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やせの糖尿病は危険! そもそも糖尿病とは?
予備群を入れると患者数は推定2,000万人! 糖尿病は日本人の国民病だが、日本人はやせでも糖尿病になりやすく、困ったことにやせが糖尿病になるとことに危険だ。
そもそも糖尿病とは「尿に糖が出る病気」という意味だが、その実態は血糖値が高くなりすぎる「高血糖病」に他ならない。
ヒトの細胞の基本的なエネルギー源はブドウ糖。ご飯やパンなどの主食がおもな供給源である。血液中のブドウ糖を血糖と呼び、その濃度が血糖値。健常人の血糖値は空腹時で100mg/dl未満、食後で140mg/dl未満だが、糖尿病では空腹時126mg/dl以上、食後200mg/dl以上になる高血糖が続いて血管などにダメージを与える。
糖尿病の鍵を握るのは膵臓のランゲルハンス島β細胞から分泌されるインスリン。細胞の血糖の取り込みを促し、血糖値を下げる唯一のホルモンである。インスリンの分泌が遅くて少ないか、その効き目が悪くなると危険な高血糖が続いてしまう。
糖尿病には1型と2型がある。1型は自己免疫疾患などで膵臓のβ細胞が破壊されてインスリンが分泌できない病気。2型は運動不足や過食などの悪い生活習慣によるもので、日本人の糖尿病の95%以上は2型だ。
デブとやせでは機序が違う
糖尿病は「太った人がなる病気」と思われている。確かに欧米では糖尿病患者の大半はデブだが、日本をはじめとするアジア諸国ではやせでも糖尿病になりやすい。
デブとやせでは同じ2型糖尿病でもその機序が異なる。
糖尿病の背景には、(1)インスリンが足りない分泌不全、(2)インスリンが効きにくいインスリン抵抗性という2つの病態がある。
このうち欧米人のように太って糖尿病になるときには(2)インスリン抵抗性を伴う。太って内臓脂肪が溜まると、そこからインスリン抵抗性を進めるTNF-αという悪玉ホルモンが出るからだ。効き目が悪いため、肥満者では健常人の2〜3倍のインスリンが出る。インスリンには余った血糖を体脂肪として溜める作用があるため、インスリンが過剰に出ると余計に太り、TNF-αの分泌も増えるという悪循環に陥る。
一方のやせの糖尿病では(1)インスリン分泌不全を伴うケースが多い。「アジア人ではアミリン遺伝子異常がインスリンを分泌するβ細胞の機能不全の一因となっています」(糖尿病専門医の泰江慎太郎医師)。インスリンが少ないと太りにくいが、高血糖で糖尿病に至る。
やせの糖尿病はなぜ最悪か
デブの糖尿病とやせの糖尿病を比べると、厄介なのは残念ながらやせの糖尿病である。
インスリン抵抗性を伴うデブの糖尿病では、2〜3倍も多くのインスリンが出せるほど膵臓のβ細胞は元気だから、ダイエットに成功して内臓脂肪とTNF-αが減り、インスリン抵抗性を抑えると健常人に戻りやすい。だがインスリン分泌不全を抱えたやせが糖尿病を放置すると、インスリンを出すβ細胞は頑張りすぎて疲弊してしまい、輪をかけてインスリンが出にくくなる。
そして日本人のようにインスリン分泌力が低い体質の人が、過食と運動不足で太ると事態は最悪。太って内臓脂肪が増えるとインスリン抵抗性も加わり、なけなしのインスリンの効き目が悪くなって糖尿病が進行しやすいのだ。
その背後にあるのは太って脂肪細胞以外のところに脂肪が溜まる異所性脂肪。「膵臓に異所性脂肪が溜まるとインスリン分泌が一層悪くなりますし、血糖の大半を引き受ける筋肉に異所性脂肪が蓄積すると血糖の取り込みが悪くなり、インスリン抵抗性が起こるのです」
男性も女性も加齢で太りやすくなるが、ことに男性の30〜40代の約3割は肥満だから要注意だ。
やせのあなたも隠れ糖尿病?
