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“スリップインするだけ™”じゃない!《スケッチャーズ スリップ・インズ》快適学。
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錦織圭も在籍していた最高峰のスポーツ教育機関「IMGアカデミー」。そのアジアトップを務める田丸尚稔氏がアメリカで実際に見た、聞いたスポーツの現場から、日本の未来を変えるヒント。
快進撃だった。2019年のラグビーワールドカップが日本で開催され、日本代表の前人未到のベスト8進出にはラグビーファンも、そうでない人も多くが熱狂した。代表戦のテレビの瞬間最高視聴率は50%を超えるなど驚異的な数値を叩き出し、街のそこここでパブリックビューイングが開かれ、代表ユニフォームに身を包んだ老若男女で埋め尽くされていた。
このブームがブームのまま終わるのか、新しいムーヴメントとして根付くのかは注目していきたいところだが、その一方で「ラグビー」繫がりでとても興味のあるニュースが報じられていた。それが、「ザ・ナイン」と呼ばれる、9つある英国の名門校の一つであるRugby School(ラグビー校)が2022年に日本校を開校するというものだ。
Rugby's school in Japan will include an enrichment campus on Hokkaido, where Rugbeians across the family of schools will spend time each year.
For more information head to: https://t.co/ucG4QYjGPH#wholepersonwholepoint pic.twitter.com/xlspJx9sil
— Rugby School (@RugbySchool1567) October 24, 2019
ラグビー校の設立は1567年。その名前から想像できる通り、ラグビーという競技が誕生した場所でもある。1823年、地元の生徒だったウィリアム・ウェッブ・エリスがフットボールの試合でボールを腕に抱え走ったことが、ラグビーの始まりとなったとされている。
そんな名門校が中高一貫の寄宿制(通いも可能)の姉妹校を開校し、まずは750名を東京で募ることになった。いずれは関西、そして北海道と拡大も目指しているという。授業は英語で提供され、本校がそうであるように、卒業生はオックスフォード大学やケンブリッジ大学など英国の名門大学への道が開けるのは想像に難くない。
ではなぜ、彼らは日本という場所を選んだのか。日本の少子化傾向は世界の中でも自明で、中高生を対象とした教育産業としてはマーケットの縮小は避けられない。それでも東京、関西、北海道と日本で広く展開するのは、この国をアジアの中の重要な拠点と位置づけているのは間違いないだろう。つまり、募集する生徒はなにも日本人に限らず、海外からも受け入れるのを見越している。
冒頭のラグビーワールドカップの話題に戻りたい。今回に限らず、ラグビーの日本代表には、外国出身者が多く在籍する。帰化した選手だけでなく、日本国籍がなくとも居住年数が一定の期間を超えるなど条件を満たせば代表選手になることができるからだ。
だから、今大会でも「日本人」とは、あるいは「日本」とは何なのか、議論を引き起こし、再定義する大きなきっかけを作った。
ニュージーランド出身で高校時代に日本に留学し、2013年に日本国籍を取得した主将のリーチ マイケルは、大会を通じて日本の「多様性」の強さを語っていた。ニュージーランド以外にも南アフリカや韓国などさまざまな出身地、バックグラウンドを持った選手が個性を爆発させ、それを会場で、パブリックビューイングで、あるいはテレビの前で老若男女が歓喜し、日本は「One Team」になった。皆が同一化するのではなく、多様は多様のまま、一つの大きな力になったのである。
ラグビーに限らず、世界で活躍するトップアスリートたちを見ると、同様のことを感じる。
日本代表としてオリンピックを戦うことを正式に発表したテニスの大坂なおみは日本で生まれ、3歳で渡米し、現在の拠点はフロリダ州に置く。同じくテニスの錦織圭は13歳で海を渡り、今もフロリダ州にあるIMGアカデミーを練習拠点にしている。ベナン人の父と日本人の母を持つ八村塁は米国の大学からNBAへと進んだ。100m走の日本記録を持つサニブラウン・ハキームは父がガーナ人、母が日本人で、現在はフロリダ大学に籍を置いている。IMGアカデミーで80か国から集まる生徒と切磋琢磨する日本人たちも、言語もバックグラウンドもさまざまで、世界の多様な環境で多様なまま戦っている。ラグビー日本代表と同様、グローバル化の時代に未来を担う象徴的な存在と言っていいだろう。
ラグビーワールドカップとラグビー校の日本進出が同時に起こったことは、単なる名前の一致だけでなく、国際的な環境で日本が生きるための大きな示唆を与えていると私は思う。
日本から海外へチャレンジすることがより一般的にならざるを得ないだろうし、既存の学校がこぞって国際化を目指すと同時に、海外の学校が日本にやってくることによって、日本国内で学ぶ外国人の数がより増えていくのは間違いない。
そして「日本人」あるいは「日本」とは何か、より議論が活発になるだろう。ラグビー校の学校長であるピーター・グリーンが東京で開かれた会合で「ラグビー日本校は英国のラグビー校が掲げる志と精神を正統に継承しながらも、日本の文化的なコンテクストを大事にしていく」と述べた。これからの“日本の文化的なコンテクスト”は、ラグビー日本代表を見てもわかる通り「日本人らしさ」と漠然と思い浮かべる単一性には留まってはいられない。むしろ定義しないくらい、多様性を認めることが前提になっていくのだろう。
田丸尚稔(たまる・なおとし)/1975年、福島県生まれ。出版社でスポーツ誌等の編集職を経て渡米。フロリダ州立大学教育学部にてスポーツマネジメント修士課程を修了。2015年からスポーツ教育機関、IMGアカデミーのフロリダ現地にてアジア・日本地区代表を務める。
文/田丸尚稔
(初出『Tarzan』No.777・2019年11月28日発売)