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Q1.なぜ筋トレは2〜3回でやめてはダメなの?
A.疲れ果てないと筋肥大しないからです
筋肥大の本格化には、筋肉への強いストレスが欠かせない。その最適な抵抗=負荷となるのが、おなじみの10RMだ。RMとは「Repetition Maximum」の頭文字を取ったもの。日本語では「最大反復回数」で、10RMは「一度に10回までしか連続できない最大の重さ」のことだ。
10RMで11回目ができなくなり、筋肉が疲れ果てて限界を迎えるオールアウトまで追い込むと、強烈な機械的ストレスと代謝ストレスが加わり、筋肉はデカくなる。
「大切なのは筋肉のオールアウト。軽い30RMでも疲労困憊させたら筋肉は発達しますが、高回数なので運動時間が長引き、最後まで高い集中力が求められる。逆に10RMを大きく超える高重量は重たすぎて初心者には扱いにくい。短時間に効率良く誰でも安全にオールアウトできるのが10RMです」(日本体育大学の岡田隆准教授)。
自体重トレはフォーム、動かす速さ、静止時間で10RMに調節する。
同じ部位でも10RMは人それぞれ異なるし、同じ人でも細い腕と太い脚では10RMは異なる。初心者はオールアウトの感覚がつかみにくく、10RMを定めづらいのが難点。
見つけるコツは抵抗を動かすスピードに注目すること。全力を出しても6〜8回目で筋肉が疲れてスピードが遅くなり、10回目で超スローテンポまで落ちるのが、正真正銘の10RM。最初から最後まで同じ速さでスッスッと続けられるようでは軽すぎる。さらに1〜2回のミスショットはあるものだから、現場では10RMを10〜12回で決める気持ちで臨むと気楽。
負荷アップの見極めは6〜8回目で遅くなっていたスピードが上がり、11回目まで反復できるようになること。そこまでミスなくフォームも崩れず、稼働域も狭まらないフルレンジで行えたら、次回は負荷を5〜10%ほど上乗せしよう。自体重トレは時間とフォームを再調整する。
【筋トレの細かい話】 サクサクできたら負荷アップ
真面目に続けていると、やがて10RMは上方修正される。少し前までダンベル5㎏×10回×3セットでヘバっていたのに、余力が出てくるのだ。そうなったら負荷設定を引き上げ、つねに「11回目ができない」という重さで鍛え続けるべき。
負荷アップの見極めは6〜8回目で遅くなっていたスピードが上がり、11回目まで反復できるようになること。そこまでミスなくフォームも崩れず、稼働域も狭まらないフルレンジで行えたら、次回は負荷を5〜10%ほど上乗せしよう。自体重トレは時間とフォームを再調整する。
Q2.1セットで終えても大丈夫でしょうか?
A.それではすべてが中途半端です
10RMでオールアウトしても、しばらく休むとまた10回できるようになる。なぜなら、筋肉は毎回全力を出しているわけではないからだ。
筋肉は多くの筋線維を束ねており、筋線維は工場のライン作業のように交代勤務制を採る。休憩後は1セット目に不参加でまだ元気な筋線維が登場するので、2セット目も再び10回前後できるのだ。筋肥大には、筋線維を一本残らずオールアウトさせた方が圧倒的に有利。
1セットで終えると鍛え漏らした筋線維が残るので、あと2セットは続けたい。3セット後に4セット目が余裕でこなせるようならまだ甘すぎる。3セットでオールアウトできるように負荷をもう少し盛り、強い心で粘ろう。
筋肥大の真理を知るため、ここで筋肉が力を出す仕組みをおさらい。筋トレの対象は自らの意思で動かせる筋肉。これを随意筋と呼ぶ。随意筋は脳のコントロール下にあり、脳から延びる運動神経から枝分かれした末端(終末)が筋線維一本一本に付く。
