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“スリップインするだけ™”じゃない!《スケッチャーズ スリップ・インズ》快適学。
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2020シーズン、鮮烈なデビューを飾った男、三笘薫。彼が語るサッカーとトレーニングについて。雑誌『ターザン』No.812〈2021年6月10日発売号〉「キング・オブ・筋トレ THE スクワット」特集のインタビュー記事より再掲載。
練習後の川崎フロンターレのグラウンド(所属は2021年6月初出当時)。スプリンクラーが緑の芝を美しく濡らしている。雲ひとつない晴天、水滴が陽光にキラキラと輝く。フィールドに続く階段を、黒いウェアに身を包んだ三笘薫が下りてきた。そして開口一番、「(今回の特集テーマは)スクワットですよね。僕なんかでいいんですか?」と、笑顔でたずねる。今号の表紙、三笘がスクワットをする姿を撮影したいと頼んだのだが、自分がふさわしいのか心配している様子なのだ。
そんな彼は今、日本で一番注目されているサッカー選手といっても過言ではない。抜群の運動センスを随所に見せてくれるこのファンタジスタは、2020年J1デビューを果たしてすぐに、ファンのココロを鷲摑みにした。
相手を翻弄するドリブルで左サイドを駆け上がり、ゴールへと繫げる。そのままシュートも打てるし、パスでアシストもできる。まさに万能。新たな川崎の攻撃パターンは、この新人が作り上げた。自身も新人最多得点に並ぶ13得点をマーク。川崎の優勝の原動力の一つとなった。
「2020シーズンは、ベストイレブンにも選ばれたし、チームのタイトルにも貢献できたので、充実した一年になりました。その反面、プロは一つの試合で結果を出さないと、次では使ってもらえない、本当に厳しい世界だということも実感した。とても厳格に評価されるので、どれだけインパクトのあるプレイができるか、どれだけの数字が残せるかが大事だと学んだ一年にもなりました」
2020シーズン、全30試合には出場したものの、意外にも先発は11試合。残りの19試合は途中出場であった。三笘の言うプロの厳しさは、まさしくこの数字が象徴しているのだ。
「チームは選手層が厚くて、(新型コロナの影響でスケジュールが狂い)連戦ということもあり、ベンチスタートでも仕方ないという部分はありました。もちろん先発できないときは、悔しかった。ですが、常にチームに貢献しないといけないという気持ちにブレはなかったです。
リーグ戦序盤は途中出場が多く、チームの流れを変えて勢いをつけるという役割が多かったけれど、徐々にプレイ時間が長くなって、自分に課せられる役割も変わってきた。その中で、やるべきことも増えていったし、結果を出すことで少しずつ信頼を得ることもできていったんです。毎試合勝負だと思っていたし、スタメン争いも非常にシビアでしたね」
実際、最初の頃は、結果を残せない場面があった。ドリブル突破を図り、いいカタチでシュートまで持っていけたものの、ゴールを決め切れない。こんなことが重なると、どんな選手でも落ち込むであろう。
「シュートの質が悪くて決め切れなかったんです。そんなとき、(中村)憲剛さんに“もっと楽にコースに流し込めよ”ってアドバイスをもらった。その言葉でリラックスして試合を迎えられるようになったし、感覚的にもゴールの前で慌てないことが身についていきました。
それでシュートが決まるようになったんです。憲剛さんにはずっと影響を受けてきたので言葉には重みがありましたし、何より嬉しかったです」
尊敬し、憧れていた先輩の言葉が、新人の不安を払拭したのである。
川崎フロンターレのホームページ。その中のQ&Aのコーナーで、三笘は“子供のときにやっておけばよかったトレーニング”という質問に対し、“体幹トレーニング、走り”と答えている。
6歳でサッカーを始めたときから、将来を見越して体幹トレーニングに努める図というのは、とても想像がつかないが、逆に体力的な部分以外の素地は、小・中学校のときに出来上がったといえる。
「始めた頃から、相手の逆をついてシュートを打ったり、いろんなバリエーションのドリブルで相手を抜くのが好きでした。あるいは、単純にボールタッチが上手くなったり、リフティングができるようになるのが楽しかった。一つ一つの成功体験がうれしかったし、それでもっとやりたいと思うようになっていったんです。思考的には今と同じような感覚があったのかもしれませんね」
小学校、中学校の頃はカラダが小さかった。相手とぶつかると倒されることも多く、悔しい思いもしたことだろう。ただ、このときはまだ、トレーニングによってカラダを大きくしたい、という願望はなかった。
「成長期でしたから、いずれカラダは出来上がっていくと考えていたし、フィジカルに頼らなくても技術で上回ることができると思っていました。中学校の頃は大会ではなかなか勝てなかったけれど、毎日の練習がすごく楽しくて、同期のみんなとも仲がよかった。そんななかで、互いに高め合っていけたというのが大きかった。小学校、中学校では技術の部分がどんどん伸びていって、これで十分勝負できると思っていたんです」
