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家でこっそりトレーニングして、脱げるカラダになってやる!その舌の根も乾かないうちに挫折してしまうのは、あなただけではない。臨床心理士に聞く6つのヒントで三日坊主を卒業しよう。
中島美鈴(なかしま・みすず)/九州大学大学院人間環境学府学術協力研究員。専門は認知行動療法。保護観察所や少年院などでの臨床経験は22年を超えている。著書に『脱ダラダラ習慣!1日3分やめるノート』(すばる舎)など。
目次
英会話、ダイエット、そしてトレーニング。いずれもやる気があっても続かない課題の代表選手だが、この3つには共通点がある。
英会話レッスンに数回通っても英語ペラペラにはならないし、筋トレを1〜2週間励んでもムキムキにはなれない。最初頑張ったとしても、期待した結果(報酬)が得られるまでに時間がかかりすぎるのだ。
「これらを“報酬遅延課題”といいます。心理学的には、飲酒や喫煙などのように60秒以内に報酬が得られるものはハマって継続しやすい反面、報酬が得られるまでに長い時間を要するものほど習慣化が難しいとされています」(心理学博士で臨床心理士の中島美鈴さん)
パーソナルトレーニングだと続きやすいのは、経験豊富なトレーナーが頻繁(おそらく60秒以内)に「ちゃんとできてますよ」とか「素晴らしい」などと褒めそやしてくれるから。褒められると嬉しいから、それが報酬となり「また褒められたい。次もやってみよう!」と前向きにさせてくれる。
では、たった一人で自体重トレに取り組み、報酬遅延課題を克服して成果を上げるにはどうしたらいいのか。心理学や脳科学を踏まえながら、継続のヒントを探ってみよう。
長年運動に挫折してきた中島先生は、最近ようやく続けられる運動を見つけたという。それはバレエ。
「続ける原動力の一つは、幼少からバレエをやっている友人と月イチで朝活すると決めたこと。彼女みたいに姿勢良くなりたいと素直に憧れるし、次会うときまでに彼女に恥ずかしくない私でいたいと思えるので、レッスンをサボれなくなりました」(中島先生)
自体重トレでもメンターになってくれそうな“先輩”を見つけて定期的にお茶でもしてみると、励まされること間違いナシ。挑戦内容をチャットで報告し合う『みんチャレ』のようなアプリでもつながれば、「あの人も頑張っているのだから、自分も!」と自然に思えるに違いない。
筋トレを始めると、細胞などミクロのレベルではすぐに変化が起こり始める。だが、それがマクロな見た目の変化として自覚できるまでには、最低でも2か月ほどかかる。
この「2か月の壁」を挫けず乗り越えるのに有効なのは、結果ではなく努力自体を報酬とすること。セルフだと激励役のトレーナーはいないから、「今日もできた」「俺って偉い」と自らを褒め倒し、小さな報酬をコツコツ得るのだ。
「努力は目に見えませんが、“見える化”すると報酬に転換しやすい。私も英会話のレッスンができた日は、手帳にシールを貼っています。子供騙しのような方法ですが、意外に効果を実感しています」(中島先生)
好物も食べ続けると飽きるのは、脳にはつねに新しい情報を求める「新奇性」があるから。動物が環境変化を生き残るために発達させた能力の一つだ。
「この新奇性をうまく使い、自宅でも毎回違った場所、ことに普通はトレーニングしないようなところで鍛えると、脳を飽きさせずに筋トレが続けられる確率が上がります」(中島先生)
自体重トレはリビングか寝室で行うのが定番だが、ずっと同じ場所だとマンネリ化が心配。玄関とかベランダとかキッチンのように、多少不便でも脳が「ここでやるの!?」と新鮮に感じるようなところを転々としながらマットを敷いてトライしよう。むろん事前に障害物を退かせて安心安全なスペースを確保してから。
アスリートが厳しい練習に耐えられるのは、五輪で金メダルを獲るといった具体的な目的があるから。
「カッコよくなりたいといった曖昧な目標は動機付けとして弱い。私は数年前16㎏の減量に成功しましたが、その際は石垣島の青い海で白ビキニを着て泳ぐという明快なゴールを作り、やる気を出しました」(中島先生)
お腹を絞り30インチのデニムを穿くなどと狙いを具現化したら、一歩進んでビジュアル化にも挑もう。
「言語だけより視覚を伴う方が印象は強まり、意欲的になる。私も白ビキニで泳ぐ自分のイラストを描いて壁に貼りました(笑)。ネット検索画像をコラージュし、目標達成した自らの勇姿を描くのもアリです」(中島先生)
ヒトの欲求には5段階あり、ピラミッド状に重なり、低い階層の欲求が満たされると上の階層を求めるという(マズローの欲求5段階説)。
「理想のカラダになりたいというのはピラミッドの頂点にある“自己実現の欲求”。いきなりそこを目指すのはあまりにハードルが高いので、まずはいちばん下層の“生理的欲求”を報酬にしてみましょう」(中島先生)
生理的欲求とは食べたい、飲みたい、眠りたいといった根源的な欲求。ゆえに報酬になりやすい。筋トレが1セットできたら夕飯に冷や奴が追加できるとか、好きなプロテインドリンクが飲めるとか、生理的欲求を自ら鼻先に小さな“ニンジン”としてぶら下げると意欲が俄然湧き立つ。
筋トレが三日坊主の人が盛んに口にする言い訳は「忙しくて時間がない」だが、時間がたっぷりあっても運動しない人はしない。在宅勤務なら平日だって時間はいくらでも作れるはずなのに、「いつでもできる」と高を括っていると、その“いつ”は一向に訪れない。
「そこで有効なのが、あえて時間制限を設けること。時間的な制約があると逆に意欲的になれるのです」(中島先生)
レンチンの1分40秒、CMの3分など、ごく短い隙間時間なら「やってみようか」という気持ちになれるもの。それがクリアできたら、お風呂が沸くまでの15分のように少し長めの制限時間を設けてしっかりトレーニングしてみたい。
取材・文/井上健二 イラストレーション/藤田 翔 取材協力/中島美鈴(臨床心理士) 編集/阿部優子
初出『Tarzan』No.887・2024年9月12日発売