脳から「動かせ!」という指令が飛ぶと、末端からアセチルコリンという神経伝達物質が出て、その合図で筋線維が一斉に収縮。筋線維全体が縮んで力を発揮する。
1本の筋線維は特定の運動神経の支配を受けるが、1本の運動神経は多くの筋線維を司る。同じ筋肉に属する筋線維でも、指令を下す運動神経が異なるため、筋線維のローテーション使用が行えるのだ。筋トレを始める前は、動員できる運動神経は多くない。トレーニングを続けるとたくさんの運動神経が動員されるようになり、一度に稼働できる筋線維が増える。
筋トレをやり出すと日を追うごとに重たいウェイトで鍛えられるようになるのは、当初は神経系の適応で筋線維の参加率がぐんぐん上がるおかげなのである。
【筋トレの細かい話】 ビギナーほど休息を短くしよう
達人は1セットごとにきっちりオールアウトできるので、その疲労から回復するまで120秒程度のインターバルを入れて次のセットに臨むこともある。でも、初心者はインターバルをその半分の60秒以内にすると、筋肥大が促されやすい。
ビギナーは10回でオールアウトしたつもりでも、筋肉が極限まで疲れた感覚が得られにくく、多少の余力を残して終わる。そこで疲れが残っているうちにショートインターバルで次セットを行い、疲労(代謝)ストレスを蓄積。10回で追い込めなくてもその刺激で筋肥大はスムーズに進む。
Q3.週1回でもそれなりの効き目はある?
A.2回はやりましょう、3回はやりすぎです
ランナーは月にkm走るかという月間走行距離を気にするけれど、筋トレでは週に何回やるかを気にしたい。一般的には2日前後おきに週2〜3回やると、筋肉は効率的に成長しやすいとされる。その論拠になるのが、超回復理論とフィットネス・ファティーグ(FF)理論。
超回復理論では運動後、休息と栄養を与えると筋肉は以前のレベルを超える「超回復」を起こす。超回復時ならより大きな抵抗に耐えられて、トントン拍子に筋肉が育つ。FF理論では、運動刺激を加えると体力(フィットネス)がアップする反面、疲労(ファティーグ)が生じる。
休むと両者は時間が経つほど落ちるが、下降曲線に差があり、「体力−疲労」がプラスに転じた時点で次の筋トレを行うと、筋力は右肩上がりに上がる。超回復理論とFF理論は、疲労を抜くための休養が不可欠という点では一致する。疲労が抜けない状況下で無理してもトレーニングの質が下がり、期待した成果は望めないのだ。
疲労からの回復力には遺伝子レベルの違い(遺伝子多型)による個人差も関わる。筋肉のACTN3というタンパク質の遺伝子がXX型という多型を持つ人は、他の多型(RR型、RX型)より疲労回復が遅いのだ。日本人の約3割はXX型だから要注意。2日休んでも思ったように追い込めない人はXX型かもしれないから、3日休んで週2回ペースで行おう。
「疲労回復が早めの残り約7割(RR型、RX型)でも、週2回と3回では頻度は1.5倍も違うのに効果には大差がない。ゆえに週2回の方が合理的で続けやすいのです」。
平日1回、週末1回でいいのだ。週1回だと休みすぎで超回復のピークも逃し、順調にウェイトが上乗せできず、未来永遠にカラダは変わらない。多忙でも週2回ペースで。
【筋トレの細かい話】 鍛える順番にも意識を向けよう
週2で全身を鍛えるなら、1セッションで主要な筋肉をカバーしたいもの。ならばどこから鍛えるべきか。考え方は2つある。初めほど心身とも元気だから、いちばん育てたい筋肉から取り掛かる。胸を大きくしたいなら大胸筋、背中を広くしたいなら広背筋から手を付けよう。
全身をバランスよく鍛えたいなら、高負荷を加えないと強化されにくい下半身を優先する。フォームの維持に重要な体幹が先に疲れないように最後に回して、消去法で下半身の次に上半身をやる。つまり下半身⇒上半身⇒体幹の順が鉄板である。
Q4.なぜフォームがそこまで大事なの?
