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朝晩のブラッシングだけでは不十分?
皆さんは歯のケアについてどの程度意識しているだろうか。
「朝晩ちゃんと磨くし、虫歯になれば歯医者にも行く。それで十分では?」
確かに“歯の表面”はそれでいいかもしれない。しかし“歯茎”のケアを怠ったまま年齢を重ねると、大きな問題が出てくる。それが歯周病だ。ほとんどの人は自分には無関係と考えているかもしれないが、歯周病は思った以上に身近で怖い疾患である。
10月に東京で開かれた〈歯の健康シンポジウム 2019秋〉では、口腔ケアについて一家言を持つ堀江貴文さんをゲストに迎え、ビジネスパーソンが歯周病を抱えるリスクの大きさ、そしてケアの重要性などが語られた。その模様をお伝えしよう。
50代以降は“歯周病で歯が抜ける”。
堀江さんの登壇の前に、まずは歯周病についてのレクチャーを。
シンポジウムは日本歯科医師会常務理事・小山茂幸医師による講演『ビジネスパーソンの歯科疾患』からスタートした。
「日本歯科医師会と厚生労働省では、平成元年より80歳で20本以上自分の歯を残すことを目標とした〈8020運動〉を推進しています。それは生涯自分の歯でおいしく食べられるように、健康寿命を少しでも長くできるようにとの意図があります。
当時は80歳で20本の歯が残っているのが7%程度だったところ、2017年には51.2%まで引き上げたのです」(小山さん)
その一方で、平均20本以上の歯が残るのは多くが69歳までで、70歳を越えるとガクンと減っていくのが実情だという。小山さんは「今後は70歳以上でも平均20本以上自分の歯が残るようにする必要があります」と続けた。
さらに小山さんは、歯が抜ける年齢別の要因として「若い世代では虫歯が、50代以降は歯周病が多くなります」と述べる。では、そもそも歯周病で歯が抜けるとはどのようなメカニズムによるものなのか。
歯と歯茎の間で、細菌が繁殖する。
「歯周病は歯と歯茎の間に汚れ(プラーク)が溜まり、細菌が繁殖して歯茎が腫れる歯肉炎から始まります。歯肉炎を放っておくと炎症が拡がり、歯を支える骨を溶かすことでグラグラになり抜けてしまうのです」(小山さん)
歯周病でやっかいな点のひとつは、初期段階では自覚症状がほとんどないこと。やがて歯がグラグラになるなど、症状を自覚した時点ではすでにかなり進行してしまっていて、治療が難しいケースも多いのだとか。
「だからこそ定期的な歯科検診が必要なのです。現状、日本で定期的に歯科検診に通う人の割合は2割程度ですが、もっと多くの人に受けていただきたいと思います」
そしてもうひとつ。近年では歯周病が認知症や糖尿病といった重大な疾患とも相関関係にあることがさまざまな研究から明らかになっている。つまり歯周病予防は口腔ケアに留まらず、命に関わる問題といっても決して大げさではないのだ。
なぜ日本人は歯周病対策に無関心?
