走りの効率を上げて、もっとランを好きになろう。ランニングエコノミー【実践編】
「ランニングエコノミー(ランニングの経済性)」とは走る際の効率のこと。少ないエネルギー消費で、長く、早く走れる=ランニングエコノミーが高ければ、走ることへの苦手意識も克服できるはず。この記事では、楽しく効率的に走るためのトレーニングを紹介する。準備ができたら、肩の力を抜いて街へと飛び出そう。
取材・文/井上健二 撮影/小川朋央 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/村田真弓 イラストレーション/Yunosuke エクササイズ監修・指導/齊藤邦秀(ウェルネススポーツ)
初出『Tarzan』No.828・2022年2月24日発売
目次
見直すべきはフォーム
走りの有効性を引き上げ、ランニングエコノミー(ランエコ)を高める鍵を握るのが、カラダの使い方。いわゆるフォームだ。
まず、経済性の高いフォームを実現するポイントをチェック(下イラスト参照)。それをオールクリアするためのドリルを5つ紹介しよう。
フォームのポイント&関連するドリル
- 前傾姿勢をブレさせない|ドリル①/③
- 左右へのブレを抑える|ドリル②
- 上下動を抑える|ドリル③/④
- カラダを潰さない|ドリル①/③
- 股関節からしなやかに動く|ドリル②
- 重心の真下に着地する|ドリル①
- 足首や膝の屈伸を使わない|ドリル①/②
- 着地した足に乗り込む|ドリル④
- 弾むように着地する|ドリル⑤
- 上半身と下半身を連動させる|ドリル④/⑤
これから紹介するドリルは、ランナーに必要な筋肉を鍛える補強トレーニングではなく、動きを合理的に整えるための“動きのトレーニング”。指導は、ランニングパフォーマンスコーチとしても活躍し、多くの市民ランナーのマラソン自己ベスト更新をサポートしてきた齊藤邦秀トレーナーだ。
筋トレ要素の強い補強トレは、成果が出るまで数か月かかることもザラ。でも、動きのトレーニングは、筋肉を制御する運動神経を再教育して目覚めさせるのが主眼。2〜4週間ほどでカラダが覚醒し、ランエコの高いフォームへとシフトできる。
ドリル① 軽く前傾した姿勢で重心の真下に踏み出す
強化できるエコランのポイント
- 前傾姿勢をブレさせない
- カラダを潰さない
- 重心の真下に着地する
- 足首や膝の屈伸を使わない
フルマラソンを完走するのに、遅い人だと5時間以上かかる。それは、ランが筋力に全面的に頼っていない証拠。筋力頼りで走ったら、5時間以上も同じ動きが続くわけがない。
着地時に真上から体重をかけて地面を踏みつけると、動かない地面からは同じ力で反作用(地面反力)が得られる。それがランの推進力だ。
地面反力をロスなく進む力に変えるため、足首と膝を固定し、全身を軽く前傾させる。そして重心がある骨盤の真下近くで着地するのが理想。それより前で着地すると、ブレーキがかかり、膝の負担が増えてランエコも下がる。
3つのエクササイズで、前傾して重心直下に足を出して踏み、次の一歩につなげる動きを覚えよう。
ドリル② 股関節から動かし、左右のブレを抑制
強化できるエコランのポイント
- 左右へのブレを抑える
- 股関節からしなやかに動く
- 足首や膝の屈伸を使わない
地面反力をフル活用するには、脚を股関節から動かし、着地後に脚を後ろに流して股関節を伸展させることも求められる。股関節はランで大切な脚の付け根。骨盤両脇の凹みに、脚の大腿骨の先端がハマっている。
坐っている時間が長い現代人は、この股関節が屈曲する時間が長く、サビついて伸展しにくい。スクワットで股関節のサビを取り、伸展しやすいように整えておきたい。
股関節の動きに左右差があると、着地のたびに左右のブレが生じて、ランエコが低下する恐れがある。ロード&リフト(3種目目)で、動きが悪くて苦手に感じる側があったら、回数を多めにエクササイズを行い、動きの左右差をなくしてブレをセーブしたい。
ドリル③ 潰れない体幹で上下動を抑えた姿勢をキープする
強化できるエコランのポイント
- 前傾姿勢をブレさせない
- 上下動を抑える
- カラダを潰さない
着地衝撃は体重の2〜3倍。耐えかねてカラダが上下に揺れると、地面反力⇒推進力の移行が邪魔される。それを避けるため、膝と足首を固定して屈伸させないと同時に、体幹をしっかり保とう。下半身と上半身を結ぶハブである体幹が潰れると、せっかくの地面反力が逃げる。
体幹は胸郭と骨盤の間にある骨格の空白地帯。腹横筋など深層のインナーマッスルが協力して腹圧を保ち、潰れないように支える。腹圧が弱く緩んだ体幹は、空気が抜けたボールのようなもの。弾む力が弱い。
ドリルでインナーマッスルを刺激して腹圧を高めると、空気が充塡されたボールのように反発力が上がり、地面反力を活かして弾むように走れる。
ドリル④ 胸郭と骨盤を回旋させて、素早く乗り込む
強化できるエコランのポイント
- 上下動を抑える
- 着地した足に乗り込む
- 上半身と下半身を連動させる
話は下半身ばかりに偏りがちだが、ランは言うまでもなく全身運動。上半身の動きも、ランエコに関わる。
大事なのは、肘と肩甲骨でリードする胸郭の動き。上半身の方が自覚しやすいから、まずは肘と肩甲骨を後ろに引いて胸郭を回旋させる。すると、背骨を介して連動する骨盤が動きやすく、股関節中心の脚の大きな動きが引き出せる。たとえば、胸郭が時計回りに捻られると、骨盤は反時計回りに捻られるのだ。
背骨を軸に胸郭と骨盤をツイストしたら、着地した足に素早く体重をかけて乗り込み、ブレーキを抑えて地面反力でアクセルを吹かす。3つのエクササイズで、胸郭と骨盤の回旋⇒乗り込む動きをインプットしてしよう。
ドリル⑤ スキップで接地時間の短い弾む走りを学ぶ
強化できるエコランのポイント
- 弾むように着地する
- 上半身と下半身を連動させる
仕上げに、これまで身につけた動きを上手にシンクロさせて、走りにつなげるスキップドリルを行う。ここまではインドアでもできるが、スキップは動きが大きく移動距離もうんと延びるから、屋外でやろう。
マスターしたいのは、接地時間をできるだけ短くし、地面を蹴らずにバネを活かして弾むように走る動き。接地時間が長引くほどブレーキが利きすぎて、ランエコはダウンする。スキップでは、軸足で“タ・タン”と2回小刻みに着地。ごく短時間の着地で、地面反力を体感したい。
初めは垂直方向のスキップで、地面反力を活かして弾むコツを摑む。そして手足を連携させながら、前進パワーへと調子よく変換していこう。
ドリルの実践は走る前がベスト
ドリルは、走る前にウォーミングアップを兼ねてひと通り行うのがベスト。すると動きが変わり、同じ時間、同じ距離がラクに走れるようになり、ランが一層楽しくなる。毎回が難しいなら、休日など時間があるときだけでもOK。
時間がない人は、一度ドリルをひと通りやってみて、とくに苦手なものに絞り、走る前に重点的にトライするのもいいだろう。