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糖質オフにすると痩せる、そのメカニズム
カロリーオフだと痩せるのは小学生でも分かる理屈。では、カロリーではなく、糖質をオフするダイエットでなぜ痩せるのだろうか。
第一にインスリンの作用がある。
日本人の大半はご飯や麺類などの食べすぎで糖質過多になっている。糖質を過食すると血糖値が上がり、膵臓からインスリンが分泌される。インスリンは筋肉や肝臓などに糖質(血糖)を取り込ませるが、糖質を摂り続けていると筋肉も肝臓も多くの血糖を取り込む余力がなくなる。
代わりに血糖を引き受けて体脂肪に変えるのが脂肪細胞。インスリンは血糖から体脂肪を合成する肥満ホルモンでもあり、糖質過多だとその作用で太りやすい。
次に注目したいのは、糖質と食欲との関わり。従来食欲は血糖値の上下だけで説明されてきたが、実際には胃腸から分泌される消化管ホルモンの働きも見逃せない。
「高糖質食だと、脳の満腹中枢に働いて食欲を促すグレリンという消化管ホルモンが出やすく、食欲を抑えるペプチドYYという消化管ホルモンが出にくいので、空腹感が募るのです」(糖質オフを推進する食・楽・健康協会の山田悟理事)
糖質オフでは糖質を減らす分だけ、それ以外でカロリーとなる脂質とタンパク質の摂取量を増やす。タンパク質と脂質は糖質と逆にグレリンを抑え、ペプチドYYの分泌を増やす(下グラフ参照)。ゆえに糖質オフでは空腹に悩まされることがなく痩せやすい。
糖質の摂取量は「1食40g」が目安
日本人は全摂取カロリーのおよそ60%を糖質から摂る。全体の40%を占めるのはご飯、パン、麺類などの穀類で、残りをイモ類、果物、お菓子などから摂っているのだ。この糖質の摂取を減らして痩せようというのが、糖質オフの趣旨。
糖質オフにもさまざまな“流派”がある。
『ターザン』は山田先生が「ロカボ」として推奨する緩い糖質オフに賛同。糖質を1食当たり20〜40g+間食10g、1日70〜130gを基準に2か月の糖質オフに挑む。
日本の成人が1日に摂る糖質は目安量よりやや少なめの280g前後なので、これをざっくり半分にするイメージだ。ご飯などの主食を一切摂らないというスパルタな武闘派もいるが、1食40gならご飯普通盛り半分(糖質約27g)、パン8枚切り1枚(糖質約20g)は食べられて辛くない。
1食40g以上摂ると血糖値が上がりすぎて肥満ホルモンのインスリンが過剰に出るし、前述のように食欲を司る消化管ホルモンの作用で空腹感が抑えにくい。
また、人によっては食後の血糖値が上がりすぎる食後高血糖が生じ、血管が傷つけられて糖尿病や動脈硬化を招きやすくなる。逆に、糖質を減らしすぎるのも問題。
「1日50g未満だと脂質代謝が亢進して肝臓でケトン体という代謝物が増えます。ケトン体の安全性には賛否があり、血管を傷つける恐れもあります」
程よい糖質オフで、血管を守りながら健康に痩せよう。
糖質は恐れずに食べるべし
乳酸は疲労物質であり、走っても20分しないと体脂肪は燃えない…。これらは誤りだが、長年常識として刷り込まれた情報は容易に更新できない。
ダイエット界でも、高カロリーな脂質の摂りすぎが肥満の元凶という主張がリセットされないまま、まかり通っている。カロリー過多なら何をどう摂っても太るのは当然。脂質だけがとくに太りやすいという証拠はない。
糖質オフでカロリーを減らすとリバウンドしやすいので、糖質を減らした分、脂質はちゃんと摂ろう。脂質を減らしすぎると安静時の代謝が下がり、痩せにくいという報告もある(下グラフ参照)。
脂質で注意すべきは量より質。植物油に多いリノール酸、古い揚げ油などの過酸化脂質、加工食品などに含まれるトランス脂肪酸などは、摂りすぎるとアレルギー性疾患や心臓病などの誘因となる。
脂質は不足しやすいオメガ3脂肪酸をエゴマ油や青魚などから、体内で安定的に代謝されるオレイン酸をオリーブオイルから摂りたい。
脂質で気になる人も多いのが、卵や肉類や乳製品などの動物性脂質に含まれるコレステロール。
血中のコレステロールが増えると心臓病などの危険度が上がるため悪玉と毛嫌いされやすいが、本来は細胞膜やホルモンの材料となる善玉。大半は肝臓で作られ、健常人では食品のコレステロールは血中コレステロール値に影響しない。安心して動物性食品を摂ろう。
タンパク質は積極的に摂るべし
糖質オフに限らず、ダイエット中はタンパク質を減らさないことが肝心である。
糖質やカロリーの摂取が減ると、タンパク質から糖質が新生したり、不足したカロリーを補うエネルギーに変わったりするため、体内のタンパク質が分解されやすい。その矛先が向くのは、タンパク質の固まりである筋肉。
