脳の「やってはいけない!」4つのこと

当たり前のことながら鏡を見ても頭の中は映らないし、ごく普通の健康診断では脳の状態はわからない。であるからこそ、脳にとって避けたい、4つのコト。医学博士で生理学研究所教授の柿木隆介先生に教えていただきました。

取材・文/神津文人 イラストレーション/野村憲司、今牧良治(共にトキア企画)

(初出『Tarzan』No.736・2018年2月22日発売)

1. 「えーと」を口癖にしてはいけない

「えーと、ほらほら、あれのことですよ」。ついつい口にしてしまいがちだが、相手は何のことだかさっぱり分からない。何かが伝わっているとしたら、この人は考えがまとまる前に喋るのだなという印象だろうか。

あれ、これ、それといった指示代名詞や、えーと、などの間投詞が口癖になっている人は、頭の中で考えが整理されていない状態が、当たり前になってしまっている可能性が高い。脳のサボリを防ぐ意味でも、あれ、これ、えーとを使わないように意識して会話をしてみよう。

同様に「要するに」と人の話を引き受けて、全くまとまりのない話を披露するなんてことにも気をつけたい。要するに、自分の脳を甘やかすなということである。

2. 仕事が忙しいからと早食いしてはいけない

昼食を摂る時間が惜しいほど忙しいが、腹が減っては戦ができぬ。時短のためにろくに嚙まずに、胃袋に流し込む。これは胃腸によくないだけでなく、脳を活性化するチャンスも逸している。

「咀嚼をすると、歯根と歯槽骨の間にある歯根膜からの情報が脳幹に入り、そこを活性化することで大脳にも影響を与えているというのが有力な仮説です。運転中にガムを嚙んで眠気がおさまったという経験をしたことがある人は多いはず。試合中にガムを嚙んでいる野球選手やサッカー選手がいるのは、嚙むことが運動にも好影響を与えることを経験的に知っているからでしょう」(柿木隆介教授)

昼食はしっかりと咀嚼して、午後の仕事に臨もうではないか。

3. ながら作業はやってはいけない

多忙を極めると、同時並行的に複数の作業をしなければならないことがある。しかし、作業記憶の面から見るとあまり効率的ではない。作業記憶とは、例えばスーパーに買い物に行きながら、買うべきものを覚えておくといったことを指す。そんなの簡単でしょ、と思ったアナタ。本を取りに2階に上がり、干しっぱなしの洗濯物に気づいて取り込んでいたら、何をしに2階に来たか忘れた、なんて経験をしたことはないだろうか。複数のことを作業記憶しながら上手くこなすのはなかなか難しいことなのである。

また、男性は女性と比較して、右脳と左脳を結びつける脳梁が小さい傾向にあるため、マルチタスクが不得意な人が多いようだ。

4. 痛飲は頭によくない

飲酒時に影響が出やすいのは、思考や理性を制御する前頭葉、運動機能の調整をする小脳、そして記憶の保存と定着を司る海馬だ。ゆえに、酒の席でのセクハラ発言、席を立ったときの千鳥足、呂律が回らなくなる、昨夜の記憶の忘却といったことが起こる。

また大量飲酒を長期的に続けると、脳は萎縮してしまう。

「脳の萎縮は、脳細胞や神経線維の死滅によって起こります。中高年男性のCTやMRIを見ると、長期にわたる大量飲酒者はおおよそ見当がつきます。逆に多少の飲酒であれば、リラックスを感じているとき発生するα波の出現が確認されています」(柿木教授)

たまにのホロ酔いならOK、痛飲はもってのほかということだ。

教えてくれた人:

柿木隆介さん(かきぎ・りゅうすけ)/自然科学研究機構生理学研究所教授。神経内科医。臨床脳研究の第一人者として知られている。著書に『脳にいいこと悪いこと大全』(文響社)、『記憶力の脳科学』(大和書房)などがある。

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