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“スリップインするだけ™”じゃない!《スケッチャーズ スリップ・インズ》快適学。
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近年「eスポーツ」という言葉が広く知られるようになり、ゲームを職業とする「プロゲーマー」の存在にも注目が集まっている。身体運動はゲームプレイの質に変化をもたらすのか?『ストリートファイターV』を中心に、格闘ゲームの世界でトッププレイヤーとして活躍するときどさんに、ゲーム以外にも日常的に取り入れているというトレーニング内容や格闘ゲーム業界の今後について伺った。
目次
――ときどさんは普段プロゲーマーとして世界で活躍されていますが、筋トレやダッシュ、空手などにも取り組んでいるんですよね。世間的なイメージだと、ゲーマーの方は運動嫌いなんじゃないかと思っちゃうんですが。
周囲で運動をやっている人は少数ですね。というか、運動なんかやってたら煙たがられますよ、「何お前、運動なんかやっちゃってんの?」って(笑)。僕もそうですけど、子どものときから運動が得意だったらここまでゲームにのめり込んでないんじゃないかなぁ。
――なるほど。そんなときどさんが筋トレをするようになったきっかけは何だったんですか?
最初は、東大にいたときに石井直方先生の授業で筋力トレーニングを教えていただいて、それが面白かったんですよ。
――おお、大学時代に「筋肉博士」こと石井先生との出会いがあったんですね! どういうところが面白いと感じたんでしょう?
筋トレってやればやっただけ伸びるじゃないですか。受験勉強もそうですけど、僕は「数字が上がる」ということに面白さを感じられるタイプなんです。僕らがやっている格闘ゲームってどこまで行っても相手がいて、「勝った負けた」の世界だけど、トレーニングは自分自身との戦いなので、進歩が実感しやすいのがいいですよね。
――それ以降プロゲーマーになっていく間も、ずっと筋トレに取り組んでいたんですか?
いや、大学を出てプロになってからは遠ざかっちゃっていました。でも10年くらい前、格闘ゲームが「eスポーツ」として注目され始めたときに、ゲーマー仲間で集まって「この先、俺たちはどうしていこうか?」という話をしたんです。そのときに、当時ジムに通ってカラダを鍛えていた梅原大吾さんが「今後この業界は一気にブレイクするかもしれないから、今のうちにその準備をしとかないといけない。トークはいきなり上手くはならないだろうから、せめて見栄えぐらいはきちんとしよう」と言ったんですよ。
――あのカリスマ、ウメハラさんがきっかけだったんですね。それは、あえて直接的な表現で言ってしまうと「ゲーマーは不健康で小汚い人が多い」という世間のイメージを覆したい、ということだったんでしょうか。
まあ、言ってしまえばそういうことですよね。ゲームの業界ってまだ全然安定したものじゃないんです。特に僕らのやっている格闘ゲームには、もっともっと新しいプレイヤーたちに入ってきてほしい。じゃあどうやって訴えかけられるかっていうと、最低限の身だしなみを整えたりして、「お、かっこいいじゃん」と思ってもらえるようにしておきたいわけです。
――「プロ」と言われる職業は何でもそうだと思うんですが、やっている本人はプレイそのもののカッコよさを見てほしかったりしないんですか?
プレイでかっこいいと思ってもらう以前に、まずはこの業界のことを知ってもらわないといけないですよね。そのために最低限の身だしなみには気をつけましょうと、そういう順番です。当時の僕も、美容院に行かずに自分で髪を切っちゃっていたような人間だったんですが、梅原さんの話があってから、もう一度ジム通いを再開して「見栄えを良くする」「健康的な面を見せる」ことをやっていこうと思ったんです。
――ときどさん以外のプロゲーマーの方も筋トレをするようになったりしました?
いやいや、考え方は色々です。「少しだらしない部分も出していったほうがゲーマーっぽい」と考える人もいると思いますよ。ただ、一人すごいなと思ったのが、ボンちゃんというトッププレイヤーです。彼はもともと体重が100kg以上あったんですが、70kg台まで落として、しかも禁煙したんですよ。
――めちゃくちゃすごい…!
言い出しっぺの梅原大先生も、当時はジムに行ってて腕とかも超太かったんですよ。でもボンちゃんの変化を見て「俺の役割はここまでだ」と思ったのか、今はもうやめちゃったみたいですね。最近は健康的というよりも仙人的な方向性に行っている気がします。
――な、なるほど…梅原さんは率先垂範はしたけれども、すでに役割は終えられたと(笑)。
――でも、ときどさんの場合はトレーニングをやっていくうちに「これはゲームに活きるな」と感じ始めたんですよね。
そうですね。感じたメリットは3つあります。まず1つ目は、さっきも言った通り「見た目が良くなる」。ゲーマーってそもそも動きが少ないので年齢を重ねてくると太ってしまう人も多いんですが、僕は30代半ばの今でも体型は維持できてる方じゃないかな、と。
2つ目は、移動で疲れにくくなったことです。僕たちは海外の大会に出ることも多くて、「この週はアメリカで、次の週はヨーロッパだ」みたいなことも少なくない。そのときに移動の疲れがプレイに影響することがかなりあるんです。僕が海外でも勝てているのは、トレーニングで基礎的な体力がついているからなのかなと思います。
――トレーニングをして体力をつけておくと環境の変化にも対応しやすい、ということなんでしょうか?
