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タンパク質と、何が同じで、どう違う?ジェーン・スーと〈味の素(株)〉社員が語るアミノ酸のこと。
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糖質ダイエットについての素朴な疑問を解決してきた本シリーズもこの第4回で最後。「痩せていたら糖質オフなんて必要ない?」「カラダに危険はないの?」など、ダイエットにちょっと疑い深いあなたの素朴な疑問を解決します。
糖質オフは糖尿病の食事療法として広まったもの。糖尿病は、血糖値を下げるインスリンの分泌が足りないか、効き目が落ちたため、高血糖が続いて起こる。
予備群を加えると推定患者数は2,000万人という日本人の国民病である。日本では糖尿病の95%以上は糖質過多や運動不足といった誤った生活習慣による2型糖尿病。
「糖尿病は太った人の病気という誤解がありますが、日本人の2型糖尿病患者の半数以上は肥満ではなく、痩せていても糖尿病になるのが特徴」(山田先生)。
インスリン分泌能力が高い欧米人では、太るとインスリンが効きにくいインスリン抵抗性が起こり、糖尿病に至るパターンが多い。しかし日本人は体質的にインスリンを出す能力が低く、太る前に血糖値が下げられなくなり、糖尿病になりやすい。
血糖値を上げ、大量のインスリン分泌を招く敵は糖質のみ。糖質オフでインスリンを節約すれば、痩せたまま糖尿病になるリスクは減らせる。健診などで血糖値の確認も怠りなく。
糖質制限すると脂肪酸から合成されるケトン体は脳や筋肉のエネルギー源となるが、増えすぎはNG。ケトアシドーシスに陥ることもあるのだ。
ケトン体は酸性物質で、増えすぎると通常pH7.4前後の体液が酸性に傾く。これをケトン体による酸性化=アシドーシスという意味でケトアシドーシスと呼ぶ。
ケトアシドーシスが生じると意識障害を起こして倒れ、最悪の場合は死亡する。血糖値を下げるインスリンは、脂肪酸の分解を防いでケトン体の生成にブレーキをかける。
自己免疫疾患などにより、自分ではインスリンがまったく出せなくなった1型糖尿病患者では、脂肪酸からケトン体が無制限に作り続けられるため、インスリン注射を打たないとケトアシドーシスが起こって命に関わる。
インスリンが出せる健常人なら、ケトン体が無制限に増える事態は考えられない。しかも1日130gの緩い糖質オフでは、ケトン体は多少増えるけれど、体液を酸性に傾けるほどにはならないから、ケトアシドーシスを怖がるのは考えすぎだろう。
糖質制限ダイエットの実践者で知られたノンフィクション作家が、2016年に心不全で急死した。D介のようなアンチからは「やはり糖質オフは危ない!」という声が上がり、週刊誌を賑わせたのは記憶に新しい。その方は長らく糖尿病を患い、その治療の一環として糖質制限を始めた。
「彼の死と糖質制限を結びつけるのは、抗がん剤治療中で亡くなったがん患者が“抗がん剤のせいで死んだ”と言うようなもの。彼一人の死で糖質制限が危険というのは、あまりに一方的な批判です。糖尿病で高血糖が続くと動脈硬化が進む。動脈硬化は心不全などの心臓病や脳卒中のリスクを高めます。過去の糖尿病歴が彼の死を早めた可能性はあるかもしれませんが、糖質オフとの因果関係はわかりません」(山田先生)
糖尿病の合併症で年間約3,000人が失明したり、足を切断しており、糖尿病は心臓病、脳卒中、がんという日本人の3大死因の罹患率を高める。糖尿病のリスクを考えれば、糖質オフを実践する利点は大きいのだ。
監修/山田 悟(食・楽・健康協会理事。北里研究所病院糖尿病センター長)、美才治真澄(フードコーディネーター、管理栄養士)
(初出『Tarzan』No.697・2016年6月9日発売)