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イップスを克服したアスリート対談|自律神経との付き合い方

横田真一さんと森本稀哲さん

プロゴルファーの横田真一さんと、走攻守に秀でたプロ野球選手として活躍した森本稀哲さん。筋肉が不意にこわばるイップスという症状に悩んだ経験を持つ二人が、自律神経にも一因があるイップスを入り口に、アスリートの自律神経を語り合った。

横田真一

横田真一さん

よこた・しんいち/1972年、東京都出身。95年ツアーデビュー。97年全日本オープンで初優勝。10年キヤノンオープンで13年ぶりに優勝。13年順天堂大学大学院医学研究科に入学。自律神経を専門的に学ぶ。

森本稀哲さん

もりもと・ひちょり/1981年、東京都出身。ドラフト4位で日本ハムファイターズ入団。横浜ベイスターズ、埼玉西武ライオンズでもプレーし、ライオンズ在籍中の15年現役引退。野球解説者、タレントとして活動中。

横田
僕が激しいイップスに襲われたのは、2004年にある試合で、優勝争いをしていた真っ最中。パッティング中、腕に電流がビリビリ走る感覚があり、パットが乱れて35位に終わりました。
森本
ゴルファーにイップスは多いと聞きますね。
横田
 ゴルファーは大なり小なり、イップス持ち。パットでもアプローチでもドライバーでも起こる。イップスに気づいても指摘しないのは、プロ同士の紳士協定のようなものです。
森本
それは野球選手でも同じ(笑)。内野手の暴投もそうだし、打者が絶好球に手が出ないのも、一種のイップス。プロの多くが悩んでいます。
横田
その“事件”後、シード落ちも味わいましたが、2010年に自律神経の権威である順天堂大学の小林弘幸教授と出会い、「自律神経をコントロールできたら、また優勝できますよ」と助言を頂き、呼吸などで自律神経を整えたら、その年に13年ぶりのツアー優勝が果たせた。そこで小林先生の下で、スポーツと自律神経の関連を学ぶことにしました。

定まった“型”を自ら壊す必要がある

森本
僕自身も現役時代、イップスに悩み続けて、多くの人にアドバイスを求めましたが、自律神経が関わるという話は初めて聞きました。
横田
イップスのメカニズムは複雑。学んでわかったのは、自律神経さえ整えれば勝てるという単純な話ではない、ということ。「心技体」のすべてに自律神経が絡み、自律神経の乱れが心技体のバランスを崩し、一つの症状としてイップスが出ると考えるとわかりやすいと思います。
森本
なるほど。僕は内野手としてプロ入りしたのですが、一塁に送球するときにボールに指がひっかかる送球イップスがひどくなり、外野手にコンバートされた経験があります。
横田
外野手としてゴールデングラブ賞を3回受賞するほど守備力には定評がありましたよね。そこではイップスは出なかった?
森本
外野手は、打球を全速でサッと捕球し、即投げ返すのが仕事。考える時間の余裕がなく、なおかつ腕を全力で振って強いボールを投げればいい。プレーがシンプルなので、いま考えると自律神経の乱れが少なく、正確なプレーができたのでしょう。内野手は、捕球してサイドステップする間に、考えることが多すぎる
横田
内野手と外野手では、同じように見えても、投げ方が違いますよね。それがよかったのかもしれない。
森本
それもあるでしょうね。
横田
同じ動作パターンを繰り返し、決まった回路が完成しているのに、緊張などによる自律神経の乱れで、いつもの動きが妨げられるのがイップスの典型。そこから抜け出すには、定まった“型”を自ら壊す必要がある

僕はアプローチイップスになった際、軽くポーンと打てばグリーンに乗る距離でも、わざとフェイスを開いてボールが飛びにくい状況を作り、思いっ切り打つことで“型”を壊し、乗り越えた経験があります。

