続・脳の「やってはいけない!」4つのこと

サッカーのヘディングや嫌いな絵、さらには徹夜作業…。医学博士で生理学研究所教授の柿木隆介先生に、脳にとって避けたい4つのことを教えていただきました。

取材・文/神津文人 イラストレーション/野村憲司、今牧良治(共にトキア企画)

(初出『Tarzan』No.736・2018年2月22日発売)

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1. 腰痛だからと運動を遠ざけ過ぎてはいけない

慢性的に腰痛や肩こりに悩まされていると、運動が億劫になるもの。無理は禁物であるが、それらの改善に運動はむしろ効果的と見るのが最近の傾向だ。痛みをリハビリによって治そうとするペインリハビリテーションという考え方も浸透してきている。

「運動で脳の運動野を刺激することで鎮痛効果が表れるということがわかってきました。また、昔は脳卒中で倒れたら安静に寝かせておくことが優先されていましたが、今は可能な限り早期にカラダを動かすようになっています。受動運動でもカラダを動かすと脳に信号が送られて、回復が早まるとされています」(柿木隆介教授)

定期的な運動はカラダにも脳にも必要なものなのだ。

2. 徹夜で作業をしてはいけない

大事なプレゼン前の予行練習、試験前日の追い込み。少しでも完成度を高めたい、試験結果をよくしたいと、徹夜で作業した経験があるかもしれないが、これは決して効率的なものではない。睡眠中に記憶が整理されるというのは、ほぼ定説となっており、何かを身につけるためには、睡眠は不可欠なものとされている。

知識だけでなく、運動のスキルも睡眠中に整理される。例えば自転車の練習。その日はいくら練習しても乗れなかったのに、一晩経った翌朝に急に乗れるようになったということが起きるのはこのため。

つまり一夜漬けは、所詮付け焼き刃なのだ。もちろん、ただ睡眠をとっただけで、知識やスキルが身につくということではない。

3. サッカーのヘディングはやり過ぎてはいけない

長期間にわたる頭部外傷(衝撃)は、脳に深刻な影響を与えることがある。もちろんスポーツでもそれは起こる。よく知られるのは、ボクサーのパンチドランカー。頑固な頭痛、バランス感覚の低下が症状として表れ、重症例としては認知障害も起きてくる。

アイスホッケーやアメリカンフットボールなど激しい身体的接触を伴う競技の選手にも同様の症状が見られることがあるのだが、近年、サッカーのヘディングによる脳への影響が問題視され始めている。

ヘディングをすると大脳の運動野に影響が残り、短期的ではあるものの記憶障害が出現したという研究報告もある。特に骨や筋肉が成長段階にある子供は、避けた方がよさそうなのだ。

4. 嫌いな絵を見てはいけない

美しいと感じる絵を見たときと、醜いと感じる絵を見たときでは、脳の活動が明らかに異なるのだという。前者では、前頭葉にある眼窩前頭皮質の活動が増し、後者では運動皮質の動きが活性化されるという研究結果がある。

「眼窩前頭皮質は報酬系(快楽中枢)の一部とされています。あくまでも仮説ですが、美しい絵を見ると快感が増し、醜い絵を見たときには、例えばヘビを見たときと同じように“逃げたい”という気持ちになることを示しているのかもしれません」(柿木教授)

思わず目を背けたくなる、そこから立ち去りたくなるものに触れるよりも、見惚れるようなものを観賞する。おそらく脳には、そのほうが優しいはずだ。

教えてくれた人:

柿木隆介さん(かきぎ・りゅうすけ)/自然科学研究機構生理学研究所教授。神経内科医。臨床脳研究の第一人者として知られている。著書に『脳にいいこと悪いこと大全』(文響社)、『記憶力の脳科学』(大和書房)などがある。