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やる気がありすぎると挫折する! トレーナーが語る“腹が割れない理由”

男性なら一生のうちに一度はやってみたい、6パックに腹を割る、通称「腹割」。「やる気出しすぎは挫折の元、時には手抜きも必要」と語るのは、これまで多くのトレーニーを支えてきた名トレーナーたち。クライアントを励まし、時には叱り、腹を凹まし続けている3人が考える「腹割」失敗の理由とは?

鍛えた成果を披露するステージを決める。

齊藤邦秀(以下、齊藤) 鈴木さんはボクシングとシュートボクシングのプロ格闘技二冠王。いずれも減量は付きものですが、辛い減量を耐え抜く原動力は何ですか?

鈴木悟(以下、鈴木) 減量の辛さに耐えられるのは、試合に勝ちたいプラス、リングに上がったときにカッコいい割れたお腹でいたいから。緩んだ腹では人前に立てません。

澤木一貴(以下、澤木) 確かに、動機は他人の眼でいい。僕は居酒屋をこよなく愛するトレーナーですが(笑)、大したカラダをしてないのに宴会で盛り上がると「脱げ、脱げ」と周りからよく言われる。その日に備えてみっともない腹にはなれないというのが鍛える動機。

鈴木 どうなりたいかだけじゃなく、どう見られたいかも大事ですね。

齊藤 鈴木さんのリングや澤木さんの居酒屋のように、鍛えた成果を披露するステージを決めるとモチベーションが高まる。夏休みのビーチも、子供の運動会や保護者参観も立派なステージ。自分なりに決めればいい。

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鈴木 悟さん/プライベートジム〈TAKE IT EASY〉の代表兼トレーナー。元ボクシング日本ミドル級王者、元シュートボクシング日本スーパーウェルター級王者。

澤木 単に「お腹を割りたい」では動機が漠然としすぎてやる気が出ない。本人がわかっていないケースも多いから、何のために割りたいかという動機を引き出すのも僕らの仕事。

齊藤 飲み屋のお姉さんにモテたいという不純な動機でもOK。勝負下着という言葉がありますが、男ならベッドで恥をかかない“勝負腹筋”を作っておくつもりで取り組むのも悪くない。「モテたいなら、その腹じゃダメでしょ」と言うと俄然トレーニングに本気になるタイプもいる。

澤木 エブリデイ・イズ・ゲームデイ(毎日が試合)の精神ですね(笑)。同窓会が鍛えるきっかけという人も多い。同世代でもお腹と髪は結構差が大きい。同窓会に出てショックを受けて、薄毛はともかくせめてお腹くらいは何とかしたいと頑張る。

やる気が空回りすると、行動リバウンドが起こる。

齊藤 ただ勝負腹筋をずっとキレキレに維持し続けるのは辛いから、ある程度の波はあっていい。平素はそこそこの状態にしておいて、いざとなったら短期間で一気に仕上げる。

澤木 アスリートのピリオダイゼーション(期分け)の発想ですね。年末年始の飲み会シーズンに「トレーニング中だから飲みません」と言うとその場の雰囲気が一気に悪くなる。食べるものは食べ、飲むものは飲み、薄着の季節に本気を出せばいい。

鈴木 試合前で会食に誘われたとき、「減量中なので」と言い訳して喰わないやつは大嫌い(笑)。本当にやばかったら初めから行かなきゃいい。僕は今日の分は明日の練習で絶対取り戻せるという自信があるときしか、お誘いには応じませんでした。

齊藤 ずっと続けると思うとメンタル的に辛いけど、手を抜いていいときがあると思うとラクになる。

澤木 初めほど「お腹を割りたい」というやる気がありすぎる。テンションが高すぎて習慣をガラリと変えようとして挫折するパターンが多い。

齊藤 続かない人の典型。無理して頑張りすぎると、行動のリバウンドが起こって元の怠惰な生活に戻り、それにつれてお腹もまた緩んじゃう。

澤木 初めは小さなことから。僕はよく嚙むとか、歩くとか、いくつか簡単そうな例を提示し、クライアントに「〜ならできそう」と選んでもらって継続をサポートします。

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齊藤邦秀さん/〈ウェルネススポーツ〉代表、Running Fitness Labo.代表、日本メディカルフィットネス研究会常任理事。理念はライフスタイルコーチング。

鈴木 僕は最初週1回でいいから、1日30分だけトレーニングの時間を確保してもらう。その間ずっと腹筋トレを続けるのではなく、途中で疲れたら休んでいい。その代わり、時間をかけて腹筋の基礎を学ぶのです。

澤木 確かに10回×3セットとかだと回数が少なすぎるから、腹筋をどう使うかという実感が得られる前にトレーニングが終わる。結局効いているかどうかがよくわからないので、意欲が落ちてしまいがちですね。

鈴木 30分の最後の方で「いまの効いた!」と思う瞬間が絶対あるはずなのに、10回×3セットで終えたら、いつまで経っても上達しなくて残念。

齊藤 1週間に30分の時間がないと思ったら、仕事、家事、ネット視聴、睡眠など、何をいつどのくらいやっているかを、平日と休日に分けて書き出すといい。そうすれば30分程度の時間は見つけられるはずです。

澤木 自戒を込めて言うと、SNSをやめたら30分は余裕で作れます。

齊藤 (笑)。次にいまの自分に大切なことを書き出してみる。その3位以内に腹割が入ってほしい。上位に入らないと、口では「腹を割りたい」と言っていても、本気じゃないから腹筋トレも継続しにくい。