糖尿病の初期は自覚症状ゼロ。このため健康診断では空腹時血糖とヘモグロビンA1cで糖尿病かどうかを見分ける。
ヘモグロビンA1cは、血中で酸素を運ぶヘモグロビンに血糖がついて糖化したもので、過去1〜2か月の血糖値の平均に相関。6.2未満(100個中、糖化ヘモグロビンが6.2個未満)が正常である。
けれど、空腹時血糖とA1cだけではわからない“隠れ糖尿病”もいる。
糖尿病の予備群の一つにIGT(耐糖能異常)と呼ばれるタイプがある。これは空腹時血糖値は正常なのに、食後血糖値が異常に高くなるもので隠れ糖尿病の代表格。IGTは血管などにダメージが溜まりやすく、インスリンを分泌するβ細胞の疲弊も進み、糖尿病に移行しやすい。
隠れ糖尿病の発見には75g経口糖負荷試験(75gOGTT)が有効。絶食後に75gのブドウ糖が入った飲み物を飲み、血糖値とインスリンの変化を2時間観察して食後高血糖を見つけ出す。「三親等以内に糖尿病やその合併症である心臓病や脳卒中の患者がいたり、カロリーと糖質が過多の食事をしたりしている人は隠れ糖尿病の危険があります。病院で一度75gOGTTを受けてください」。
デブとやせそれぞれの糖尿病食事療法は!?
糖尿病が招く3大合併症。そしてがん認知性
糖尿病は突き詰めると血管病。高血糖のストレスで血管が傷つくと(1)糖尿病性網膜症、(2)糖尿病性腎症、(3)糖尿病性神経障害という3大合併症が生じる。
糖尿病性網膜症は、網膜の血管が詰まり、酸素不足を発生。最終的には網膜剝離から失明する場合もあり、日本では年間約3,000人が糖尿病性網膜症で失明する。
糖尿病性腎症は、血液を濾過する腎臓の血管が破壊されて進行すると腎不全に陥り、最終的には腎臓の機能を代替する人工透析が必要になる。日本では糖尿病性腎症で年間1万6,000人ほどが新たに人工透析を始める。
糖尿病性神経障害は、末梢の神経細胞と血管にダメージが蓄積し、進行すると神経障害で小さな傷を見逃し、血行障害と免疫力の低下で感染が拡大。壊疽から切断に至るケースもあり、年間約3,000人が足を切断する。3大合併症は糖尿病になって5〜10年で起こるが、初期はいずれも目立った症状が出ないことが多い。
この他、動脈などの大きくて太い血管が障害されると動脈硬化が進み、心臓病や脳卒中のリスクが上がる。高血糖とインスリンはがん細胞の成長を助けるし、脳内の血管障害とインスリン抵抗性は、アルツハイマー病などによる認知症のリスクも高める。糖尿病は万病の元。ゆめゆめ侮るなかれ。
血糖管理から膵臓の保護へ
糖尿病を悪化させないうえで大切なのは血糖のコントロールだが、最近ではそれに加えて膵臓のβ細胞を保護することも大きなテーマになっている。
同じ内臓でも、横綱級とも言える肝臓は重さが1kg以上もあり、肝細胞は強靱で再生力も強いが、膵臓は長さ15cm、重さ70gほどの小兵力士にすぎない。なかでもインスリンを分泌するβ細胞はわずか数gしかなく、肝細胞と比べると非力でかよわい存在。高血糖が続いてインスリンを出し続けると消耗が激しくなるのだ。
糖尿病と診断されたときには、高血糖が続いて平均10年ほどが経過しており、膵臓のβ細胞の機能はおよそ半分に低下している。「クリニックで28歳の2型糖尿病患者を診察中ですが、彼女は18歳からβ細胞の弱体化が始まっていた恐れがあります」。より早く治療を始めればβ細胞の機能もある程度復活するが、20%程度まで落ちるとβ細胞を失う恐れもある。
β細胞の多くを失うと、以後ずっとインスリン注射が必要になることも。β細胞の機能は空腹時のインスリン値と血糖値から計算する「HOMA-β」値で評価できる。
β細胞に生涯現役で働き続けてもらうために、食事のカロリーと糖質量を意識しながらインスリンの過剰な分泌にブレーキをかけて、膵臓に優しい生活を心がけたい。
隠れ糖尿病の危険度をチェック!
□ 近親者に糖尿病や心臓病、脳卒中がいる
□ 高血圧、脂質異常、腹部肥満がある
□ カロリーと糖質が過多な生活をしている
□ シフトワーカー(交代制勤務)である