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知ってるつもりが一番危ない、血管・血流の8つの常識

血液のイメージ図

健康を左右する大事な血管と血流。だけど、その仕組みと役割をちゃんと理解しているだろうか。学生時代の曖昧な理科の記憶を今こそ更新。知識武装が身を守る!

① 強い血管は、薄くてしなやか

ボディビルダーは、分厚く肥大した筋肉を目指す。でも、血管のあるべき姿は対照的。細マッチョのように、スリムかつしなやかで、柔軟性に富むのが正解だ。

なぜか。血液を巡らせる原動力は、みぞおちの少し左側にある心臓。心筋という筋肉の固まりで、生まれてから死ぬまでノンストップで働き続ける、超絶タフなポンプである。その心臓がドクンと1回拍動するたびに、血液は血管へと勢いよく送り出される。

「血管の柔軟性が高いと、心臓から血液が送り出されて血流が増えると膨らみ、血液が心臓へ向かうと元に戻ります。血流の変化をしなりながら自在に受け止め、血流をスムーズにしてくれるのです」(保谷厚生病院循環器内科部長の梅津拓史医師)

血管が硬く厚くなると、増減に対応できなくなり、血流は悪化する。運動不足で筋肉は年々硬くなるが、同じく血管も加齢で硬くなっていく。

血管を作る結合組織は、コラーゲン(膠原線維)エラスチン(弾性線維)という2種類の線維からなる。前者は血管の変形を抑え、後者は変形した血管を元に戻すゴムのような性質を持つ。加齢で弾性線維は減りやすく、復元力が落ちて血管は硬くなりやすい。早めに手を打とう。

② 血管は内側が最も大事

3種類の血管のいちばん内側にあるのは、血管内皮細胞という扁平で薄っぺらな細胞。実は、この細胞こそ小さな巨人。血流と血管のクオリティを決める重要な働きを担う。

血液の大事な役割は、細胞に酸素と栄養素を届け、二酸化炭素と老廃物を受け取る交換作業。その担い手となるのが、毛細血管の血管内皮細胞だ。血液を濾過する腎臓などでは、内皮細胞には小さな孔が開いており、交換作業をより効率化している。

血管内皮細胞には、血管を広げ、血流を増やす働きもある。血流が盛んになると、血管内皮細胞にずり応力というストレスが加わる。

すると血管内皮細胞から一酸化窒素(NO)が分泌される。このNOが中膜の平滑筋を緩め、血管は広がり、血流がさらに盛んになる。血管の老化を加速し、血流を悪くする動脈硬化は、血管内皮細胞の衰えから始まる

「NOは血管を広げて血圧を下げ、血の塊の血栓を防ぐなどして、動脈硬化を抑えてくれるのです」

血管内皮細胞の実力を知るのに有効なのが、FMD検査。腕を圧迫して血管内皮細胞からNOの産生を促し、血管がどのくらい広がるかを超音波でチェックする。気になる人は、内科でFMD検査を受けてみよう。

③ 動脈、静脈、毛細血管は作りも働きもまるで違う

ひと口に血管といっても、大きく3つの種類がある。動脈静脈毛細血管だ。この3タイプは名前が違うだけではなく、その働きも作りもまったく異なっている。

血管の作りはこうなっている
血管の作りはこうなっている イラスト

動脈と静脈は、内膜、中膜、外膜の3層構造。中膜は平滑筋という筋肉を含み、血管を収縮させたり、拡張させたりしている。両者の間をつなぐのが、毛細血管。中膜と外膜はなく、薄い血管内皮細胞と基底膜だけで構成される。

まずは、動脈。心臓が送り出した血液を全身へ届ける。3層構造で、ここを流れる血液を、動脈血という。

3層構造のいちばん内側は、血管内皮細胞と基底膜からなる薄い内膜。それを取り巻くのが、平滑筋という筋肉と前述の弾性線維からなる分厚い中膜だ。外側を、結合組織からなる外膜が囲み、補強する。

次は、静脈。組織を巡った血液を心臓へ還流させる。ここを流れている血液を、静脈血という。

静脈は、動脈と同じ3層構造だが、心臓からの圧力をじかに受けないので、中膜も外膜も動脈より薄く、中膜の平滑筋や弾性線維も少ない。

静脈で何といっても特徴的なのは、静脈弁という弁を持つこと。周囲の筋肉の収縮で圧力が加わると、弁が開いて静脈血が流れる。そして筋肉が弛緩して圧力が減ると、弁が閉じて静脈血の逆流を防ぐのである。

