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実はカラダに良くない! 筋トレの4つの間違い

カラダを動かすは吉。でも陥りがちな落とし穴も数知れず。あなたのその運動、大丈夫? 今回は必要最小限の努力でヘルシーボディを手に入れるために、科学的根拠を踏まえた筋トレのやり方を学ぼう。

筋トレのNGと、改善指南。

「運動をカプセル化できたら、どんなクスリよりも有効だろう」

多くの医師たちがそう認めるほど、運動には病気をブロックして健康力を高める優れた作用がある。

ところが、日本人で運動習慣がある人は、男性で3人に1人、女性で4人に1人にすぎない。

しかも、クスリに副作用が付き物なように、運動は効果的な反面、やり方次第ではマイナスに作用することだって考えられる。そこで、ここでは筋トレに関する、カラダに悪い運動習慣をピックアップ。それをどう変えるべきかを指南する。

エビデンス(科学的証拠)を踏まえたやり方で運動を生活に取り入れ、病気知らずで健康診断に怯えない無敵のコンディションを手に入れよう。

間違い①「痩せるために筋トレ」

太っていると高血圧や高血糖などに悩まされる。前述のように、太った人には減量が何よりのクスリ。痩せるなら食事と運動の両輪がいいけれど、筋トレには運動中にカロリーを消費するだけでなく、代謝を上げて太りにくい体質へ導く働きもある。

なぜ筋トレをすると太りにくくなるのか。

筋肉は安静時でも活動し、体脂肪を燃やして体温を保つ。1日の消費エネルギーの60%ほどはじっと動かないときでも使う基礎代謝で、そのうち約20%はこうした筋肉の活動。

だから筋トレで筋肉が増える→基礎代謝が上がる→消費カロリーが増えるという嬉しいドミノ倒しがあり、太りにくい体質が手に入るのだ。

筋肉の重さと1kg当たりのカロリー消費量
筋肉の重さと1kg当たりのカロリー消費量標準体型で筋肉(骨格筋)の重さは28kg。1kg当たりのカロリー消費量は1日13kcal、カロリー代謝全体に占める割合は22%にすぎない。13kcalは200mのランでのカロリー消費量に等しい。
Elia, 1992

それでも筋トレで短期的な減量を試みるのは筋違い。

「筋肉を1kg増やしても、1日13キロカロリー代謝を上げるだけ。体脂肪1kgは7,000キロカロリーですから、筋肉を1kg増やしても、体脂肪を1kg減らすのに18か月以上かかる計算です」(同志社大学スポーツ健康科学部の石井好二郎教授)

筋肉を1kg増やすには、真面目に励んでも2〜3ヶ月かかる。減量目的でカロリー消費を目論むなら、有酸素運動の方が遥かに手っ取り早い。

体重70kgなら、たった200m走るだけで筋肉1kg分の13キロカロリーが消費できるのだ。運動は筋トレと有酸素をバランスよく行おう。

間違い②「プランクで体幹を鍛える」

手足を除いた胴体部分を鍛える体幹トレはメタボ世代にも大人気。

体幹が強くなると腰痛の予防・改善になるし、スポーツのパフォーマンスも高まる。姿勢が定まって大きなパワーが出せるようになるから、健康増進のために始める筋トレやランの土台作りとしても役立つ。

いいことずくめだが、間違った体幹トレをしている人は少なくない。

いわゆる体幹トレでポピュラーなのは、うつ伏せになって体幹を支えるプランク、ヘソを引き込むようにお腹を引っ込めるドローインなど。ところが、プランクのように体幹を固定してフリーズさせたり、ドローインしたりするトレーニングは、本当の体幹トレとは呼べない。

プランクは体幹トレとは言えない

「重いものを持ち上げる寸前、無意識にウッとお腹に力を入れることからわかるように、人は大きな力を出す前に体幹を固めて腹圧を高め、それから手足を動かす。腹圧を高めるのが体幹トレの狙いですが、プランクやドローインは姿勢を固定しているだけ。腹圧は高まらないので体幹トレとは言えません」(パーソナルトレーナーの齊藤邦秀さん)