筋肉は体温を保つために熱を作り、それは安静時に消費されているエネルギー代謝の一翼を担う。タンパク質を供給するために筋肉が減ると安静時代謝が下がり、痩せにくくなる。
「体重1kg当たりタンパク質が0.7g未満だと筋肉の分解が進みます。摂りすぎを気にする人もいますが、どんなに食べても体重1kg当たり1.6g程度に収まるという報告があります」(山田先生)。
そこで、糖質オフでも、肉類、魚介類、大豆食品、卵などを毎食取り入れて、体重1kg当たり1.2〜1.6gのタンパク質を補いたい。タンパク質は消化吸収時に熱へ変わるDIT(食事誘導性熱産生)の割合が3大栄養素中もっとも高いため、タンパク質の摂取が増えるとDITがアップ。消費カロリーを押し上げて痩せやすくなる。
かつてタンパク質摂取が増えると腎臓の負担が増えると懸念されていたが、現在はタンパク質に腎臓の保護機能があると判明している。
失敗しない極意をきちんと学べ
糖質オフは正しく行えばどんな人にも効果的なメソッドだが、失敗に終わることもある。同じ轍を踏まないための注意点を学ぼう。
糖質オフでしくじる典型例は、主食を完全にカットするパターン。ご飯もパンも麺類もまったく食べられない生活が続くわけがない。緩い糖質オフで主食も食べよう。
次に多いのが、カロリーまで制限してコケるケース。日本人はカロリーの60%を糖質から摂っているから、気をつけないと糖質をカットするとカロリーが減り、筋肉が削れて代謝が落ち、痩せにくい。
なかには「主食のご飯やパンなどをカットし、代わりに野菜、海藻、きのこなどの副菜をたっぷり食べればいい」という武闘派もいる。
野菜も海藻もきのこも低糖質でビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富だから副菜は増やしたいが、いずれもほとんどカロリーにならず、代謝や食欲を正常化する働きを持つ脂質やタンパク質の供給源にならない。
主食を減らした代わりに増やすべきは、肉類、魚介類、大豆・大豆食品などからタンパク質と脂質が摂れる主菜。日本人の食事の基本は一汁三菜だが、糖質オフでは主菜×2+副菜×3の「一汁五菜」にするとカロリーと栄養素がバランスよく摂れて失敗しにくい。
2か月でも効果は確実に表れる
糖質オフは早期に成果が出やすいからモチベーションが上がり、挫折しにくいのもメリット。「初めの2か月で減量効果の8割程度が得られるというデータがあります」。
糖質オフで初期に落ちるのは水分。糖質を制限すると体内に蓄えた糖質の分解が進む。糖質を1g貯めるのに3倍の3gの水分が要るから、糖質が分解されると一緒に水分も抜けるのだ。
減量の真の狙いは余分な体脂肪の削減だが、体重減少が鼻先のニンジンとなり、糖質オフが続けられたら、やがて無駄な体脂肪の減少につながる。
痩身信仰が根強い若い世代には、減量をしなくてもいいのに無理に痩せようとして体調を崩したり、大事な筋肉や骨を削ったりするタイプも少なくない。
糖質オフも肥満者限定のメソッド。減量の必要がない普通体重、もしくは食事量を増やすことが求められる低体重の人が行うと、タンパク質や脂質の摂取が増えてむしろ体重が増加する場合もある。
2か月やっても痩せないなら、そもそも太っていないのかも。開始前にBMI(体重÷身長÷身長。75㎏で170cmなら75÷1・7÷1.7≒26と計算)で肥満度をチェック。BMI25以上が肥満だから、それ未満は実施を控えるようにしたい。
ダイエットをしながら、今後の戦略を練り上げよ!
糖質オフを2か月続けてダイエットに成功したとしても、そこで元の食生活に戻ったら、2か月も経たないうちに体重も体型も逆戻り。
カロリーを減らさず、良質のタンパク質と脂質を摂っていれば、筋肉も代謝も落ちないから、体重がダイエット前より増えすぎるリバウンドは起こりにくい。その点は従来のダイエットにない大きなメリットではあるが、糖質制限とて永遠に解けない魔法ではない。
2か月以降も糖質オフを緩く続けるためのヒントは、2か月のダイエット期間で得られる気づきにある。
ご飯をもっと食べたいと思ったら、こんにゃくなどを使ったカサ増しレシピを活用すればいい。パンが恋しい人のために、小麦のブラン(外皮)を配合した低糖質パンを販売するコンビニチェーンもある。甘いものが食べたくて辛いなら人工甘味料を用いたスイーツをいろいろ取り寄せ、お気に入りを探すべき。
ラーメンや牛丼が忘れられない人も多いだろうが、糖質制限が市民権を得た昨今では、探せば麺やご飯の代わりに豆腐を使ったラーメンや牛丼だって食べられる時代である。知恵と工夫で糖質といい関係を保ちつつ、緩い糖質オフを一生モノにできたら、二度と太る心配はないのだ。