1日1万歩の新定説。1日15分の速歩だけで健康を保つ3つのコツ
取材・文/井上健二 イラストレーション/イオクサツキ 取材協力/能勢 博(信州大学医学部特任教授)
初出『Tarzan』No.784・2020年3月26日発売
目次
正しく歩いて健康促進&維持。もう健康診断は怖くない。
健康のために運動が必要なのは誰でも知っている。なかでもいちばん人気なのは、ウォーキングだ。笹川スポーツ財団によると、運動・スポーツでは散歩・ウォーキングの実施率がもっとも高く、週1回以上実施している人は約33%に達する。
ウォーキングは特別な道具も技術も不要だから手軽だし、自宅周辺で行えるからコストゼロでコスパ最高。それで健康になれるなら御の字だ。ならば、どう歩けばいいのか。
健康のためのウォーキングと聞いてまず頭に浮かぶのが、「1日1万歩」という目標。1日1万歩が健康にいいというのは長らく常識だったが、それが最近大きく揺らいでいる。
「漫然と1万歩歩いても、健康になるとは限らない。ただ歩くだけでは、いくら長く歩いても期待するほど生活習慣病のリスク軽減にならないことが科学的に証明されています」(信州大学医学部の能勢博特任教授)
体力アップや健康増進のために行うエクササイズには、量と質という2つの側面がある。1日1万歩は単に量の目安を示しているだけ。どのくらいのペース(速さ)で歩くかという質の基準を伴っていない。近年ウォーキングは量を追求するだけではなく、ペースを速めて強度を上げ、質を高めることこそ重要だとわかってきた。そこで能勢先生が提案するのが、本人が「ややきつい」と思える速歩とゆっくり歩きを交互に繰り返す「インターバル速歩」である。
1日1万歩歩く習慣自体は立派。しかし、強度という新たな視点で見ると、ウォーキングは最強の健康エクササイズになるのだ!
スピード:「ややきつい」または最大心拍数の60%で歩く。
速歩の基準となるのは、自覚的に「ややきつい」と思える速度。隣を歩く人と、辛うじて会話が交わせるペースである。これ以上だときつすぎて長続きしないし、これ以下では強度が低すぎて適応反応が起こりにくい。 心拍数が測れるなら、最大心拍数の60%前後で歩く。強い運動ほど筋肉はより多くの血液を求めて心拍数が上がるから、強度の目安となる。
最大心拍数は「220-年齢」という公式で求める。あとは安静時心拍数を測り、上の公式で求める。スマートウォッチや活動量計は心拍数がリアルタイムにわかって便利。心拍計がないなら、手首内側の親指の付け根に反対の手の人差し指から中指を当てて脈拍を15秒測り、4倍して求める。
フォーム:ランニングと同じように、フォームにも意識を向ける。
猫背でトボトボ歩くようなフォームでは速歩は行えない。スローテンポの散歩ならどんなフォームで歩いても何も問題ないけれど、速歩ではランニングと同じようにフォームに気を配りたい。
まずは視線を25mくらい先に置く気持ちで背すじを伸ばし、胸をきちんと張る。
次に大股で膝を伸ばして踵から着地する。大股だと下半身の大きな筋肉が動員できるから疲れにくいし、推進力も得やすくてテンポ良く歩ける。
そして肘を90度に曲げて、引くことを意識して前後に大きくスイングしよう。
余裕があれば、ウォーキングの前後にはストレッチを行い、筋肉と関節をほぐしておきたい。
プログラム:速歩を1日15分×4回、1週間トータル60分行う。
インターバル速歩の基本は、3分の速歩と3分のゆっくり歩きを1日5セット。つまり速歩15分+ゆっくり歩き15分=30分。まとめて時間が取れないなら、朝2セット、昼1セット、夜2セットと分割してもOK。
大切なのは速歩が1日計15分以上になること。「速歩2分+ゆっくり歩き2分」×8セットや、「速歩5分+ゆっくり歩き5分」×3セットでもいい。
頻度は週4回。1週間の速歩が計60分を超えることが重要なので、平日忙しい人は週末にまとめて20セットやってもいい。
「初めの2週間は1日2セットでもOK。痩せる、よく眠れるといった前向きな変化が出てやる気が出たら、セット数を増やしましょう」(能勢先生)