腹圧を高めるなら、体幹を固めて手足を動かすスクワットなどの通常の筋トレを丁寧に行った方がいい。プランクなら動きに応じて腹圧を変化させるやり方を試してみよう。

動的なプランクで腹圧を高める方法
動的なプランクで腹圧を高める方法
プランクで姿勢をキープしたまま、両手と両足を交互に動かして前に進んでみる。着地時に衝撃を受け止めるように腹圧を高めてやると、体幹が鍛えられる。

間違い③「重たい負荷で鍛える」

30歳以降、筋肉は年1%ずつ減る。それを放置するとカラダが重くなり、NEATも自然に減る。筋肉とNEATの減少は肥満とそれに伴う不調を招くから、それを防ぐうえでも筋トレは重要。短期間の減量を望むのはお門違いだが、筋トレで筋肥大を目指すのは決して無駄ではない。

かといっていきなり重たいダンベルで鍛え始めるのはNG。

筋トレで筋肥大を促すには強めの負荷がいる。その下限を「有効限界」と呼ぶ。一方、負荷が強すぎると故障などの危険が高まる。その上限を「安全限界」と呼ぶ。有効限界と安全限界の幅が「運動許容量」。いわば筋トレの自由度である。

「有効限界は加齢や体力であまり変化しませんが、安全限界は若く体力がある人ほど高くて自由度も上がります。加齢で体力が落ちるほど安全限界が負荷限界に近づき、自由度が下がる。運動不足で自由度が下がった人は安全な筋トレで鍛えることを最優先すべきです」(石井先生)

スロトレでも高強度トレと同等の筋肥大効果
スロトレでも高強度トレと同等の筋肥大効果
50%1RM(一度に30回以上できる負荷)という低強度トレでは、80%1RM(一度に8回程度しか反復できない負荷)という高強度トレと比べて筋肥大は起こりにくい。だが50%1RMでもスロトレだと高強度トレと同等の筋肥大がある。
Tanimoto & Ishii: J Appl Physiol 100: 1150-1157, 2006

体力に自信がない中年以降にもセーフティな筋トレとして石井先生が勧めるのはスロトレ。ゆっくりカラダを動かして筋肉に低酸素状態を作り出し、筋肥大を誘発させる方法だ。自体重でも安全に行えて、きちんと筋肥大が起こるのが利点である。

効果的なスロトレのやり方
効果的なスロトレのやり方
スロトレ(スロートレーニング)はその名の通り、ゆっくり動くのがコツ。スクワットなら3秒でしゃがみ、3秒で立ち上がる。関節を完全に伸ばし切らず、ノンロックで運動を続けよう。10〜12回×3セットで。

間違い④「バランスボール上でダンベルトレ」

気軽なエクササイズギアとしてすっかり定着したのがバランスボール。巨大なゴム製ボールで、ジムなどにも当たり前のように置いてある。

バランスボールは床と点で接して挙動が不安定なのが特徴。その上に乗ったり、仰向けになったり、手足を置いたりすると、バランスを取るために多くの筋肉が鍛えられる。

バランスボールトレは筋肥大には向いていない

バランス力の向上には、ボールを使ったトレーニングは有効だが、筋肥大での健康作りを狙う筋トレには、はっきり言って向いていない。

「筋肉を大きくしたいなら、筋トレはターゲットの筋肉だけをピンポイントで鍛えるのが鉄則。そのために姿勢をできるだけ安定させて、特定の筋肉のみを動かします。これをアイソレーションと呼びます。このアイソレーションが難しいので、初心者がボールを使って筋トレをするのは控えるべきです」(齊藤さん)

ボールに坐ったり、ベンチの代わりに仰向けになったりしてダンベルトレをする人もいるが、それはきっとボール上でも楽々アイソレーションできちゃう上級者。

ビギナーが見よう見まねでチャレンジすると、アイソレーションができなくて期待した成果が得られないばかりか、転倒してダンベルなどで思わぬ怪我を負う可能性すらある。くれぐれも気をつけよう。

取材・文/井上健二 撮影/山城健朗 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/天野誠吾 イラストレーション/3rdeye 取材協力/石井好二郎(同志社大学スポーツ健康科学部教授)、齊藤邦秀(ウェルネススポーツ)

初出『Tarzan』No.784・2020年3月26日発売

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