【Q&Aで解説】トレランを楽しむ里山ラン&お泊まりラン
こちらの記事(【Q&Aで解説】近場の公園、土手から始めるトレラン入門)では公園や川の土手など身近なところの土の道を走るトレラン入門を解説しました。ここでは手軽にトレランを楽しめる里山ラン&お泊まりランを紹介します。
取材・文/内坂庸夫 撮影/藤巻翔 トレイルランナー/宮﨑喜美乃、岩井竜太 イラストレーション/竹田嘉文
初出『Tarzan』No.820・2021年10月7日発売
目次
いよいよ里山、誰もいない朝時間にぜいたくな山ランを
公園や川の土手など身近なところの土の道を走って、トレラン感覚を理解できたら、さらに自然に近づきましょう。里山ランです。
町の人たちの生活圏にある山、それが里山。雑木林や湧水があったり、見晴らしのいい丘だったり、さまざまだけど、そこには必ず土の道があります。 小さな山だし、町の中にあるので、その土の道は、登山、ハイキングというより、通勤通学、買い物、散策、犬の散歩という言葉が似合います。
そう、生活に密着した土の道なんです。
また、保護地域、緑地、自然公園などの名称で自治体に管理されているところもあります。こっちは町はずれ、ってふうかな、さらに自然感が強まります。 どっちにせよ里山は(町なので)安全で、アクセスも簡単で、そして土の道は本格的です。
大事なこと。走るなら人と出会うことの少ない朝いちばんがおすすめです。その山をまるごと独り占めできますから。
里山ってどこにあるの、見つけ方は?
前述の通り里山にはハイキングコースや登山道はないので、山の本や山地図にはまず載っていません。でも「散歩」「遠出」「ウォーキング」「里山」「のんびり歩き」といったタイトルで里山ガイドがあります。
また、里山は郊外の宅地開発から免れた山林、谷戸の場合もあります…それをまるごと自然公園にしていることも。なので「○○私鉄沿線○○の道」というようなタイトルで沿線各駅を起点終点にした案内パンフが駅に用意されていたり、私鉄のホームページにウォーキングやハイキングのコンテンツとして公開されています。
東京では小田急線、京王線、田園都市線が乗り入れている町田、八王子あたり。昭和の頃から変わっていない山や尾根、谷がいくつもあります。あ、ちなみに高尾駅、高尾山口駅から高尾山を越え、陣馬山までの広大な山域、いわゆる高尾の山々は東京都立高尾陣場自然公園です。
山にはマナーがあるって聞いたけど
その通り、山にはマナーがあります、そしてルールもあります。まずはルールの説明、これは規則のこと。ゴミを捨てない、道以外のところに踏み入れない、自然を傷つけない、などあたり前のことです。 そしてマナーとは礼儀、自然や人を思いやること、気遣うこと。
特にトレイルランナーが心がけるべきマナーは、狭い山道で地元の人、ハイカーなど「歩く人」とのすれ違い、追い越しのとき。 歩く人にとって、狭い道で走って近づいてくるトレイルランナーは怖いのです。(道が狭いから)ぶつかるんじゃないか、転ばされるんじゃないか、立ち止まってくれるかな…不安だし、怖いし、嫌な存在なんです、いや本当。
だから、歩く人に出会ったら、走ることをやめて歩いてすれ違いましょう、歩いて追い越しましょう。歩く人同士がすれ違うのですから不安はないし、安全です。これ、とても大事です。
山を走るときに必要なものは?
町の中の土の道を走るときは、何かあっても(町だから)なんとかなったけど、人里離れたほんとの山では自分の身は自分で守らなければなりません。山は非日常。安全、便利から遠いのです、持っているモノだけでなんとかするしかありません。
なので季節、走る距離、走る時間にかかわらず絶対に携帯すべきは水、食料、救急キット(最低でもバンドエイドと傷軟膏)、エマージェンシーシート(超薄のアルミ保温シート、いざというときカラダを包む)。それと携帯電話、これには『ジオグラフィカ』地図ナビアプリを入れて使い方をマスターしておくこと。それと予備電池。 電車アクセスで起点終点が同じなら駅のコインロッカーに着替えやお風呂セットを保管しておきましょう。
で、もうひとつ大事な必携品。真夏でも晴天間違いなしでも、撥水機能のあるウィンドブレーカーを1枚。急な雨や汗冷えから守ってくれます。
最初はどのくらいの距離が適切でしょう?
