ヴィーガンで「世界チャンピオン・パワーリフター」の食事術
世界チャンピオン・パワーリフターとして国際的に活躍するライアン・J・スティルズ。彼は動物性食品を口にしないヴィーガン。どのように食事管理を行い、強靭な肉体を保っているのだろうか?
photo/Taylor Ramsauer text/Sakiko Setaka
初出『Tarzan』No.819・2021年9月22日発売
ピープロテインや豆腐でタンパク質補給
筋肉の増強と維持には低脂質、高タンパクな肉が必要。そんな常識を覆す世界チャンピオン・パワーリフターが、ポートランドをベースに国際的に活躍するライアン・J・スティルズだ。
「肉は食べず魚は食べるペスカトリアンなどを試みたが体重が落ちすぎて続かなかった。そこから正しい方向へと導いてくれた一人が発酵ヴィーガンレストラン〈ファーメンター〉のシェフ、アアロン・アダムスさ」
ライアンが当時通っていたジムで知り合った二人。すでにヴィーガン歴15年以上のアスリートだったアアロンは彼の食のメンターになったという。
「体重120kgを維持しながら、1日4食(朝、昼、晩と就寝前)、3000キロカロリーを目安にしている。えんどう豆が主原料のピープロテインやテンペ、豆腐から主なタンパク質を摂っているよ。
それにナッツとベリー類は欠かさない。肉食のときより、脂質はやや多め、カロリー、タンパク質は少なめ。だけどそれらの基準はあくまでも“一般論”でしかない。一番大切なのは、自分のカラダ、精神の欲するものをよく聞くこと、というのもヴィーガンになってわかったこと。
全体的にヴィーガンの食事に慣れて、調子がいいと感じだしたのは3か月から半年くらい経ってからかな。おかげで今が競技生活で最も強くて、ヘルシー、睡眠の質も上がっていいことずくめなんだ。不思議なもので味覚にもうんと繊細になった。血液検査では10歳以上も若返って、主治医も驚くほどの成果だよ」
ヴィーガンになったきっかけは?
始終、穏やかな重低音ボイスを響かせながら取材に答えては、〈ファーメンター〉自家製のキビと黒豆のスモークテンペを挟んだバーガーを頰張っていたライアン。ではそもそも、ヴィーガンになろうと思ったきっかけは何だったのだろう?
「他の動物を殺してまで成り立つ食事に依存しながら生きていく習慣からずっと抜け出したいと思っていたんだ。それに人間が今のまま動物性食品を食べ続けていたらすでに悪化している気候変動へどんな影響をもたらすか。想像しただけで答えは明確だ」
しかし、他人にヴィーガンを強要するつもりは微塵もない、とも付け足す。
「それぞれにある選択の自由と権利を尊重しているし、食文化や環境も違うからね。自分で気づき、学び、実践して得た経験と知識はヴィーガンアスリートとしてシェアしていきたいと思っているよ」