確かに、背は高くなった。しかし、ボリュームは足りないまま。そこで、高校に入ると筋力トレーニングを始めるようになる。三笘のすごいところは、その頃からトレーニングを指導者に任せてしまうのでなく、自身で考えて行ったという点だ。
「高校のときは練習前にスクワットやベンチプレスなど基本的なトレーニングをしていました。僕は単純なので、重量が上がればうれしいですし、力が発揮できているという実感もあった。ただ、もちろんそれがサッカーに直結するわけではないし、ついた筋肉が動きにくさや動きの硬さに繫がってはどうしようもない。だから、その見極めが大事でした。
徐々に重量を上げつつ、体幹トレーニングなども取り入れていった。それで、ある程度伸びたという実感もあったし、効果が科学的にも証明されていることなので安心して行えました。また、トレーニング後には筋肉を回復させないといけないとか、そういう知識を得ようという意識はこの頃から持っていましたね」
その結果、シュート力、キック力がついた。走りでは初速が上がったし、スピードもついた。体重も増して当たり負けすることも少なくなり、プロでも注目される選手の一人となっていった。そして高校3年生時、川崎のU-18に所属していた三笘は当然トップチームに上がると誰もが思っていた。ところが、彼は大学に進学する道を選んだのである。
「とくにフィジカル面で、プロとの差を感じていました。カラダ作りは長期的にやるしかないし、すぐに追いつけるものでもない。だから、大学で試合の経験を積みながら、カラダも鍛えていきたかった。もちろん勉強することも、多くの人と出会うことも含め、将来に向けて悪い選択ではないと思いました。プロに行ったら試合が多く、ずっとトレーニングできるわけではないですからね」
三笘が進学したのが筑波大学体育専門学群。運動生理学や栄養学など、彼が知りたいと思うことを、存分に教えてくれる環境がそこにはあった。
「カラダの仕組みだったり、原則原理の部分を知るということは絶対に必要でした。それを知って練習するのと、ただ動いているのとでは効果が変わってくる。栄養学もですが、上に行くためには重要だと思います。効率的に自分を向上させていかないと…、時間は有限ですからね」
大学1年で目標を設定した。当時の体重は66㎏ほど。それを4年間で6㎏ほど増やそうと思った。筋肉だけでの増量を目指し、成功した。
「カラダを大きくするために週2~3回、試合が終わってから上半身、次の日は下半身のトレーニングという感じでやっていました。種目はやはりスクワット、ベンチプレス、懸垂などのベーシックなメニューで、筋力を上げることにフォーカスを当てていました。
大学2年になると筋肉がある程度大きくなったので、できることが増えてきて、今度はスピードを上げるためには、どうすればいいかということになった。それには、筋力トレーニングだけでなく、カラダの使い方というのも重要になってきます。筑波大学のチームのトレーニングは非常に科学的だったので、自分のやりたいことと、チームでやっていることをどう結びつけていくのかを考えるようになった。
たとえば、足が速くなるためには何が必要かを先生に聞いたりして」
大切になってくるのは、トレーニングの取捨選択。人間のカラダは構造こそ同じだが、個人差は大きい。ある人には有効であることが、別の人にはマイナスになることもある。
「自分のカラダを知らないといけないし、どこが強くてどこが弱いかもわかっていなければいけない。ケガの予防という意味でも、これは本当に重要な問題です。それに、まわりからアドバイスしてもらったことと、自分の中で理解していることの違いを分析することも大切。
やはり、自分の主観的なところが一番大事になるので、それを第一優先に置きながら使い分けたり、いろいろなことを吸収していった感じでした。とにかく自分にとっては、本当に充実した時間を過ごせましたね。自分の選択は間違いではなかったというのもはっきりしました」
大学時代、三笘はこんな思考のもと日々を送ってきた。それは、試行錯誤の連続だったであろう。しかし、それを自分でジャッジできたのは、トレーニングに対する知識であり、自分自身のカラダに対する深い探求であったことは間違いない。
「4年後にフロンターレで、どれだけいいカタチで即戦力になれるかを考えていました。大学2年の天皇杯でベガルタ仙台に2点を挙げて勝ったことがありますが、そのときもプロとの差を感じた。彼らは試合時間フルに戦える。けど僕には調子の波があった、それを大学3、4年で埋めていったんです」
そして、これまでやってきたトレーニングは現在へと繫がっている。基本的なスクワット、ベンチプレス、懸垂などを継続するなかで、三笘は進化を続けているのだ。鍛え上げた肉体を持つトップアスリートだから、日々トレーニングをしても、目覚ましい変化を遂げられるわけではない。だが、ほんの少しでも、変わっていくことがモチベーションになる。
「昔からですが、尻の筋肉やハムストリングスなど、下半身がそれほど強くなかったんです。そこを、より強化することでスピードアップが狙えるし、より少ない負荷で動ける距離が増えていくと思う。そうなれば、攻撃だけでなく、今より守備にも貢献できるとも考えています。だから、下半身強化のためのスクワットは、必須のトレーニングなんですね」
取材・文/鈴木一朗 撮影/下屋敷和文 スタイリスト/高島聖子
初出『Tarzan』No.812・2021年6月10日発売