鮭の色素の抗酸化力はビタミンCの6000倍! 加齢に伴う悩みには魚が効く

加齢とともに気になる老化や抗酸化、生活習慣病といったキーワード。これらの不安や悩みを解消するスーパーフードこそ魚。鮭やタイに含まれる赤い色素、アスタキサンチンには超強力な抗酸化作用、水産物に含まれている機能性成分の一つであるタウリンには、生活習慣病や視力の衰え予防など…その機能性の高さに思わず手が伸びるはず。

取材・文/石飛カノ 取材協力/西塔正孝(女子栄養大学栄養学部教授)

初出『Tarzan』No.873・2024年2月8日発売

赤い色素アスタキサンチンで抗酸化

エビやカニなどの甲殻、タイの体表、サケやマスなどの筋肉中に含まれる赤い色素成分、アスタキサンチン。最初はロブスターから抽出されたもので、それが単なる色素ではなく強力な抗酸化作用を発揮することが明らかにされたのが1980年代。その抗酸化力たるや、グラフをご覧の通りビタミンCの約6000倍というから驚きだ。

アスタキサンチンの一重項酸素に対する抗酸化力
アスタキサンチン グラフ

一重項酸素とは反応性が極めて高い活性酸素のことで抗酸化力の評価として用いられる。アスタキサンチンは抗酸化物質の中でも抜きん出て抗酸化力が高い。Nishida Y, et al., 2007より

ヒトはアスタキサンチンを作ることができないので、主に海藻を原料とするサプリメントから摂取するようになり、現在に至る。期待できる作用としては、光による肌の酸化ストレスの抑制、免疫機能の向上、また生活習慣病の原因となる酸化による炎症を軽減するといった報告もなされている。

サケは朝食のお供やおにぎりの具でチョイス、赤いタイを加熱調理する際はできるだけ皮ごといただこう。

一般的な食品などに含まれるアスタキサンチン含量(mg/kg)
魚種 含有量
イクラ 0〜14
サケ 3〜40
ニジマス 1〜13
オキアミ 45〜130
エビ・カニ 〜400
ヘマトコッカス藻 10,000〜80,000
イワシクジラ 6

ヘマトコッカス藻はヒト用途のアスタキサンチンの原料。

オレオサイエンス 第12巻第10号(2012)西田康宏「緑藻ヘマトコッカスによるアスタキサンチンの生産とその利用」より

コラーゲン補給は皮を狙え

魚の目の裏のどろっとした部分、昨夜の煮魚の汁の煮凍り、これらは複数のアミノ酸で構成されたタンパク質の一種、コラーゲン。

「肌の保湿や軟骨の強化といったコラーゲンのヒトに対する機能は個人差が大きいのですが、将来的にたくさんのデータが整理できればクリアな結果が出るだろうと思っています。ただ、人間の皮膚や骨を形成しているのはコラーゲンで、それを食べることで分解されたグリシンやプロリンなどのアミノ酸がまたコラーゲンを形成するという循環はあるはず。魚からそのコラーゲンを摂ることは有効だと思います」

コラーゲンは必要な場所に運ばれ、そこで機能するというのが現在の見解。畜肉にも含まれるが、ビタミンDやDHAなど他の栄養素も同時に摂れる魚で補給したい。皮付近の身に多いので、皮ごとどうぞ。

各種魚のコラーゲン含有量(g/100g)
魚種 皮の部分 身の部分
ニジマス 17.1 0.2
ウナギ 14.5 2.2
キンキ 8.7 0.1
キンメダイ 10.1 0.2
アカカレイ 14.1 0.1
クロカレイ 13.0 0.2
アカムツ 9.5 0.1
クロムツ 10.2 0.1

カレイ、タイ、ムツなどの皮は残さずにいただきたい。ウナギ同様、フグ、ハモなどは身も皮にもコラーゲンが豊富という話。

西塔研究室の調査データ

酒飲みの必須栄養素、魚介のタウリンに頼れ

水産物に含まれている機能性成分のうち、その働きが証明されているものはある程度限られている。疲労回復作用で知られるタウリンは、その貴重な機能性成分のひとつだ。主な補給源はイカやタコなどの軟体類、サザエやカキなどの貝類、エビやカニなどの甲殻類、マグロやサバの血合肉などなど。

最も有名なのは肝臓の解毒能力をサポートする働き。二日酔い対策の栄養ドリンクの中に合成されたタウリンが配合されているのは、その働きを期待してのこと。この他にも血液中のコレステロールや中性脂肪を減らす、血圧を調節する、インスリンの分泌を促して糖尿病を予防する、視力の衰えを防ぐといったさまざまな作用があるとされている。

アルコールを飲む機会が多い、または生活習慣病予備軍は意識して魚介類を食べる機会を増やすべし。

タウリンを多く含む魚介類
魚種 タウリン(mg)
サザエ 1,536
コウイカ 1,212
カキ 1,163
マグロ血合肉 954
マダコ 871
ブリ血合肉 673
ズワイガニ 450

100g当たりに含まれるタウリン(mg)の量。敬遠されがちな血合肉の中にとくに豊富に含まれている。残さずいただこう。

國崎直道『この病気にこの魚』(法研)より

覚えておきたい調理法別の栄養変化

海の中を泳ぎ回っていた魚たちが漁師に水揚げされ、市場で取引され、今日もみんなの食卓に上る。魚のパワーを丸ごといただくなら、もちろん生食がいいに決まっている。でも、消化吸収能力が低いときには加熱して食す方が効率的。

それに加熱調理で水分が抜ける分、少ない量でもビタミンや脂肪酸をしっかり補給することができる。ただ、気をつけたいのはあまり加工しすぎないこと。たとえばマアジの場合、開きを焼いたら光や加熱によってビタミンDが壊れてしまう。アトランティックサーモンもソテーよりグリルで焼いた方がビタミンDが多く含まれる。自分で調理するときはもちろん外食や中食の際も、その日の体調と摂りたい栄養素を考えて調理法を選びたい。

調理法による栄養素の変化
魚種 タンパク質(g/100g) 脂質(g/100g) ビタミンD(㎍/100g)
マアジ 皮付き 生 19.7 4.5 8.9
皮付き 水煮 22.4 5.9 11.0
皮付き フライ 20.1 18.2 7.0
開き干し焼き 24.6 12.3 2.6
マイワシ 19.2 9.2 32.0
水煮 22.4 8.7 13.0
焼き 25.3 9.4 14.0
フライ 20.0 30.3 21.0
大西洋サケ 皮付き 生 20.1 16.5 8.3
水煮 22.5 18.4 7.5
蒸し 23.8 15.8 7.5
焼き 24.5 19.7 11.0
ソテー 25.2 20.4 6.9
天ぷら 21.0 20.1 5.6
マサバ 20.6 16.8 5.1
水煮 22.6 22.6 4.3
焼き 25.2 22.4 4.9
フライ 20.0 25.1 3.5
クロマグロ 24.8 7.6 4.0
水煮 27.2 8.3 4.1
蒸し 28.0 9.9 4.3
レンジ 30.4 8.7 4.3
焼き 29.0 10.6 5.0
ソテー 28.0 10.2 4.4
天ぷら 25.1 12.6 4.1

同じ100gなら加熱調理をして水分が抜けるほど、タンパク質や脂質などの栄養素の比率は高くなる。例外もあるが、基本的にビタミンDは加工すればするほど減る。

「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」より