石井直方先生
語ってくれた人
いしい・なおかた/東京大学名誉教授。専門は身体運動科学、筋生理学、トレーニング科学。1981年、ボディビル『ミスター日本』優勝。世界選手権第3位という競技者としての実績あり。
チートデイを行うとバーベルが上がった
40年前、ボディビルの現役の頃はチートデイを取り入れていました。当時、「チートデイ」という言葉はありませんでしたが、脂肪を落とす減量期には必ずそうした日を設けていました。
1週間か2週間に一度、トレーニングを休んで好きなものを食べる。たとえばすき焼き食べ放題、ビールをがぶがぶ飲んでごはん大盛りという具合です。
筋肉を増やす増量期は4000〜4500キロカロリーくらい摂取していて、減量期は2500〜3000キロカロリーくらいまで落とす。チートデイには1000キロカロリーくらいのプラスだったと思います。プラス分は脂肪に換算すると150gくらいなのでトレーニングで十分消費できる計算です。
私は減量期を4〜5か月と長く取るタイプだったので、継続していくとだんだん精神的にキツくなってきます。チートデイを設ける第一の目的は食事制限のストレスをなるべく減らすことでした。ただ、体験から言うと、チートデイの翌日、翌々日はトレーニングの調子がとてもいい。大々的にチートデイを行ったときほど、信じがたいくらいバーベルが上がるんです。
減量目的ではなく筋肉を元気にさせるもの
基本的なメカニズムとして、消費カロリーより摂取カロリーを低くすれば、赤字分だけ体重は減っていきます。
脂肪、糖質、タンパク質が総体として減っていきますが、筋肉が分解されるのを防ぎながら脂肪を減らしていくのがテーマになります。この場合、筋肉の中のエネルギーの状態がよくないと筋タンパクの合成は起こりません。そのエネルギー状態を反映するのが筋肉に蓄えられている糖質、筋グリコーゲンです。
食事制限をしながら運動をするとどうしても筋グリコーゲンが減っていきます。減ったグリコーゲンをチートデイで戻してリスタートする。減量そのものに繫がるというより、筋肉を元気にさせて質のいい減量をするという発想ですね」