走った分だけ食べていいんです。メッツを活用すれば
活動量計でも装着していない限り、今日自分がどれくらいのエネルギーを摂取するのが適正なのか知る術はない。なので、気分による腹時計に従って、つい食べ過ぎてしまうこともしばしば。その点、ランナーは幸運だ。走って消費したエネルギーはかなり正確にはじき出すことができる。
取材・文/石飛カノ 撮影/大嶋千尋 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/天野誠吾 イラストレーション/たつみなつこ 料理製作/近藤幸子(おいしい週末) 取材協力/こばたてるみ(しょくスポーツ)
(初出『Tarzan』No.731・2018年2月8日発売)
目次
ランニングによる消費カロリーの計算式・METs(メッツ)
消費したエネルギーがわかりやすいのがランの利点。食事内容の見直しを加えれば、より健康的な生活となる。
では、どのように食事を組み立てればいいのか。ここで役に立つのがメッツという運動強度の指標。初心者がスローなジョグを行うときは、キロ10分のスピードで6METs(メッツ)。同じジョグでも上級者がキロ6分で走るとしたら運動強度は10メッツとなる。
これに体重と時間を加味して計算すると、ランニングによる消費エネルギーがはじき出せる。
こうした数値に則って、走った分だけいつもの食事にプラスαすれば、むやみに太る心配もない。
が、初心者の多くは、少々勘違いをすることも。今日はたくさん走ったから、ごほうびはビールに唐揚げ! なんてことをやっているうちに、かえって走る前より太ってしまったというのは珍しくない話。
初心者が15分走り、とてつもなく運動した気になっても、現実の消費エネルギーは102キロカロリー、目玉焼き1個分。いつもの定食に目玉焼きをトッピングする程度のもの。ビールも唐揚げも、気分による腹時計が欲する過剰なごほうび。
それなりのスピードで長時間走れるようになれば、ゴージャスなごほうびが待っている。まずは正確なエネルギー消費量の把握から始めよう。
レベル別メッツの目安をどう求めるか
初級者は5分走り続けるだけでも瀕死の状態。15分走り続けられたら上出来のレベル。キロ10分ペースの15分走が妥当なところ。強度は6メッツとなる。中級者はキロ7.5分ペースで30分で運動強度は8メッツ。上級者はキロ6分での1時間走くらいがルーティン。運動強度はぐんと上がって10メッツ。
消費すべきエネルギー量は?
では、具体的に運動強度とランニング時間によるエネルギー消費量を見ていこう。ここでは30代の日本人男性の平均的なプロフィール、身長170cm、体重65kgを想定して各数値を算出した。青い部分が、初級者の15分走、中級者の30分走、上級者の60分走のエネルギー消費量。現実の客観視を。
エネルギー消費量を食事に換算すると?
走ることで使われたエネルギー消費量を把握したら、今度はそれを食事のカロリーに変換してみよう。
初級者の15分走は目玉焼き1個、中級者の30分走はあんぱん1個、上級者の1時間走はチキンカレー1杯に相当。ちなみに、主食のごはんの量別のカロリーは下の通り。初級者はたとえ小盛りであってもおかわり禁止。
- 軽く1杯(100g)=168kcal
- 普通盛り(150g)=252kcal
- 大盛り(200g)=336kcal
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ランのレベルで摂るべき栄養とメニューが変わる
ここまで紹介してきたのはレベル別のランニング1回による消費エネルギーと、走ったらこれだけ上乗せしてもよしという食事例。
「案外食べられないのね」とガッカリした人も、「おお。こんなに食べてもいいんだ」とニンマリした人もいることだろう。だが、ガッカリがニンマリになる日は、そう遠い将来の話ではない。うっかり勘違いの食べ過ぎで体重が増えていかない限りは。
ここからはランナーの熟練度別に、食事の基本的な考え方をアドバイスしていく。
指標となるのは「推定エネルギー必要量」。これは基礎代謝量と身体活動レベルによって導き出された、1日に必要であろうというエネルギー量。体型にかかわらず性別、年代、身体活動レベルで算出されている。