体型とは突き詰めると、生活習慣の反映である。

鈴木 僕らがクライアントを見るのはせいぜい1週間に1時間。1週間は168時間だから、残りの167時間をどう過ごすかが問題です。お腹が割れないとこぼす人は、残り167時間の自己管理ができていない。

澤木 体型とは、突き詰めると生活習慣の反映ですからね。吸引すれば体脂肪はゴソッと減るけど、生活が怠惰なままだと速攻で戻ってしまう。

齊藤 そうそう。先日ドイツへ勉強に行き、毎日ビールとソーセージとポテトの食生活を送ったら、2週間で3kg太りました。でも日本でいつもの生活習慣になったら3週間で元に戻った。アスリートも一般人も、最終的にはトレーニング以外の習慣をどうマネジメントするかの勝負。ひと駅歩くのがクセになっただけで、2〜3kg痩せて腹筋トレをしなくてもお腹が割れる人もいますからね。

鈴木 ひと駅がふた駅になり、やがてランニングやトライアスロンまでエスカレートするケースもある。

澤木 お腹に影響が大きいのは食習慣。1日3食、規則正しく食べましょうという刷り込みもありますが、電車通勤でデスクワークなのに3食+間食を食べていたら、いくら腹筋トレに励んでも痩せないので、モチベーションが下がる。

鈴木 お昼になったからランチを食べようではなく、本当にお腹が空いてから食べればいいんですよ。僕はお腹が空かなかったら、丸一日食べない日もあります。

齊藤 力石徹の世界(笑)。

澤木 食生活で太る原因は「食べすぎ」「嚙まない」「考えない」の3つ。

鈴木 考えないとは?

澤木 食べ物のカロリーや栄養成分を考えないということ。脂肪分が多いものを意識しないで摂っていたら、多少腹筋トレをしたり、走ったりしてもお腹は凹まない。

齊藤 運動と食事以外のちょっとした心がけでもお腹まわりは変わる。

澤木 坐っているとき、膝を閉じるだけでも全然違う。膝を閉じると骨盤が後傾しにくくなり、坐骨で正しく坐りやすくなる。電車では足幅を腰幅に抑えるように気をつけたい。

鈴木 坐っているとつい油断して姿勢が乱れがち。でも、坐骨を座面につけて坐り、その真上に頭を乗せると姿勢が良くなり、お腹まわりも引き締まりやすい。

腹筋が緩んだら、自分を変えるチャンス。

澤木 呼吸は1日2万回もしますから、呼吸の仕方でもお腹まわりは変わる。空腹のときに片手を頭に置いて横に倒してから呼吸すると、反対側の胸郭が開いて空気が入りやすくなる。すると胸椎がスムーズに動くようになり、歩幅が広がって日常生活でも体脂肪が燃えやすい。

齊藤 背骨の動きが悪いとお腹が動きにくい。動かないところに体脂肪はつきやすいという性質があるので、それではお腹は凹まない。

鈴木 現実と向き合うためにお腹は毎日見るべき。僕は見るだけでなく、指でつまんで状況を把握します。

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澤木一貴さん/〈SAWAKI GYM〉代表。整形外科でのスポーツトレーナー体験や全日本プロレス営業部の勤務経験を持ち、クライアントの肉体改造をサポート。

澤木 脂肪が減るのも筋肉がつくのも本来は数か月単位。それなのに短期間にラクして簡単にお腹を割りたいと安易に考える人が多すぎる。

鈴木 腹割は和紙を1枚ずつ剝がしていくような地味な作業。長い時間をかけて蓄積された皮下脂肪と内臓脂肪は一朝一夕には取れない。

澤木 真実を先に告げると萎えて「じゃ、やめます」と言われる。だから早めに見かけを変える必殺技を使いつつ、じっくり真実を伝える。

齊藤 短期間で効果があるように思えるのは、無謀な糖質制限や姿勢矯正でお腹が凹んだように見えるから。いずれ行動リバウンドが起こります。個人差は当然、他人と比べない

鈴木 成果が出るまでの時間には個人差がある。ぱっと結果が出る人の話を聞いて「Aさんは1か月で変わったのになぜ私は…」と焦ると続かないから、「あなたはAさんではないのだから、他人と比べるのはやめましょう!」とアドバイスします。

澤木 他人の成功で、自分もできそうとやる気になるのを代理体験といいますが、それが裏目に出るケース。

鈴木:多くの人はお腹がやばいと思って慌てて鍛え始める。だから腹筋を鍛えたいと思ったら、自分を変えるチャンスと前向きになるべき。

齊藤 『ターザン』を読んでいる人全員、すでにナイスバディの資格あり!

澤木 パーソナルトレーニングを依頼した時点でカラダ作りは半分成功したようなもの。2か月で30万円といったパッケージだけではなく、この予算と期間で何ができますかと聞かれたら、ちゃんと提案できます。

齊藤 2週に1度だけ僕らのところに足を運び、あとは安価な24時間フィットネスでこちらが提案したエクササイズの宿題で汗を流せばいい。

鈴木 定期的に通わなくても1回だけメニューを作ってもらうのもアリ。

澤木 宣伝になっちゃった(笑)。

(初出『Tarzan』No.717・2018年4月20日発売)

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