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男性ホルモンが減少していく中高年男性は、幾多の心身の不調に振り回されがち。なかでも排尿障害をもたらす前立腺肥大症はホルモン環境の変化だけが原因ではなく、動脈硬化の果てに表れる病態なのかもしれない。
若いころと比べて尿に勢いがなくなったせいか、排尿に時間がかかる。用が済んでも残尿感を引きずったり、大した量でもないのに強い尿意からトイレに駆け込んだりする男性には、前立腺肥大症が進行している可能性が高い。
前立腺とは男性だけに存在する生殖器。下の図のように位置は膀胱の直下でぐるりと尿道を取り囲む。精子を保護したり、精子の運動能力を高める前立腺液を作り、これが精液に合流する。
一般的に臓器は加齢に伴い小さくなるものだが、前立腺は大きくなる人がいる。そのメカニズムは完全にはわかっていないが、肥大し尿道を圧迫し始めると、排尿に困難を抱える人が現れる。
これに悩む人は多く、厚労省の「患者調査」では2017年だけで47万3000人。ただし、これは医療機関を受診した人数のみで、受診しない人も相当数いるのは間違いなく、総患者数は約400万人とも推定されている。
メカニズムがわからない以上、原因もはっきりと特定できないが、加齢に伴い患者数が増加し、特に50代から急増することからホルモン環境の変化に注目した研究は昔から多い。その一方、前立腺肥大症を罹患した家族(男性親族)がいる男性は、同様に罹患する可能性が高くなるともいわれている。
恐らく決定的な因子が単独で悪さをするのではなく、いくつもの因子の集積による相乗効果で起きる変化である可能性が高い。
というのも、近年の臨床現場や疫学研究によれば、高血圧、脂質異常症、糖尿病などといった動脈硬化に関連する因子を多く持っている人ほど、国際前立腺症状スコア(IPSS、下記参照)も高いことが報告されているのだ。
下記は世界共通で使われている国際前立腺症状スコア。7つの症状を頻度別に評価するもの。
この1か月間に、どのくらいの割合で次のような症状がありましたか。
合計で7点以下なら軽症。8~19点は中等症、20点以上は重症。
たとえば高血圧を放置すると、動脈に負担がかかり、内皮細胞に傷害が及び、血管壁内膜が肥厚して動脈硬化が進行し、血流が低下するのはご存じだろう。
この負の連鎖反応は前立腺でも起きると考えられる。高血圧患者の前立腺は血流が低下し、低酸素状態に陥る。このため酸化ストレスや炎症状態が誘導され、これらが前立腺細胞増殖、前立腺肥大を招くと考えられている。
動物実験ではこの仮説を支持する結果が出始めている。
人為的な操作をしなくても、時の経過とともに高血圧になるラットと、健常なラットで排尿障害改善薬の効果を調べたところ、投薬された高血圧ラットの前立腺血流量は健常なラットと遜色がなかった。また、酸化ストレスマーカーも、細胞増殖マーカーも健常なラットと大差なかった。
つまり、動脈硬化を招くような疾患を抱えていたとしても、治療薬でコントロールできていれば、前立腺肥大症の発症は抑えられる可能性があることになる。
なお、前立腺肥大は一つ一つの細胞が大きくなるからではなく、細胞の数が増えることで臓器が大きくなると考えられている。専門的には前立腺肥大ではなく、良性前立腺過形成と呼ばれる。特に悪性の変化ではないのだ。
前立腺がんとはまったく異なる疾患であり、がんの呼び水でもないので、不便がなければ慌てて受診するまでもないが、排尿に不快、困難があって生活に支障が出るなら泌尿器科を受診しよう。
実は排尿障害は前立腺が大きくなることだけが原因ではない。前立腺の平滑筋に緊張が続いても尿道は閉塞気味になる。この緊張を和らげるα1遮断薬や、血管拡張作用もあるPDE5阻害薬などは広く使われているし、男性型脱毛(AGA)の治療薬としても有名な5α還元酵素阻害薬(デュタステリド)が処方されることもある。
内服薬で改善できればいいが、重症の場合は手術も視野に入ってくる。たとえ良性の病気でも、重症の放置はダメだ。常に残尿が多く、尿が滞りがちになると、腎臓への負担が重くなり、腎疾患にも発展しかねない。
予防、または進行を遅らせるためには既にいろいろと提言があり、その中心命題は食事の改善と運動習慣の確立で肥満を避けるべきこと。いまのところこれが有力だ。
健康食品、サプリメントに関しては、実験によっては有効性を示す統計学的有意差が出なかったり、適量が不明で過剰摂取からかえって症状を悪化させる可能性もある。しばしば俎上に載るノコギリヤシについても確実な有効性は報告されていない。
ただし、野菜、穀物や大豆などに多く含まれるイソフラボノイドやリグナンは前立腺肥大症を抑制するといわれている。
喫煙、アルコールとの関連は現時点では不明。全貌の解明は今後の研究を待つことになるが、この疾患は生活習慣病の外縁に位置しそうだ。生活習慣病対策はここでもまたものをいうに違いない。
取材・文/廣松正浩 イラストレーション/横田ユキオ 取材協力・監修/清水翔吾(高知大学医学部薬理学講座助教、医学博士・生命科学博士)
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