腋臭をはじめとする体臭の原因は?
程度の差こそあれ、誰にでも体臭はある。が、第二次性徴期のころ一部の人に出現し、若年期、壮年期を通し存在感を主張するのが腋臭(ワキガ)だ。
高齢になるとにおいの弱くなる人もいるが、さして変化なく加齢臭まで加わり、においの交響曲となる人も現れる。本人は戸惑うし、周囲も触れにくい。男性にとっては、体臭の中でも腋のにおいが最も気になるようだ。
単なる体臭とも異なる腋臭の元は毛穴から滲み出す汗と汗に溶け込んでいる物質。人間には汗を作る器官(腺)が2種類ある。一つはエクリン腺で、ここから出る汗は主に体温調節のため。その99%が水だからほぼにおわない。
もう一つはアポクリン腺で、これは哺乳類の芳香腺が退化したもの。
ここから分泌されるのがおなじみのフェロモンだ。その独特なにおいで異性にシグナルを送ったり、縄張りを主張したりするためのもの。
エクリン腺から出る汗と異なり、毛穴を経由して分泌され、短鎖脂肪酸などさまざまな物質を含む濃厚な汗となる。こうした成分を皮膚の常在菌が代謝し、強いにおいを放つことがある。これが腋臭だ。
体臭の感じ方は地域によっても異なる
この独特な体臭を持つ人は多い。西欧やアフリカ、南米などでは人口比90%以上の地域もあり、におって当たり前。それどころか、においを個性や性的魅力と受け止める人、地域は多い。
だが、アジアの一部では腋臭は少数派。日本では10人に1人ほど。人数が少ないと異端者扱いされがちだ。単なる個性なのに、周囲は“病気”ではないかと疑う。
なぜ、このような個性が表れるのかは、近年の研究でだいぶわかってきた。以前から腋臭のする人の多くは、耳垢がしっとりと湿っていることが知られていた。
考えてみればこれは当然で、耳垢腺もアポクリン腺なのだ。耳垢腺が活発に活動し、腋の下と同様に濃厚な汗を分泌すれば、ここもにおうかもしれない。アポクリン腺は乳輪、性器周囲にも存在するから、こちらもにおう可能性はある。
一方、腋臭ではない人の耳垢は乾燥していることが多い。先史時代のヒトの移動過程で、恐らく寒冷な気候に対応して遺伝子(ABCC11)に変異が起き、獲得した体質だとする説がある。
両親どちらかが腋臭、または湿型耳垢か本人が湿型耳垢であるかどうか。中学、高校までに自覚症状があり、洋服などの腋の部分が黄ばみがちであるなどが確認できると遺伝の可能性が考えられる。
手術以外でできる腋臭(ワキガ)対策は?
腋臭であってもなくても、少しでも体臭を抑えたければ、ストレス対策が重要になる。ストレスの放置は交感神経を優位に傾け、放出されたノルアドレナリンがアポクリン腺を刺激し、発汗を促すからだ。
体毛、特に腋毛を処理しておけば常在菌の棲み処を減らすことにつながる。汗ばんだらそのつど拭き取り、清潔を心がけよう。
ただし、明らかに腋臭の場合、自助努力では対応しきれず、医療のお世話になるケースは多い。まずは専門医に相談し、処方してもらえる制汗剤を試すのがお勧めだ。塩化アルミニウムを20%ほど含む制汗剤は、発汗を抑えてくれるだろう。
内服薬には直接アポクリン腺に作用するものはなく、エクリン腺に働きかけ、発汗量を抑えることで常在菌の増殖を妨げ、二次的に効くことで改善を目指す。
アポクリン線をすべて取り去るのは不可能
こうした工夫で満足できる結果が得られなければ、手術も選択肢になるが、手術でアポクリン腺をすべて取り去ることは不可能。削り過ぎると腋の下の皮膚の血流に問題が起こり、皮膚が壊死する危険性も否定できない。
腋臭で悩んできた人の中には、つい神経質になり、治療効果に対し過剰な不満や不安を感じがちな人もいる。ここは担当医との入念なコミュニケーションで乗り越えていくべき局面だ。
また、腋臭体質の自覚がある女性は、乳輪にもアポクリン腺のあることを思って、乳がん検診は積極的に受けておこう。そうでない女性に比べ、腋臭体質(湿型耳垢)の女性は乳がんの罹患率が1.63倍に上るとする報告もある。
統計を見ると乳がんは明らかにヨーロッパに多い。地図上でチェックすると、湿型耳垢の分布に重なるようにも見える。
なお、こうした国々では同じ腋臭でもにおいの性質、強さは人さまざま。腋臭の有無を決める遺伝子以外にも、食習慣など環境の影響があるのかもしれない。
そもそもが病気ではないので、過度に悩む必要はない。国際結婚が増え、多様化の進みつつある日本でも、今後は単なる個性になっていくのかもしれない。