A.鍛え漏れ防止、狙った部位を追い込むためです
自体重やダンベルなどのフリーウェイトを用いた筋トレは動きが自由でボディメイクは自在な反面、フォームを定めるのが難しい。ジムのマシンは軌道が決まっているが、自体重やフリーウェイトは自ら軌道を微修正しなければならないからだ。
マシンならフォームの大崩れはそうないが、自体重やフリーウェイトは軌道のわずかなブレがフォームを乱す。加えてジムならパーソナルトレーナーの指導を受けると正しいフォームが身につくが、セルフで行う自宅トレは我流に走りやすく、悪いフォームがインプットされる恐れもある。
そもそも間違ったフォームはなぜ悪いのか。理由を3つ挙げよう。
第一にフォームが悪いと狙った場所に効かない。背中を鍛えているつもりなのに、腕に効いていたという残念なケースだってある。
第二に筋肉の鍛え漏れが生じ、キレイなシェイプが整わない。筋トレの標的はビッグサイズの大筋群で、複数のパーツからなる。たとえば、胸の大胸筋、背中の僧帽筋、肩の三角筋はいずれも3つの部位に分けられる。上級者は各パーツをピンポイントで強化するために複数の種目を組み合わせるが、それだと種目数が増えて時間もかかる。
初心者は1部位1〜2種目に絞り、大筋群も満遍なく鍛えるのが正しい。最低限の種目で筋肉をくまなく肥大させるために、筋肉の特徴を踏まえた正確なフォームで鍛え漏れをなくそう。
最後の理由は関節の稼働域が狭くなり、負荷が落ちるから。筋トレは稼働域をなるだけ大きく取り、最大に伸ばした最大伸張(フルストレッチ)から最大に縮める最大収縮(フルコントラクション)まで攻めるのが定石。重さや回数を気にすると狭い稼働域でやった気になり、頑張ったつもりでも結果が伴わないのだ。
【筋トレの細かい話】 変化を感じなくても効いている
一念発起して鍛え始めても、すぐさま雨後のタケノコのように筋肉がニョキニョキと増えるわけではない。筋トレをすると動員される運動神経が増え、働く筋線維も結果的に増えてさらに太くなる。両者は同時に始まるが、筋肉が目に見えて大きくなり、変化が自覚できるまで最低8週間、平均12週間ほどかかる。
元のサイズに戻ろうとする傾向が強い筋肉に刺激を与え、筋肥大へ導くにはそれなりの努力と時間が不可欠だ。すぐに目立った変化が見受けられないからといって筋トレを諦めるのは慌て者。機が熟すまで待たれよ。
Q5.筋肉を意識しないと効かないってホント?
A.上の空では、効きにくいのです
トレーニングの鉄則の一つに「意識性の原則」がある。漠然と鍛えるのではなく、何のためにやるかという目的を自覚しつつエクササイズせよという教えである。
この原則を筋トレに当てはめると、鍛えている筋肉を意識し続けるのが正解。正しいフォームでも、上の空では効きにくいのだ。この意識性の鍵を握るのは、マインド・マッスル・コネクション(MMC)。
「MMCは脳と筋肉を連動させる能力。自分の思った通りにカラダを動かせる力を意味します」。
随意筋は自在に動かせて当然だが、普段意識して使っていない筋肉はMMCが未発達なのでイメージ通りに動かしにくい。
上半身でいうなら、手首や肘の動きは目で見て確認しやすいし、意識を向けることが多いので、手首を動かす前腕筋群、肘を動かす上腕内側の上腕二頭筋のMMCは良好である。だが肩甲骨の動きはあまり気にしないので僧帽筋のMMCはよくない。
同様の理由で、下半身では膝を伸ばす太腿前側の大腿四頭筋のMMCは良好だが、股関節を伸展させる太腿後ろ側のハムストリングスのMMCはよくない。誰にでも利き腕、利き脚があるように、ヒトはMMCが良好な方を優先的に使おうとするから、意識性の原則が守れないとMMCが未発達の筋肉は使いづらく、鍛えにくい。それが筋肥大しやすい部位としにくい部位が生じる一因になっている。