それもありますけど、僕が感じているのは「ポジティブになれる」ってことですかね。よくネットとかでは「筋トレさえやっていればいい」って言われているじゃないですか。
――ここ数年、「マッチョ社長」ことTestosteroneさんがTwitter上で「筋トレで全ての問題は解決する」ということを発信していて、書籍も大ヒットしていますね。
さっきも言ったようにゲームって「勝った負けた」の世界で、どこまで行っても他人との戦いなんです。でも筋トレは自分との戦いだから、きちんとやれば成功体験が積み重ねられる。大会ではすごいプレッシャーがかかるんですが、ちょっとしたことでも成功体験を持っていると、そういうときにパフォーマンスを発揮できるんですね。
――格闘ゲームも、やっぱり人との関わり合いなんですね。そこで結果が出ないままだと、どんどん沈んでいってしまいそうですけど、比較対象が自分であれば成功体験を積み重ねられる、と。そして3つ目はどんなことなんでしょう?
「集中力アップ」かなと思います。格闘ゲームの試合中って、自分の隙を見せないよう我慢して集中して、反対に相手の隙を伺うことが必要なタイミングが必ず出てくるんです。筋トレをしているときって、次のレップス*を挙げられるかどうかわからないけど、もう一回挙げてやろうというときに、集中してないと絶対挙がらないですよね。そこで筋トレ中に集中状態を疑似体験できるというのがいいなと。
――そういう集中状態って、ゲームの練習をしているだけではなかなか体験できないことなんですか?
普段の練習で体験するのはなかなか難しいです。というのも、ゲームの練習試合って負けてもそんなに失うものがないんですよ、格闘技と違って痛いわけでもないですし。でも、いざ本番になると凄いプレッシャーがかかる瞬間が訪れてしまう。練習だけでは体験できない集中状態を、筋トレでは疑似体験できるんですよね。
――「追い込まれる瞬間」の経験を重ねているかどうか、ということですよね。ときどさんは空手にも取り組んでいるそうですけど、空手をやっているとストリートファイターのプレイにも変化が起こったりするものなんでしょうか?
なきにしもあらず、と自分では思うんですけどね。空手のスパーリングって緊張するし痛いし、嫌なんですよ。師匠とスパーリングさせてもらうと、本当に隙を見せるとやられちゃって、三日間ぐらい痛い(笑)。
――かなり緊張感がありそうです(笑)。
そう、「やられちゃいけない」という緊張感を味わうことができて、大会での心理状態を疑似体験できるのかなと。最近よく「ときど、胆力がついたな」と言われるようになったんですが、空手のおかげもあると思います。
――そもそも格闘ゲームの強さって、どんな要素で成り立っているものなんでしょう? すぐに思いつくのは反射神経とかなんですけど…。
1つ目の最優先すべき要素は「攻略」だと思っているんです。格闘ゲームであれば「相手とこの距離のときはこういうところを狙うと効果的だ」とか「残り時間がこれぐらいだったらこういう要素が加わってくる」みたいなことを考えて落とし込んでおくということ。
2つ目は「操作技術」。攻略が頭の中に入っていても、手が追いつかなかったりするので、きちんと自分の頭で思い描いたように操作できるように練習しておく必要があります。
3つ目はおっしゃるとおり「反射神経」で、なかでも「目の良さ」が大事です。相手の挙動の一手目が見えるかどうか、ですね。
――それは、いわゆる「視力」とはちょっと違うんでしょうか?
要するに「動体視力」ですね。だからナンバータッチ*をやったりもするわけです。
4つ目は、身も蓋もないんですけれど「キャラクターの強さ」ですね。ただ、キャラクターが強いかどうかよりも「好きかどうか」で使うキャラを決める人も多いです。
5つ目は「読み合い」の強さです。相手の出方を予測して、駆け引きをする。人の心を読むのがどれぐらいうまいか、ですね。
最後の6つ目は「メンタル」です。そこはトレーニングと結びつけられる要素なんじゃないかなと思っていて。
――さきほどの集中力のお話と繋がってくる部分ですね。格闘ゲームって、自分の体力ゲージが残り少なくなると「あ〜ダメだダメだ、ヤバい」と焦りの心が生まれて、それで余計にやられちゃったりしますよね。
そうです。体力が少なくて時間も残り少なくて、「仕掛けた方がいいけど、でも下手にミスをすると相手にもやられてしまう」というときにグッとこらえて、平常心でプレイできる人は、やっぱりメンタルが強いです。
――格闘ゲームの世界で「この人、上手いな」と思うのはどんなときなんでしょう?