森本
イチローさんも、毎シーズン、打ち方を変えていたそうです。僕がイチローさんを語るのはおこがましいのですが、イチローさんも型にハマりすぎないようにしていたのかもしれませんね。

トップ選手の多くは、副交感神経が優位である

横田
アスリートの自律神経を測ると、いろいろな発見がある。100人近いプロゴルファーの自律神経を測ったところ、トップ選手ほど副交感神経が優位なことがわかりました。
森本
副交感神経が高い人がアスリートとして成功するということ?
横田
いいえ。長年の積み重ねと習慣の賜物だと思います。自信があり、余裕もあって安心できれば副交感神経は上がる。でも、自信、余裕、安心には根拠がいる。

練習に励んで技術を磨き、しっかり準備してこそ、副交感神経は上がる。逆に準備不足でバタバタだと、交感神経が上がって緊張し、思うように動けません。

森本
自律神経を意識したわけではありませんが、現役時代に心掛けていたのは、自分の持っているものだけで勝負すること。すると集中できて、無用な緊張も避けられました。
横田
それは自律神経をコントロールするいい方法ですね。たとえ予期せぬ出来事が起こったとしても、自分に集中していれば対処できます。
森本
日ハム時代、2007年のクライマックスシリーズの対ロッテ戦、第2打席にワンアウト満塁で打順が回ってきたことがありました。ダルビッシュが1点取られた2回裏、一番打者の僕には想定外の状況です。
横田
交感神経が上がる場面ですね。
森本
はい。ファンもチームメイトも一本を期待している。そこで僕は、「外のストレートだけ打ちに行こう」と決めました。打者はバットを振り始めてからインパクトの瞬間まで、1秒もない間に走馬灯のようにさまざまな考えが頭をよぎります。

変化球への対応とか考え始めると切りがないので、自分がいちばん打ちやすい外の直球に絞ったのです。結果、逆転タイムリー二塁打が生まれて、逆転勝ちに貢献できました。

不要な情報をカットして、シンプルを貫く

横田
外のストレートと決めたので、余計な雑念がカットできたのですね。ゲーム中、余分な情報はいらない。僕は帯同キャディーを決める際、仮に親切心でも、「昨日誰々さんが左バンカーでダボを打ちました」といった情報を吹き込む人は選びません。
森本
ベテランは経験値と情報量を活かせといいますが、そこには失敗体験も多い。3割打者だって7割は失敗しているので。ベテランこそ、あえて情報を捨てる作業が大事。高卒ルーキーと同じような新鮮な気持ちでプレーした方がいいと思う。
横田
ベテランアスリートが長くプレーするためのコツは、そこですね。ゴルフ界のレジェンドでパットの名手・青木功さんは、「上りはコン、下りはトンと打て」とおっしゃる。超一流は無心で何事もシンプルに捉えるから、イップスにもならない。
森本
プロ野球と自律神経の関わりを調べた研究はないのでしょうか?
横田
師匠の小林先生が、某プロ野球球団を調べた研究があります。面白いことに、先発投手は副交感神経が優位中継ぎ投手や野手は交感神経が優位だったそうです。前述のようにゴルファーもトップ選手は、副交感神経が優位。先発投手もゴルファーもプレー時間が長いので、途中交感神経を上げていちいち興奮していたら、最後まで持たないのでしょう。
森本
納得です! 先発は週に一度だけど、中継ぎや野手は毎日のようにプレーするから、交感神経が優位でつねに臨戦態勢でいた方がいい。
横田
そう考えると、先発をこなし、打者でも本塁打を連発する大谷翔平選手は、自律神経的にも規格外
森本
大谷選手は特に野球に熱中している。無駄な情報を遮断して、MLBという夢舞台で野球に夢中だから、自律神経も自然と整うのでしょう。
横田
機会があったら、大谷選手の自律神経を測ってみたいなぁ。
森本
結果が出たら教えてください!

取材・文/井上健二

初出『Tarzan』No.821・2021年10月7日発売

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