日本の食事の最大課題は、食塩の過剰摂取! たんぱく質や糖質と等しく肝腎なのに、見過ごされがちだ。本日は、各界の専門家が集合。ターザン読者のための座談会をお届けする!
教えてくれた3名の専門家
武見ゆかり先生
女子栄養大学大学院研究科長
日本健康教育学会理事長。厚生労働省「自然に健康になれる持続可能な食環境づくりの推進に向けた検討会」(2021)座長。「健康的で持続可能な食環境戦略イニシアチブ」委員長。
土橋卓也先生
製鉄記念八幡病院理事長
日本高血圧協会(理事)、日本高血圧学会(監事、専門医)、日本痛風・尿酸核酸学会(理事、専門医)などを歴任。「健康的で持続可能な食環境戦略イニシアチブ」委員。
塩澤信良さん
厚生労働省健康局健康課栄養指導室 室長補佐
2011年、厚生労働省入省。消費者庁食品表示企画課、厚生労働省保険局医療課などを経て、2018年現職。「健康的で持続可能な食環境戦略イニシアチブ」を担当。
「減塩」はどの世代にとっても必要
土橋先生
日本は、長寿国になりましたが、健康寿命は平均寿命より、男性で約9年、女性で約12年短いのです。健康寿命を阻害している最大の要因は、脳卒中や心臓病です。その予防が、すなわち減塩です。
武見先生
「健診で、血圧に問題なければ、減塩なんて無関係」と捉えられがちです。減塩が「中高年の話」と思われています。でも、減塩は本質的には、幼児も含め、誰にとっても必要です。小さな子どもでも、無関係ではないのです。
食塩の摂り過ぎは、食事による死亡リスクの断トツ1位!
日本人の食塩摂取の平均は1日10.1g(「令和元年国民健康・栄養調査」)。世界保健機関(WHO)推奨(5g未満)の約2倍、「健康日本21(第二次)」の目標8gを超え、食事による死亡リスクの断トツ1位だ(下グラフ参照)。
我が国における危険因子別の関連死亡者数(2007年)
出典/Ikeda N, et al: PLoS Med. 2012; 9(1): e 1001160.
“見えない食塩”にも注意が必要である
土橋先生
健康日本21(第二次)では、脳卒中や心臓病を減らすため、血圧を今より4mmHg下げるとし、そのために食塩を約2g減らすことを提唱しています。高血圧の方は、全国に4300万人。我々の調査では、高血圧患者さんの約7割は“減塩を意識している”と答えていますが、意識はしていても、実測すると、なかなか減塩ができていません。その乖離こそが、問題です。
塩澤さん
減塩には、国民の皆さんの意識改革が必要ですし、国や自治体だけでなく、学術関係者からのサポートはもちろんですが、
特に事業者から積極的にアクションを起こしていただくことが大切です。それこそまさに、私たち「
食環境戦略イニシアチブ」が目指していることです。
武見先生
今後も増えると予測されている惣菜や弁当などの中食は、確かに注意が必要です。個人が気をつけても、中食で口にする加工品からも食塩はカラダに入ってきます。見えない食塩への注意も大切です。
土橋先生
注意が難しい理由のひとつが、食塩の摂取を可視化する指標がない点です。つまり、実感が伴いにくいのです。
「食環境戦略イニシアチブ」って、どんな取り組み?
