「有機酸検査」でわかること|最先端検査ってナンだ!? ②
自分の健康は「日々の己の選択」からの回答の一つ。自ら健やかさを獲得しに行く術を知っておこう。ヘルスリテラシーの高い人々に注目される「バイオロジカル検査」を解説する連載『最先端検査ってナンだ!? シリーズ』。今回は「有機酸検査」について。
取材・文/飯田橋うらん イラストレーション/上田よう 取材協力/本間龍介(スクエアクリニック副院長)
初出『Tarzan』No.810・2021年5月13日発売
尿でカラダの状態を推定。
嬉し恥ずかしバイオ検査の第1回は「有機酸検査」。数あるバイオ検査(バイオ検査について詳しくはこちらの記事で解説)の中から何を優先すべきかは、素人には正直なかなか判断できない。よって水先案内人がマスト。最適任者の一人がスクエアクリニックの本間龍介先生だ。
教えてくれた人
「クリニックで最初におすすめするバイオ検査は、多くて3〜4種類。10個検査を受けても、すべての結果を飲み込めないからです。検査の目的は生活習慣を変えるきっかけにしてもらうこと。漠然とたくさん検査をしても理解できないままでは意味がありません」
で、ファーストチョイスとして妥当なものが「有機酸検査」というわけ。
有機酸検査は腸のコンディションや神経伝達物質のバランス、ミトコンドリアの機能、3大栄養素の代謝などなどを「見える化」する検査。朝一番に採った尿に含まれる代謝産物から、現在のカラダの状態を推定するというものだ。
「代謝産物はマンションのゴミ集積所の中身みたいなものです。ゴミの中にバナナの皮があったらバナナを、アイスクリームの空容器があったらアイスクリームを食べたということが推測できます」
ただし、尿に含まれる情報は血液のそれに比べて精度は低い。血液はどこで採血しようがほぼ同じデータが導き出されるが、尿は前日の食事や生活習慣の影響がより反映されやすいからだ。
「とはいえ、有機酸検査では普段は決して測定できないものが測定できます。脳の伝達物質のバランスを知りたいと思っても脳に針を刺して調べるわけにいきません。尿から分かる情報は間接的な情報ですが、その人のざっくりとした輪郭を掴むことができるんです」
腸内にカビが多ければミネラルと結合しやすいシュウ酸が増えてミネラル不足になりやすい。小麦グルテンや有害化合物の摂り過ぎなどで腸内環境が乱れれば、外からやってくる毒をブロックするバリア機能が低下して毒を取り込みやすくなる。これが「リーキーガット」という状態。こうした腸内の様子がざっくり分かる。
さらにコハク酸、フマル酸などのマーカーからミトコンドリアのTCAサイクルがきちんと回っているかどうか、ドーパミンやセロトニンの代謝物マーカーから神経伝達物質のバランスも推定できる。
神経伝達物質代謝マーカー
連載担当2人が検査を受けてみた。
この連載担当、編集ワタベとライターうらん、両名が実際に有機酸検査を受けてみることに。尿から分かる腸内環境、ミトコンドリア機能、神経伝達物質バランス、栄養代謝etc. 人間ドックでは分からないカラダのコンディションが浮き彫りに。『ターザン』スタッフの検査結果は、さていかに?
検査を受けた人
ワタベ 4枚綴りの検査結果ってすごいですね。このオレンジの帯は標準値ですか?
本間 標準値内でもオレンジの帯に相当すればベリーグッド。高い数値は「H」、低い数値は「L」で示されます。1枚目の腸内細菌を見てみましょう。「イーストと真菌マーカー」が、いわゆる腸内のカビです。ワタベさんは問題ないですが、うらんさんはアラビノースがちょっと多いですね。
うらん えっ! アラビ…? それもカビなんですか?
本間 アラビノースはカンジダ菌の代謝物です。小麦を多く食べる人は数値が高くなる傾向に。
うらん パンよりごはん、うどんより蕎麦派なんですけど。あっ、でも蕎麦も2割は小麦かあ。
本間 でも過剰ではないのでひとまず大丈夫です。2人とも善玉細菌の量も正常ですね。
ワタベ うらんさん、ギリギリ低値。少なくないですか?
うらん ええ〜、毎日ヨーグルト食べてるのに〜。
本間 善玉菌は多すぎてもよくないんです。「SIBO(Small Intestinal Bacterial Overgrowth)」といって菌が産生するガスが増えることで腸壁が薄くなり、リーキーガットの原因になります。
ワタベ 善玉菌、多ければいいってものじゃないんですね。
本間 乳酸菌を摂って調子が悪くなるという人は、「SIBO」の可能性もあります。万人に乳酸菌がいいわけではないんです。
うらん せっ、先生? なんか私のミトコンドリアの検査値に「H」マークが並んでますが〜。
本間 ああ、ミトコンドリアマーカーに高いのと低いのがありますね。フマル酸とリンゴ酸が高くてクエン酸が低い。クエン酸回路がスムーズに回っていないので疲れやすいんじゃないですか?
うらん うぅ、確かに。週の後半になると足取りが重くなる気が。何が原因なんでしょう?
本間 ビタミンB群の不足や抗生剤、あるいは水銀、カドミウム、フッ素、ヒ素などの重金属の蓄積かもしれません。
うらん ひい〜。歯医者でもらった抗生剤? マグロの食べ過ぎ? 思い当たるフシが〜!
本間 ビタミンB群不足になりがちなアルコールの飲み過ぎなども原因として考えられます。
ワタベ 多分それですよ。僕は下戸。うらんさんザルだし。
うらん …ビタミンBサプリを飲んでみます。
本間 次は神経伝達物質の数値を見てみましょう。ドーパミンは多すぎると落ち着きがなくなります。こちらは2人とも大丈夫。エピネフリンはアドレナリンのことですけど、これも標準値の範囲です。で、2人ともセロトニンがしっかり出ていますね。
ワタベ セロトニンって脳の鎮静とか安定化に作用する神経伝達物質ですよね。
うらん 標準範囲は4.3以下で私は0.56、ワタベは0.39。オレンジの帯からは外れてるし、低いように見えますけど。
本間 日本人はほとんど0という人が多いので、2人とも高い方ですよ。さて、次はケトン体の検査結果です。うらんさん、ひょっとして糖質制限してますか?
うらん いいえ、むしろ糖質推進派です。
本間 ヒドロキシ酪酸とアセト酢酸というケトン体の数値がものすごく高いです。
うらん ええっ? 朝はごはん、昼は蕎麦食べてるのに!
本間 炭水化物の量そのものが少ないのかもしれないですね。糖質制限してるつもりはなくてもケトン体代謝が高くなってしまっているのかもしれません。
うらん ならもっとガリガリでもいいはず…。リモートワーク日は昼食を食べないせいかなぁ。
本間 全体像が掴めたところで次回は毒性化合物の検査結果を解説します。
うらん 今回はいいとこなしの私は怖いです…。
今回の「有機酸検査」
Squareクリニック
内科一般の保険診療だけでなく、国内でいち早く副腎疲労外来を設けたパイオニア的クリニック。このほかにも完全予約制のデトックス外来、アスリート外来、ダイエット外来など、さまざまな自由診療を手がける。徹底的な患者目線の医療には定評あり。
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