身体活動レベルには3つあり、レベルⅠは生活の大部分が座位で、静的な活動が中心。レベルⅡは座位中心だが立位での作業、通勤、買い物、家事などを含む場合。レベルⅢは移動や立位が多い仕事に就いていたり、活発な運動習慣を持っている生活という設定。
ここでは走り始めたばかりの初級者をレベルⅠ、中級者はレベルⅡ、上級者はレベルⅢの身体活動強度に設定した。食事の摂り方のポイントとともに、1日分の推定エネルギー必要量を3で割り、1食分の食事例をご紹介。
ランニングの疲れが溜まってきたときの食事や、お楽しみのごほうびインフォメーションとともに、ぜひ参考にしてほしい。
1. 初級者は、親子丼で適正カロリー範囲内。さらに果物と乳製品をプラス
- 1日のエネルギー摂取量2,300kcal
- 1食分766kcal
ゆっくりペースで走る時間は15分という初級者の場合、ごほうび求めてがっつくことはとりあえず控えたい。週3回走ったとしても300kcal強。ケーキ1個分にもならない。
それよりもまず、バランスのいい食事を心がけることが先決。カレー、ラーメン、チャーハンといった一皿メニューばかりに走っているとカロリー過多になりがちなうえ、ビタミンやミネラル不足に陥りがち。
たとえば、ランチのそのカツ丼、そもそも1食分にしてはカロリーオーバー。同じ丼ものを選ぶなら、親子丼にチェンジする。まだ余裕のあるカロリーを果物またはヨーグルトなどの乳製品でカバーするのが理想的。
2. 中級者は、主食の糖質と代謝に必要なビタミンB1をしっかり確保
- 1日のエネルギー摂取量2,650kcal
- 1食分883kcal
中級者レベルになると身体活動レベルもそこそこ上がっているので、1日に必要なエネルギー摂取量は2,650kcal。そのうえ30分程度のジョギングは習慣化していると思われる。
1回走って消費するエネルギーはおよそ280kcal。週に3回走ったとすると840kcal。1週間に割り振って1日120kcalを上乗せしても太る心配はない。これを1食分に換算すると883+40=923kcal。結構な食事量に。
エネルギー源の糖質を十分摂り、その糖質を代謝するビタミンB₁も積極的に摂取のこと。おすすめは豚肉、煮るなり焼くなりしてがっつり食べよう。アリシンを含むニンニクやニラ、ネギ類と一緒に食すのが○。
主菜を豚のしょうが焼き(豚ロース肉100g、キャベツ30g、トマト50g、パセリなどあっても可・353kcal)に変えると、トータル866kcalになる。
3. 上級者は、ごはんを食べるなら丼メシ。貧血予防、酸化予防も考慮
- 1日のエネルギー摂取量3,050kcal
- 1食分1,016kcal
上級者となると、もはやごほうび目当てではなく、走ることそのものが生きる喜びになっているはず。逆に、自分にいくらごほうびを与えたとしても、消費エネルギーに摂取エネルギーが追いつかないこともしばしばだ。
1時間ランは当たり前、となると1食分の摂取エネルギーは軽く1,000kcal超え。走ろうが走るまいが、これだけのエネルギーが必要だ。
糖質は3食きちんと摂取、ごはんなら丼メシのイメージだ。足底を打ちつける機会が多く、赤血球が壊れて貧血気味にもなるので、肉を食べるなら鉄分の多い牛肉、魚なら赤身がおすすめ。抗酸化ビタミンのビタミンCはフルーツやジャガイモなどから補給を。
疲れたときは、疲労予防&回復のための食材を
たとえ仕事が忙しくても走らずにはいられない。でも、最近疲れが溜まってきたかも。そんなときはまず、ランニングの頻度や時間を減らすことが第一。そのうえで、食事の摂り方をひと工夫。
積極的に摂取したい栄養素は抗疲労効果のあるイミダゾールジペプチド。狙い目はこの栄養素が豊富な鶏の胸肉。煮・焼・蒸、お好みの調理法で、お酢のクエン酸、食欲増進効果が期待できるスパイスとともに。喉越しのいい豆腐もおすすめ。
それでも食べたい! ごほうびスイーツ
やはりときには、ごほうび欲しい。そんなあなたにおすすめなのは甘くて冷たいあのスイーツ。初級者は乳成分が含まれていないシャーベットを走った日に召し上がれ。
中級者はアイスクリームの中でも乳固形分が10%以上、うち乳脂肪分が3%以上と若干低カロリーのアイスミルクを。上級者は高級ブランドアイスクリームをご堪能あれ。ちなみに正真正銘のアイスクリームは乳固形分が15%以上、そのうち乳脂肪分が8%以上のものです。
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