厚生労働省が2022年3月に立ち上げた、産学官などの連携による、食環境づくりの推進体制が「健康的で持続可能な食環境戦略イニシアチブ」(略称「食環境戦略イニシアチブ」)。
食塩の過剰摂取、若年女性のやせ、経済格差に伴う栄養格差などを重大な社会課題と捉え、活力ある持続可能な社会の実現を目指す。食環境戦略イニシアチブは、賛同する事業者や専門家、団体などが集まり、相乗効果的な課題解決に取り組んでいる。
はじめの一歩は「食塩相当量」のチェックから
武見先生
「減塩」には、“おいしくない”というイメージが持たれてしまっています。減塩=減らす、我慢するイメージを喚起してしまいがちです。だからこそ、事業者も一緒に考えることが大事です。
土橋先生
楽しみを奪わないやり方ですね。例えば、おいしい減塩食品なら、同じ食生活をしていても自然に食塩を減らせます。そうしたことも含めないと、国民レベルで2g減らすのは難しいと考えています。
塩澤さん
『ターザン』読者は、例えば“いつまでも走れるカラダでいよう”という意識があると思いますが、そんな方でも、減塩の意識が低いと、病気になって大好きな運動ができなくなってしまう可能性があります。
武見先生
まずは、少しずつできることに取り組むことが大切ですね。市販の加工食品には、「食塩相当量」の表示があります。同じような商品でも、エネルギーやたんぱく質の含有量と同様、比較して選べます。手軽に始めるなら「食塩相当量」は便利です。
塩澤さん
家庭での調理による食塩摂取比率が高いため、家庭での調味料や食材、量の工夫が重要です。
健康的なカラダ作りに向けて取り組む4割になろう!
「令和元年国民健康・栄養調査」をもとに、1日の食塩摂取量が8g以上の群(男性7割超、女性約6割)の食習慣改善の意思で分類。食習慣改善の意思がない人の割合は男女とも約6割、意思のある人は約4割となった(下のグラフ参照)。
食習慣改善の意思(20歳以上、男性)
(参考)「健康日本21(第二次)」の目標
食塩摂取量の減少 目標:1日当たりの食塩摂取量の平均値8g
出典/厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査」より改変
日進月歩で進化する減塩食品を試してみる
武見先生
減塩の調味料は、手軽に入手できます。味の面からも、おいしいものが増えています。ある調査では、普段使っている調味料を減塩タイプに替えても「全く気づかなかった」「すぐには気づかなかった」方が約8割いたそうです。
塩澤さん
例えば減塩にあまり関心がない家族には、分からないように食塩量を“こっそり”と、段階的に減らしていくことは、ひとつの手法として知られています。
土橋先生
高血圧学会が認定する減塩食品は118品目。すべて味覚試験をしており、「百聞は一味にしかず」、食べ比べてみてください。
武見先生
「その人が選択する消費行動が、社会を変える」という発想が大事だと思います。減塩も同じで、自分たちの行動が、社会に影響を与えていくのです。
土橋先生
そうした意識で育まれた「家庭の味」は、さらに次の世代に伝えてほしいですね。家庭の味は、大人になってから変えることが難しいものですから。
まずは、ちょっとずつ! 大切なひとには、おいしく、こっそり
食塩の摂取量は、家庭での調理に使う調味料が占める割合が多い※。まずは身近な調味料をチェックし、できるところから少しずつ減塩に取り組もう。それができたら、大切なひとにも“こっそり”減塩をお裾分け。
※Asakura K, et al. Public Health Nutr. 2016; 19(11): 2011-23.
INFORMATION
厚生労働省「食環境戦略イニシアチブ」の詳細はこちら
「健康的で持続可能な食環境戦略イニシアチブ」参画事業者一覧
旭松食品株式会社/味の素株式会社/株式会社エブリー/亀田製菓株式会社/キッコーマン株式会社/キユーピー株式会社/株式会社健学社/国際商業出版株式会社/敷島製パン株式会社/シダックスコントラクトフードサービス株式会社/公益財団法人ダノン健康栄養財団/株式会社ニチレイ/日清食品ホールディングス株式会社/日本航空株式会社/株式会社ノルト/株式会社法研へるすあっぷ21編集部/株式会社マルヤナギ小倉屋/みるたす株式会社/株式会社 明治/株式会社リテール総合研究所/株式会社ローソン
※五十音順(2022年11月時点)
取材・構成・文/大田原透 イラストレーション/沼田光太郎
初出『Tarzan』No.847・2022年12月15日発売
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