MMCを高めるには3つの方法がある。一つ目は筋トレ中に筋肉を手で軽く触れて意識を高めさせること。次に狙ったところに力が入った、疲れた、温かくなったといった筋肉の声に素直に耳を傾けること。仕上げに筋トレの動きをエアで行い、筋肉を絞るように刺激する「スクイーズ」を行うと一層効果的だ。
【筋トレの細かい話】 辛くても効くプログラムがある
同じメニューをずっと続けるとカラダが慣れて筋肥大にブレーキがかかる。そこで試したいのは10回×3セット以外のプログラム。筋肉には、正反対の働きを持つ拮抗筋がある。拮抗筋を交互に鍛えるのがスーパーセット法。同じ部位を鍛える2種目を1セットずつ続けて行うのも効果的。これはコンパウンドセット法だ。もう一つはドロップセット法。1セット目の限界に来たら、すぐに負荷を少し落としてさらに限界まで続け、いつもより深くオールアウトする。最終セットで1〜2段階ドロップするのが定石である。
Q6.有酸素運動はやらなくてもいいんですよね?
A.適切にプラスすると最速で理想ボディになれます
ランなどの有酸素運動は不要と断言する筋トレ派は少なくない。ボディビルダーの大半も、有酸素に汗を流すのは減量期のみ。確かに筋トレと有酸素は両立しにくいのだ。
筋肉のタンパク質に限らず、細胞内の体脂肪やグリコーゲンは分解と合成を繰り返す新陳代謝を続ける。筋トレは合成を優位にする同化作用を高め、有酸素は分解を優位にする異化作用を高める。
この切り替えを差配するのが、細胞に潜むAMPキナーゼという酵素。有酸素などで細胞内のエネルギーが減るとスイッチオン。不足を補うために糖質と脂質の代謝を促して異化を優位にしつつ、筋肉のタンパク質合成を促すmTOR系による同化を邪魔する。筋肉が増えると代謝も増えてエネルギーを浪費するからだ。
でも、有酸素は筋トレを引っ張る悪玉とは言い切れない。第一に有酸素は無駄な体脂肪を燃やし、鍛えた筋肉をアピールしやすい。減量期のボディビルダーが有酸素を行う理由だ。そして有酸素は心肺機能を上げて持久力を高める。
「筋トレで追い込むには心肺が強くないとダメ。心肺が先にバテると筋肉がまだ元気なのに中途半端でセッションを終えることになります」。
また有酸素で毛細血管が発達すると筋肉が求める酸素と栄養が届き、成長を助ける。
ただ長時間の有酸素を筋トレと一緒にやるのは考えもの。動物実験で筋トレ単独と比べると、筋トレ⇒有酸素の順だと筋肉のタンパク質合成は低下し、有酸素⇒筋トレだと筋肉のタンパク質合成は上向く。
とはいえ、有酸素で疲弊してから質の高い筋トレを行うのは不可能。朝ラン、夕方筋トレという具合に筋トレと有酸素を6時間以上離すと疲労も抜けてデメリットは生じにくい。筋トレのオフ日に有酸素を行うのも一案。
【筋トレの細かい話】作った体型は週1ペースで保つ
エントリー層には少々気の早い話題だが、思い描いたカラダが手に入ったら、その後はどうすべきか。筋トレをやめると、筋分解が進んで旧体型に急接近。しかもカラダ作りに費やした時間の倍の速さでボディラインは崩れる。
筋トレから完全撤退するのはNG。体型維持が狙いなら負荷をキープした週1ペースで十分。でも週1回だと一度サボると2週間空き、その間にやる気が萎えてドロップアウトする危険もある。せっかく習慣になったのだから、週2回ペースで鍛えつつ、「1回はサボってもOK!」と気楽に構えたい。