いま言った6つの要素のどれかが突出して高いプレイヤーですね。梅原さんで言えば「攻略」、ボンちゃんなら「メンタル」が突出しています。そうは言っておきながら僕自身は突出した要素は正直ないので、総合力で勝とうとしていますね。
――普段のトレーニングのメニューと頻度、トレーニングする場所・時間帯はどうされているんでしょう。
僕はたとえば1日目は胸、2日目は背中、3日目は休んで、4日目は脚、5日目は肩・腕をやって次の日は休む、というスケジュールでやっています。家に置いてある器具でやっていて、時間帯はだいたいお昼ご飯を食べて少し経った、15時〜16時くらいです。
――ゲームの練習をして、トレーニングを挟んで、また練習、という感じでしょうか。
そうですね。昔はゲームの練習も漫然と何時間も続けてやっていたんですが、今はレベルが上がってきているので、集中して練習しないとレベルアップできないんです。実際に集中して練習しているのは合計で3時間くらいですかね。あとは休憩したり、対戦動画を見たり、トレーニングしたり、空手の時間に充ててます。
――食事やサプリメントについてはどうでしょう?
僕はまず朝起きてEAA*を飲んで、トレーニングの前にはプロテイン、アルギニン、シトルリンなどを飲みます。そうやって知識から入ってマウント取ろうとしちゃうんですよね(笑)。
――なるほど(笑)。大会前には食事を変えたりもするんですか?
めちゃめちゃ変えてますね。大会10日前くらいから炭水化物を減らして、肉、チーズ、ナッツをメインにします。狩りのような感覚になって、集中状態への入りが良くなる感じがあるんですよね。
――確かに炭水化物を減らした食事の方が闘争本能が湧いてくるというのは、ちょっとわかる気がしますね。大会といえば、ときどさんは本番の前にダッシュをして心拍数を一回上げておくそうですよね。
はい、目立つのでなるべく人のいないところでやってます(笑)。ただ、人のいないところをすぐに確保できない会場では、その場でやっちゃってますね。最初は「何やってんだこいつ」と思われていた気がしますが、最近は受け入れられつつあるみたいです。
――なるほど、「ときどさんは本番前にダッシュする」ということが認知され始めているんですね(笑)。
――今日お話を伺っていて、ときどさんは格闘ゲームでもっと強くなるために、格闘ゲーム以外のところにヒントを見出そうとしているのかな、と思いました。
格闘ゲームの強さって、さっき挙げた6つの要素で成り立っていると思うんですが、1番目の「攻略」、2番目の「操作技術」は、実際にゲームを「する」「見る」といった経験の積み重ね伸ばすことができると思います。でもそれ以外の要素、特に「メンタル」は、実際にゲームをする以外の方法で鍛えた方がいいのかなと。トレーニングも、最初は「見た目をよくする」が目的だったんですが、やっていくうちにゲームにつながる要素も見えてきた。空手もそうです。ぐっとこらえる心、恐怖に動じない心を鍛えられているのかなと。
――ありがとうございます。最後に訊きたいんですが、既存の「スポーツ」のひとつとされるウエイトトレーニングや空手を念頭においたとき、格闘ゲームのようないわゆる「eスポーツ」ならではの面白さって、どんなところにあるんでしょう?
フィジカルの要素が反映されにくいから、誰にでもチャンスがあるということですかね。もちろん先天的な目の良さとかは出てきますけど、攻略とか技術って後天的に補えると思います。生まれ持った天性のもので勝敗が決まるわけではない。じゃあ何で勝敗が決まるかっていうと、僕の感覚では「それまでの人生で培ってきた経験」だと思うんです。
格闘ゲームって上達の仕方が色々あって、仮説を立てて検証していくのが得意な人は「攻略」を、手先が器用でタイミングよくボタンを押せたりリズム感がある人は「操作技術」を、相手の心理を読むのが得意な人は「読み合い」を伸ばせばいい。
――生まれ持った「カラダが大きい」「足が速い」「力が強い」ということで有利になるわけではなくて、後天的なところで勝敗が決まる部分が大きいと。となると、男女でも差が生まれにくいんでしょうか?
格闘ゲームって「ヤンキーの溜まり場」というイメージのあったゲームセンターから始まっていて、今もそれを引きずってしまっているところがあります。だから女性が入ってきづらいところはあったのかなと。でも今はネットでのゲーム配信をきっかけに格闘ゲームに興味を持って入ってきてくれる女性プレイヤーも増えてきているので、これからどうなっていくかですね。
まだ出来上がって間もない競技なので、自分が得意な要素を見つけて伸ばせばトッププレイヤーになれるのが、この世界のいいところかなと思います。
――自分の強みを活かす、ということですね。ときどさんご自身はどうですか?
僕は、そうはさせないですけどね。突出したところはないけど全部バランスよく鍛えて勝っていきたい(笑)。
――そうですか(笑)。今日はありがとうございました!
取材・文/中野慧 撮影/安田光優