最後に、毛細血管。その名の通り、髪の毛の10分の1ほどの太さしかない細い血管で、細胞一つひとつに血液を送り届ける。毛細血管は、血管内皮細胞と基底膜のみで作られる。

④ 血液は骨髄で作られている

血液はどこで作られるのか。正解は骨髄。骨の中央部にある組織だ。成人で造血するのは、背骨の椎骨、骨盤、肋骨、胸骨、頭蓋骨などだ。

骨髄には造血幹細胞が潜み、血液の働きの鍵を握る血球成分を作る

血球には赤血球、白血球、血小板があり、血液の約45%を占める。

赤血球は組織に酸素を運び、代わりに二酸化炭素を受け取る。寿命はおよそ4か月。カラダを作る細胞の総数は約37兆個だが、赤血球はその半分を超える約20兆個を数える。

白血球は、コロナのような外敵やがんと戦う免疫作用を担う。好中球、好酸球、好酸基球、リンパ球、単球(マクロファージ)がある。造血幹細胞の分化に異常が起こり、白血球系細胞などが無制限に増殖するのが、“血液のがん”とも称される白血病。

血小板は、活性化すると血の塊である血栓を生み、カサブタを作って止血を担う。血栓が血管で詰まると、心臓病や脳卒中の原因となる。

血液の血球成分以外の約55%は、液体成分である血漿。90%が水分で、残りはタンパク質と電解質である。

血漿の水分は糖質、中性脂肪やコレステロールなどの脂質などを含み、この糖質と脂質は血流&血管のコンディションに多大な影響を及ぼす

血液中の血球成分とその働き
血液中の血球成分とその働き イラスト

血球の大半は赤血球。ヘモグロビンを含み、酸素を運ぶ。不要な二酸化炭素を運ぶのも、赤血球。白血球は免疫を担う。このうち単球から分化したマクロファージは動脈硬化に関わる。血小板は血液を凝固させて血栓を作る。

⑤ すべての血管はつながっている

血管ネットワークのドンは心臓。血管と心臓を合わせて「血管系」と呼ぶ。その特徴は、動脈、静脈、毛細血管が全部つながっていること。

心臓を中心とする血管系
心臓を中心とする血管系 人体図

心臓の右側は肺循環を担い、右心室から肺へ血液を送る。肺から戻った血液は左側の左心房へ。左側は全身へ血流を送る体循環を担い、左心室から動脈で全身へ血液を送る。全身を巡った血液は静脈を通って右心房へ戻る。

血管系には、肺循環体循環という2大ルートがある。

血管系 肺循環と体循環

肺循環は、心臓から肺へ静脈血を送り、酸素を取り込み、二酸化炭素を排出した動脈血を心臓へ戻すルート。ややこしいのだが、心臓から肺へ静脈血を送るのは肺動脈、肺から心臓へ動脈血を送るのは肺静脈だ。

体循環は、肺から受け取った酸素たっぷりの動脈血を、動脈で全身の組織へ送り出すルート。肺循環でも体循環でも、動脈と静脈の間には、毛細血管がある。

毛細血管の血管内皮細胞と近隣の細胞は、ごく薄い細胞膜を介し、酸素と二酸化炭素、栄養素と老廃物の交換を行う。血管の総延長は、日本の鉄道路線全長の4倍弱となる約10万kmだが、その90%は毛細血管

血管がつながっているからこそ、できることがある。それはカテーテルと呼ばれる細い管を用い、詰まった動脈などを治療すること。

「カテーテルは、太腿の付け根や手首などの動脈から体内に入れます。末梢から中心へ進むほど動脈は太くなるので、心臓や脳など患部までスムーズにカテーテルが届くのです」

⑥ 運動時は80%以上が筋肉と皮膚に集まる

血液の多くは、動脈を勢いよく流れているという印象が強い。でも、動脈を流れる動脈血は全体の20%ほど。75%は静脈を流れる静脈血で、残り5%毛細血管を流れる。

臓器別に血流の配分を見てみよう。血液は基本的に、盛んに代謝を行っており、より多くの血液を要求するところにたくさん流れている。

安静時にもっとも多くの血液が流れているのは、肝臓消化管。合わせて全体の20~25%程度だ。この他、腎臓が20%、筋肉が15~20%、脳が13~15%などとなっている。