はじめてのトレラン、どのくらいの距離が自分にとってちょうどいいのかわかりません。で、最初は距離10km以内、実走時間(休憩は除く)は最大3時間としましょう。
なお、走ろうと思うコースが山地図に載っているなら、そこには(歩いたときの)区間所要時間が表示されています。走るのですから20~30%オフにしましょう。「1時間」とあるところは50~40分で進めるってこと。それらを全部足して3時間コースを考えます。いろいろな山を走るうちに自分が楽しく思える距離、合計時間がわかってきます。
で、大事なこと。山でいちばん怖いのは真っ暗になることです。夜になると路面が見えません、まったく走れません。なので、夏なら4時に町に下り立つこと、冬なら3時です。明るいうちに山から下りましょう、そこから逆算して家を出る時刻を決めましょう。歩く走るにかかわらず、これが山遊びの鉄則です。
山に泊まれば翌日も走れる
これまで、トレイルラニングは日帰りの山遊びとして、そしてその入門ガイドを説明してきました。でも、お楽しみはたくさんあった方がいいです、山を走ることに慣れてきたら、泊まりがけでトレイルラニングを楽しみませんか。そう、翌日も朝から山を走っちゃうのです。
日本は山国、走るところに困ることはありません。たとえば夏のスキー場近辺、スキーができるくらいの山がそこにあります、あたり前ですが宿泊施設があります、たいてい温泉が湧いています。もう、それで十分でしょう。
さらにスキー場の近くには別のスキー場があることが多く(同じ山系とか、同じ山の斜面違いとか)。泊まりがけなら、いくつもの山を走りつなぐこともできます。
また、風光明媚で涼しげな森の湖、池などは高原にあることが多いのです。高原ですから急な上り下りはありません。高原近くに宿をとれば、たいして上らずとも湖や池のトレイルに分け入ることができます。
バス、ロープウェイやケーブルカーを使って山の途中まで(標高を稼ぐといいます)行っちゃいましょう。
日帰りだと時間的にアクセスできない山奧の名所でも、近くに泊まっていればカンタンです。そして、せっかくですもん、朝いちばんに走りましょう。人に出会うことが少ないことはもちろん、朝の山の美しさ、あなただけのものです。
背負うザックはトレラン用?
ハイキングや登山のザックは背負う人が歩くことを前提にして設計されています。走ることは背負う荷物が上下左右に揺れることを意味します。
走るとき背中の荷物は揺れない方がいい、荷物の重心はカラダに近い方がいい、荷物の出し入れがカンタンな方がいい、軽いに越したことはない、そんなことからトレイルラニング専用のザックが便利です。
最近は背負うというより「着る」感覚のベストタイプが主流です、左右の胸に水筒(ボトル、フラスクなどと呼びます)が収められ、すぐに給水できます、またポケットが大きく、携帯食やスマートフォンの出し入れもカンタンです。
ザックのサイズは容積(L/リットル)であらわすのが普通で、10Lくらいの容量があれば一年を通じて(冬は衣料が増えます)使えるでしょう。またザックは(その中身も)汗でびしょ濡れになります。濡れては困る着替えなどは密閉ポリ袋に。
おすすめの山域と宿を教えて
宿といってもピンからキリまで。民宿もあればホテル、豪華キャンプのグランピングなんてのもあるけど、ここでは山の中のキャンプ場をおすすめします。
朝起きて靴を履けば、そのままトレイルに入れるんだよ、最高じゃん。キャンプ場とはいえ、まったく手ぶらでOKのキャビンやコテージ、バンガローの設備もあるところを選びました。大勢で泊まれば実にリーズナブル。お試しあれ。
神奈川県/芦ノ湖キャンプ村
箱根桃源台にある広大なキャンプ場。テント泊もできるけど、まるでホテルの離れといったコテージが快適でしょう。芦ノ湖西岸歩道(箱根町まで11㎞)はここから走り出せます。https://campmura.com/
山梨県/キャンプビレッジGNOME
大地の精霊「ノーム」の名をつけた富士河口湖町西湖湖畔のキャンプ場。近くには樹海トレイル、足和田山などUTMFで使われるコースが。常設のパオ、ティピなら手ぶらOK。https://www.hamayouresort.com/gnome/
長野県/戸隠キャンプ場
戸隠スキー場の麓に広がる草原キャンプ場。瑪瑙(めのう)山周辺、戸隠神社の森の中など、気持ちいいトレイルばかり。手ぶらで泊まれるバンガロー、ログキャビンもあります。https://www.togakusi.com/camp/
HYTTER LODGE & CABINS
今回の取材で『ターザン』が利用したのは八ヶ岳蓼科湖そばの〈ヒュッター ロッジ&キャビンズ〉。選んだ理由は周辺にスキー場が多く走れる山がたくさんあること、高原であること。キャビン、ロッジ、食事あるなし、選択肢が多く、使いやすいこと。
古くからの湖畔沿いの温泉旅館とキャンプ場をリノベーションしたヒュッター、裏にある(ちょっと離れてる)キャビンがなかなかの味わいです。https://hytter.jp/