加藤容崇先生
教えてくれた人
かとう・やすたか/1983年生まれ。北斗病院腫瘍医学研究所医師。サウナを科学し正しく発信していく団体〈日本サウナ学会〉を設立、代表理事を務める。著書は『医者が教えるサウナの教科書』。サウナに行く頻度は毎日。
酒井健太さん
疑問をぶつけた人
さかい・けんた/1983年生まれ。〈アルコ&ピース〉のツッコミ担当。SBSラジオ『ヌンヌンヌーン!』が毎週日曜12:00~放送のほか、テレビやラジオに多数出演。仕事の空き時間があればサウナへ。銭湯サウナも専門店も大好き。
サウナ・水風呂で血管の弾力性が高まる
血流改善にサウナは役立つ? サウナー歴10年以上という酒井健太さんが教えを請うのは、医師で日本サウナ学会も束ねる加藤容崇先生。サウナー&同じ歳と共通項もある二人が今回訪ねたのは、人気銭湯の〈押上温泉 大黒湯〉。
加藤先生
はい、ちょうどいい銭湯が。僕はサウナの設備云々より習慣化こそ大切だというのが持論で。それに混んでいないサウナならば自分のペースで入れますしね。
酒井さん
最近はどこも大盛況で…。では、本題(笑)。単刀直入に、サウナは血流にいいんですか?
加藤先生
適切に入れば非常にいいです。サ室は極端に暑く水風呂は寒いですが、その体温調整に血液が関わります。サ室では皮膚表面の血流が約10倍に増える一方、深部は減る。水風呂はその逆です。こうして血液の配分を変えることで熱が逃げないよう調整し、体温を一定に保てます。
加藤先生
でもその反復により血管の弾力性が高まります。関節や筋肉は運動により収縮・弛緩を反復すると動きが改善されますが、血管も同様にサウナで収縮・弛緩を繰り返すとしなやかに。ちなみに外気浴中は血流の激しい増減が徐々に落ち着き、元に戻っていきます。
サウナで血管の弾力性がアップ
心臓の拍動が動脈を通して手足に届く速度の変化を、サウナに入る前後で調査。動脈硬化により血管の壁が厚くなったり硬くなると、血管が弾力を失い脈波伝搬速度は上がるが、サウナ後は入浴前よりその速度が下がった。出典:Earrric Lee et.al Sauna exposure leads to improved arterial compliance:Findings from a non-randomised experimental study,European Journal of Preventive Cardiology, Volume 25, Issue 2, 1 January 2018, Pages 130–138,Table2より作成、一部日本語に翻訳
「ととのった〜」に関係するのは自律神経
酒井さん
外気浴中にととのった~と一番感じますが、それと血流はなにか関係があるんですか。
加藤先生
相関関係はあります。ととのう感覚に直結するのは自律神経。血流はその影響を大きく受けていて、活動モードの交感神経優位になれば血流が減り、休息モードの副交感神経優位になれば増える。ととのうとは、副交感神経優位な状態を指すんです。
酒井さん
なるほど。となるとサウナ・水風呂・外気浴で、最も副交感神経が高まるのはいつですか。
加藤先生
水風呂後半です。入った直後は寒くて血管が縮まり交感神経優位になりますが、水温に慣れると心拍数が徐々に減り、副交感神経が優位に。そのままで外気浴するとリラックス状態が続く。だから快適なんです。
酒井さん
サウナすげ~。全然関係ない話かもしれませんが、僕、昨晩寝違えて首が痛くて…サウナでどうにかなりませんかね?
加藤先生
血流が促されるので、改善される期待大です。同じ理由で肩こりや腰痛にもいいですよ。
サウナ後に熟睡できる理由は「深部体温」
酒井さん
あとサウナ後って熟睡できる気がするんですが。
加藤先生
それは深部体温の低下が関わっています。サウナによる表面と深部の血流の変化は極端なので元に戻す調節も“すぎる”傾向が。入らない日に比べて、サウナ後は深部の血流が減りやすい。皮膚表面はその逆です。
加藤先生
まさしく。サウナを出て90分~2時間程度で普段以上に深部体温が下がるといわれます。そこで入眠すると深く眠れます。
酒井さん
昔深夜ラジオをやってた時、収録後に地方ロケが入っていれば、サウナに直行し、現場への移動中は寝入るのが常でした。
加藤先生
それは酒井さん流の過酷な環境での生存戦略だったのかも。
酒井さん
ありえます(笑)。その頃からサウナに通うように。だからか疲れが抜けないとか寝つきが悪いといった不調はほぼ皆無。最近は仕事の空き時間、日中にサウナに入ることが大半です。
加藤先生
その場合、コツが要りますよね。サウナ後に仕事がある時にいつも通り入ると眠くなる。
酒井さん
まさに。だから先輩との仕事前は控えてます(真顔)。
加藤先生
深部体温を下げすぎなければいいんですよ。3~4セット入らず1セットで済ませたり、水風呂に少し長めに浸かったり。そもそも日中は交感神経優位なのでととのいにくく、何セットもこなす意味が実はあまりない。
日中のサウナは心臓に負担がかかりやすい
加藤先生
日中は短めに済ませることがリスクヘッジにもなる。朝風呂で倒れてしまうご高齢者が少なくないのは、日中は心臓に負担がかかりやすいのも一因です。
酒井さん
良くも悪くも、サウナの影響は大きいですよね。サウナや水風呂では高血圧の人などへの注意喚起をよく目にします。
加藤先生
持病があれば主治医に相談すべきですし、持病がなくても適切に入ることが大前提です。
酒井さん
自分が “適切”に入れてるか、正直不安です…。
酒井さん
あ、先生もう一つ質問が。サウナ付きのジムもありますが、運動前と運動後、いつ入るのがベストなんですか。
加藤先生
諸説ありますが、結論から言えば運動後が理想的。血流はもちろん、疲労物質の排出も促進されます。運動前のサウナは血流が促進されてケガのリスクが下がる。でも高負荷&短時間の運動前は控えるべきです。筋肥大が抑制されるという研究があります。
酒井さん
マッチョは要注意。それにしてもサウナと血流って想像以上に密接ですね。そもそもこういう理論を踏まえてサウナに入ったことも今までなかったです。
酒井さん
ハイ(笑)。でも、改めてサウナの偉大さを感じました。
加藤先生
さて、難しい話はここまで。そろそろ水風呂行きますか。
加藤先生監修・酒井さん実演。血管・血流にいいサウナの入り方
① サウナ室では時計でなく脈拍に意識を向ける
「体調により体感は大きく変わるため、着目すべきは時間ではなく心拍。軽い運動時と同等の心拍になった際に出るのがベストです。スマートウォッチなどで測定、なければその数値に近いBPMの曲を脳内再生して脈をとるのもありですね」(加藤先生)
② 水風呂に浸かる時間は1分以内を死守すべし
「俺、1分以上入っちゃう時もあります」(酒井さん)
「血液は20~30秒で全身を一巡するといわれ、水風呂に長く入りすぎると皮膚表面で冷やされた血液が深部に流れ、せっかくサウナで生じた体温差がなくなる。1分以内が理想的です」(加藤先生)。
③ 外気浴中は目を閉じてととのう体感に没頭
「副交感神経優位を保つには、目を閉じるのがベターです。視覚情報があると脳は興奮しがち。さて、これで1セットが終了。よく3セットがいいといわれていますが、無理にこだわらず、その日の体調次第でセット数も調整しましょう」(加藤先生)