だが、運動時は血流が大幅に増え、この割り当ても劇的に変わる。

運動時に血流が集中するのは、その主役である筋肉と皮膚。全体の80~85%にも達する。皮膚に血液が多く流れるのは、運動で上がる体温を下げようと、発汗を促して気化熱を奪うため。肝心要の脳の血流量は保たれており、その分だけ肝臓、消化管、腎臓の血流は大幅ダウンする。

血流の配分で大きな役割を果たすのが、交感神経と副交感神経からなる自律神経。自律神経は、臓器を養うすべての血管に延びている。

交感神経が優位になると血管が縮み、血流は減る。副交感神経が優位になると血管は広がり、血流が増える仕組みになっているのである。

⑦ 血液の乱れから動脈硬化が始まる

人は血管から老いる」という金言がある。一つひとつの細胞を満たす血液を運ぶ重要なインフラである血管がダメになったら、あらゆる機能が低下して老化するのは必然。

血管の老化=動脈硬化。しなやかな動脈が硬く分厚くなり、血流が制限されて詰まりやすくなる。

前述のように、加齢で血管の結合組織は変質して硬くなりやすいが、それは想定内。それを超える硬化を起こすのが、動脈硬化。年齢より“血管年齢”が老ける現象である。

動脈硬化の引き金となるのは、高血圧高糖質脂質異常症。メタボリックシンドロームの診断基準としても、すっかりおなじみだろう。

高血圧で強い圧力が加わり続けると、圧力に耐えるために動脈は硬くなりやすい。高糖質だと、血管を広げて動脈硬化を防ぐ血管内皮細胞の働きが落ちる。また、脂質異常症になると、血管の内側にコレステロールが溜まりやすくなる。

そこからプラークと呼ばれる粥状のコブが生じるのが、動脈硬化の幕開け(詳しい発症メカニズムは下イラスト参照)。

動脈硬化が進むプロセス
動脈硬化が進むプロセス イラスト

①血管内皮細胞が傷つき、隙間からコレステロールが侵入。活性酸素で酸化される。②単球から生じたマクロファージが侵入。③異物と見なした酸化コレステロールを食べる。④コレステロールが多すぎると①~③が繰り返され、死んだマクロファージが粥状のプラークに。⑤膨らみすぎたプラークが破れる。⑥血小板が集まる。⑦血栓が生じて血流を制限。

過食や運動不足による肥満も問題。ことに内臓に体脂肪が溜まって太る内臓脂肪型肥満になると、内臓脂肪から高血圧、高糖質、脂質異常症を促す悪玉物質が分泌されるからだ。

⑧ 生活習慣の改善で血管は若返る

日本人の死因2位は心臓病、3位は脳卒中。ともに動脈硬化が発端だ

動脈内で生じたプラークに、組織が硬くなる線維化が起こると、動脈は硬化する。さらに、何らかの原因でプラークの中身が飛び出ると、傷口を塞ぐために血小板が集まり、血液が固まり血栓ができる。それが動脈を塞ぐと、血流は滞る

加齢で血管がある程度硬くなるのは仕方ないけれど、それを超える想定外の動脈硬化は回避したいもの。やはり大切なのは、血管内皮細胞の機能不全を避けること

血管内皮細胞が衰えると、血小板の働きは活発化。血栓ができやすい。それが心臓で生じると心臓病、脳で生じると脳卒中が起こりやすい。

「生活習慣を正しく変えてやれば、働きが落ちた血管内皮細胞を正常化して動脈を若返らせることは可能。プラークの蓄積が始まってしまうと、後戻りさせるのは困難です」

動脈を若返らせるポイント
動脈を若返らせるポイント イラスト

正常な血管①と、②の血管内皮細胞の機能低下は減量血圧管理などで正常化可能。③プラークで組織が変形する器質的変化が起こると逆戻りは難しく、④さらに動脈硬化が進み血流が制限されるとPAD(末梢動脈疾患)や腎不全に陥りやすい。

血管内皮細胞にストレスを与え、動脈硬化を進める危険因子は、前述の高血圧、高血糖、脂質異常症。それに内臓脂肪型肥満喫煙飲酒だ。

血管と血流を守りたいなら、適度な運動、栄養バランスとカロリーに配慮した食生活を心掛けてこれらのリスクを減らし、禁煙と節酒に励む愚直な道以外ない。王道を歩もう。

取材・文/井上健二 イラストレーション/加納徳博 取材協力/梅津拓史(保谷厚生病院循環器内科部長)

初出『Tarzan』No.834・2022年5月26日発売

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