続いて堀江貴文さんが登壇。『パフォーマンスを向上させる、歯と口の健康意識改革』をテーマに小山さんと対談を行った。
堀江さんは予防医療を推進、啓発するプロジェクト「予防医療普及協会」の立ち上げに携わっており、日本人の歯周病対策に危機感を抱くひとりである。
「多くの日本人が歯周病対策や口腔ケアに無関心なのは、現状の保険制度に問題があると考えています。歯科検診に行かないばかりか、歯を磨かない日があるような人も少なくないですが、この人たちの行動を変容させるのは並大抵のことじゃない。
もうひとつ言えば、デンタルケアに関わるメーカーは歯科検診の重要性をもっと広めるべきだと思います」(堀江さん)
確かに、歯が悪くなれば歯医者で保険を使って簡単に、比較的安価に治療できるのが日本の現状。それでは自然と「予防」には考えが至らなくなってしまうというわけだ。
治療の際のみならず、定期的に歯科に通い、歯石のチェックや正しい歯磨きの指導、ケア方法を指南してもらうことで初めて歯周病予防が可能になるという。つまり普通に歯磨きしているだけでは不十分なのだ。
小山さんも「歯周病予防には歯科医の管理が不可欠です」と堀江さんの意見に同調する。
「口が臭い人は相当意識が低い」
「皆さんは虫歯ができたら必ず歯医者に行きますよね? 虫歯はそれで治りますし、普段からきちんと歯磨きを行っていればある程度防げます。
しかし歯周病の原因となる歯肉溝や歯周ポケットのプラークの除去には、歯間ブラシやデンタルフロスを使ってケアする必要がある。これらも歯ブラシとセットでもっと広まるべきなんです」(堀江さん)
予防医療普及協会がリリースしている口臭通知代理サービス「くちくさえもん」を使うのもひとつの歯周病の予防法、と堀江さん。これは口臭が気になる相手のメールアドレスがわかれば誰でも利用でき、依頼者に代わり匿名で「あなたは臭っていますよ」と知らせてくれるサービス。
歯周病に罹るとメチルメルカプタンが大量に発生し強い悪臭を放つため、指摘されることで歯周病に気が付きやすくなる。
「口が臭いにもかかわらずほったらかしにしている人は、相当意識が低いですよね。誰だって口臭がする相手と話すのは嫌ですし、それが営業成績などにも関わってきてビジネス上も損することが多いはず。少なくとも僕は口臭がする人には近づきたくないですもん。
だから、毎年の健康診断において歯周病チェックを加えるなどして、もっと企業が組織的にスタッフの歯周病予防に力を入れることも必要でしょう。とにかく皆さんにはもっと歯医者に行かなきゃ、という危機感を持ってほしいんです」(堀江さん)
既に歯科検診に積極的に取り組む企業もある、と小山さん。
「自動車部品メーカーの〈デンソー〉では、地域の歯科医師会と連携して社員向けに無料の歯科検診を実施しています。最初の2年間は検診費で医療費が高くなったのですが、その後は社員間の予防医療への意識が高まったことで、全体の医療費が下がるという明らかな効果が出ている。そうした取り組みがもっと広がるといいですよね」(小山さん)
歯周病の怖さは“痛みがない”こと。
冒頭でも小山さんが触れたが、「歯周病は痛みがないのが怖い」と堀江さん。
「言うなれば糖尿病と同じサイレントキラーなんです。糖尿病も自覚症状がないまま知らず知らずのうちに進行して、最悪の場合末梢神経を侵されて目が見えなくなったり脚を切断する羽目になる。
歯周病でいつの間にか歯が抜けるということも絶対に避けてほしいですね。僕は長年お世話になっている歯科医から普段のケアを厳しく指導されているので、朝晩しっかりブラッシングするのと、就寝前に歯間ブラシやデンタルフロスを使って歯の隙間の歯垢を必ず取っている。
あとは3か月に一度必ず検診に行って歯石を取り、クリーニングを行っている。そこまでしてようやく及第点が貰えるレベルかなと思っています」(堀江さん)
すぐできる対策はバス法&スクラビング法。
シンポジウムの最後には、歯科衛生士・濱田真理子さんによる正しいブラッシング講座も。
「歯周病を予防するうえで効果的な磨き方が2つあります。一つは歯ブラシの毛先を45度の角度で歯と歯肉の境に当てて軽い力で小刻みに動かし、歯周ポケットの汚れを落とすバス法。もう一つは、歯ブラシの毛先を歯に直角に当て、力を入れずに小刻みに動かして歯垢を除去するスクラビング法です」(濱田さん)
口腔ケアに無関心だった方も、このシンポジウムの内容から学べることは多いはず。
適したケアグッズを選び、セルフケアとプロ(歯科医)のケアの相乗効果で歯周病予防を。歯もカラダの一部と考えれば、そこを意識するのは当たり前。今日からでも早速実践を!