運動が「曲構成の決断を促してくれる」ミュージシャン・堀込高樹|私とフィットネス
運動・トレーニングの魅力は、健康づくりやボディメイクだけに止まらない。さまざまな著名人にカラダを鍛える理由を聞いた「私とフィットネス」。今回はミュージシャン・堀込高樹さんが、トレーニングを続ける理由について。
取材・文/飯田ネオ 撮影/下屋敷和文
初出『Tarzan』No.811・2021年5月27日発売
曲作りにもいい影響が出てきた。
KIRINJIの堀込高樹さんが『ターザン』本誌で行っていた連載「ジム通いのメランコリー」第1回には、こんなくだりがある。「“高樹のオッパイがギターに乗っかっている”(中略)ギターのボディのくびれ部分に肥満によって肥大した僕のオッパイが乗っかっていたのだ」。このライブのアンケート回答を見て、堀込さんはジム通いを決意したという。20年ほど前の話だ。
「ネタっぽく書きましたけど(笑)、当時ヘルニアを患って、体幹を鍛えたかったのもありました。区の体育館に行ったのが最初ですね」
以降、ジムに行ったりやめたりを繰り返して十数年。付かず離れずの付き合いを続けてきたけれど、この数年は週1ペースを維持。ささやかなトレーニングも、何年も続けたら基礎代謝がじんわりと上がってきた。今は24時間営業のジムに入会中。
「歌に本腰を入れよう、と思ってから意識的に行くようになったかもしれません。ライブで2時間歌うって、体力がないと持たないんです。だからマシンでウォーキングをするときは、歌うときの状況をイメージしながら呼吸をする。
スッスッハッハッ、ではなく、多めに吸って多めに吐いて、音楽は聴かずに呼吸に集中。でも激しくカラダを動かしたいときは、BTSとかカイリー・ミノーグとかデュア・リパを聴くことも。4つ打ちやEDMはやっぱりカラダが乗ってきますね」
ムキムキになりたいわけじゃないし、疲れると寝てしまうからやり込み過ぎない。平日は仕事をして、ジムに行くのは土日のどちらか。そうやってルーティンのようにコツコツと運動を続けていたら、曲作りにもいい影響が出てきたのだそうだ。
「例えば曲の構成で気に入ってる部分がありますよね。でも尺を考えると、そこを半分に切らないとまとまらない。切りたくないなあ、と思いながら走っていると、いつしか“切るしかないじゃん”と気持ちが切り替わるんです。決断を促してくれるんですよね。しかもポジティブに」
ネガティブな自分を客観視できる。
ジムに通っていないときも、考え方に運動の効果が表れだしている。
「年を重ねると春先の寒暖差にやられてうつ病を発症する人もいるそうなんです。確かに自分も2月、3月、4月ってメンタルの調子が悪いときがあって。でも動くようになったら体温が上がって、血の巡りもよくなってスッキリしたんですよ」
季節に限らず、ふとネガティブな思いにとらわれても、どこか客観視できる自分がいるのだという。
「運動した後のすっきり冴えてる精神状態を知っているから、ちょっと嫌なことを考えても、“今ってカラダの状態どうなってるかな?”と気にかけるようになりました。すると昨夜寝てないとかくたびれてるとか、肉体の状態が思考をあまりいい方向に向かわせていないんだな、と考えが及ぶ。
そうやって自分のカラダを客観的に感じられるということは、自分の精神の状態も客観的に見られるようになることだと思うんです。だから、変に思い詰めることはなくなったかな」
姿勢を崩しヘルニアになった堀込さんも、今では姿勢を気遣うように。
「かつては意識しなかったようなことが、常に頭の隅にある。自分のカラダがどうやって動いているのかがわかると、カラダと向き合うことがクセになるんです」