残存しやすいかを考えたら、デンタルフロス歯間ブラシの併用も重要になる。

歯間部の歯垢除去率を比べると、歯ブラシだけでは58%だったが、デンタルフロスを併用すると平均86%となった。実に1.5倍だ(山本他、日本歯周病誌、1975)。

これでデンタルフロスを使うべき理由はわかるだろうが、歯ブラシの除去率の低さも問題だ。実はうまく磨けていない人が意外に多いのだ。というのも、歯の汚れを落とそうと意識する人ほど、強い力で磨く傾向が顕著なのだ。

大人むしば
熱心な人ほど力が入り過ぎている。上/歯磨き時に歯垢除去を意識する20代~60代の男女約1000人に調査。どちらかといえばやさしく磨くか、強く磨くかで回答。左/キッチンはかりで力加減を覚えよう。150~200gが適正値。強すぎると磨きの精度も低下する。
2019年3月ライオン調べ

強い力でごしごし磨くと、実は歯と歯の間にブラシは届きにくく、刷掃性は低下してしまう。おまけに力、動きの大きすぎるオーバーブラッシングは歯肉の後退の一因。もちろん、寿命の尽きた歯ブラシも刷掃性を低くする。

歯ブラシは、月イチくらいで新品に替えよう。
月イチくらいで新品に替えよう。/上は新しい歯ブラシの歯垢除去率を100%とした場合の相対的な歯垢除去率。節約も度を越すと歯垢のモト。

歯ブラシの振幅は5~10mmを目安に、歯1~2本ずつのつもりで丁寧に磨くのが吉。当然、時間はかかるが、本来かけるべきもの。だが、絶望的に忙しい。そういう人こそ電動歯ブラシを活用すべし。上手に使えば手磨きの8倍くらいの刷掃効果が期待できるという報告もある。

なお、今回失活歯に触れたが、若いときの治療で神経を除去した歯は死んだ歯。年を重ねるにつれダメージだけを蓄積し、ある日遂に裂けたり、砕けることがある。これを破折と呼ぶが、定期的にしっかり受診している人が歯を失う原因では、実はこれも非常に多い。

大人むしば
40代以降、破折で歯を失う人が増える。/代謝を失活歯は枯れ枝のようにもろくなっていき、ある日物理的限界を迎えることも影響する。
出典/「永久歯の抜歯原因調査」(8020推進財団、2018年)

破折の起きた箇所を放置すると細菌が増殖し、歯周組織の炎症を招く。破折が起きたら大至急受診せよ!

取材・文/廣松正浩 イラストレーション/横田ユキオ 取材協力・監修/若林健史(日本歯周病学会理事、若林歯科医院院長、歯学博士) 資料提供・歯磨き指導/ライオン

初出『Tarzan』No.787・2020年5月14日発売

Tarzan 公式アカウントから
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