ストレッチの多くは“自動的”。自動的=オートマチックという意味ではなく、狙った関節を“自ら動かす”ストレッチだが、これから紹介するのは“他動的”なコンディショニング。教えてくれたのは、高梨沙羅や前田健太らトップ選手を指導する牧野講平さんだ。
教えてくれた人
「アスリートのトレーニング前に、私がまずやってもらうのが、他動的なコンディショニング。関節そのものではなく、手足などの他の部位を細かく揺らすことで、こわばった関節を他動的に緩めます。揺らすと血行が良くなって関節の機能が上がり、モビリティも高まってきます」
揺らして緩めるコンディショニングの最初のターゲットは胸郭。その中心の胸椎はモビリティ優位関節なのに、猫背だと硬くなりやすいのだ。
「胸椎を緩めてから、背骨に沿ってドミノ倒し的に体幹全体を緩めると、全身のモビリティが高まります」
下のリストの順に緩めていこう。
① 【胸郭】
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両腕を持ち上げ、脱力して下ろす(20~30回)
床で仰向けになり、両膝を腰幅に開いて立てる。両腕を天井へ向かってまっすぐ伸ばして、手のひらを向かい合わせる。両腕を軽く持ち上げたら、脱力して下ろす。その繰り返しで、胸郭の屈曲、伸展を行う。
片腕ずつ持ち上げ、捻る動きを出す(左右交互に各20~30回)
先ほどと同じように床で仰向けになり、両腕をまっすぐ伸ばす。左右交互に片腕を軽く持ち上げて、脱力を繰り返す。これで背骨を軸として胸郭が自然に旋回してくる。
② 【腰椎・骨盤】
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両膝を同時に軽く引き寄せる(20~30回)
床で仰向けになり、両膝を揃えて引き寄せ、抱えるように両手を太腿の後ろに回す。両手で膝を軽く引き寄せ、脱力して元に戻す。それにつれて腰椎・骨盤が屈曲、伸展する。
片膝ずつ引き寄せ、捻る動きを出す(左右交互に各20~30回)
次に、左右交互に片方ずつ膝を引き寄せては、脱力して元に戻す。これで腰椎・骨盤が自然に回旋していく。
③ 【股関節】
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膝を上下へ小刻みに揺らす(左右各20~30回)
床に坐り、右脚を伸ばす。左脚はラクに。両手で膝のお皿のすぐ上を持ち、股関節を引き出すように前に押しながら、膝を上下へ小刻みに揺らし、膝の屈曲と伸展を行う。左右を変えて同様に行う。
膝を左右へ小刻みに揺らす(左右各20~30回)
次に、股関節を引き出すように膝のお皿を前に押しながら、右脚を左右へ小刻みに揺らす。この繰り返しにより、股関節が自然に回旋してくる。左右を変えて同様に行う。
④ 【頸椎】
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頷くように顎を上げ下げする(20~30回)
床で仰向けになり、両膝を腰幅に開いて曲げて立てる。両手の指を交差させて、首の後ろの骨の出っ張り(棘突起)に触れる。軽く頷くように顎を下げて、顎を上げる。これで頸椎を屈曲・伸展させる。
イヤイヤをするように首を回す(左右交互に各20~30回)
先ほどと同じように構えたら、今度はイヤイヤをするように首を左右交互に軽く振る。これで頸椎を回旋させる。首の力を抜いて行うと、スムーズにツイストできる。
呼吸を整えて、カラダの内側からモビリティアップ。
体幹が緩んだところで、続いて見直したいのは、呼吸。
「呼吸に関わる呼吸筋は、姿勢を保つ姿勢筋でもある。呼吸は1日約2万回行っていますから、呼吸を変えると呼吸筋=姿勢筋が活性化されて姿勢が良くなり、全身のモビリティも高まりやすいのです」
呼吸で注目すべきなのは、横隔膜。肺は風船のようなもので、自ら伸び縮みできない。横隔膜と胸郭の働きで、胸が広がると肺も広がり息を吸いやすくなり、胸が萎むと肺も狭くなり息を吐きやすくなる。
横隔膜と胸郭を意識した深呼吸で、内側からモビリティを引き上げたい。
横隔膜と胸郭の働き
息を吸う際は、胸郭の肋骨が引き上げられて、胸郭下部が左右にも広がり、横隔膜は下がってくる。胸郭の体積が大きくなり、肺の膨らみも大きくなる。
息を吐く際は、胸郭の肋骨が下がり、胸郭下部は左右にも狭くなり、横隔膜が引き上げられる。胸郭の体積が小さくなり、肺の膨らみも小さくなる。
⑤ 【横隔膜】
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横隔膜呼吸に応じた胸郭の動きを確かめる(深呼吸5回)
仰向けで両膝を腰幅に開いて曲げて立てる。胸に片手を乗せ、肋骨に沿ってさする。片手を胸に乗せたまま、鼻から息を吸い、胸の上部が上がることを確かめる。口から息を吐き、胸の上部が下がることを確かめる。
横隔膜呼吸に応じたお腹の動きを確かめる(深呼吸5回)
両手を脇腹に添える。手で軽くお腹を押し込み、鼻から息を吸いながら、手を押し返すようにお腹が横に膨らむことを確かめる。次に口から息を吐き出しながら、くびれができるようにお腹が締まることを確かめる。
仕上げに行いたいのは、全身の統合。胸椎、腰椎・骨盤、股関節、頸椎とバラバラに緩めたものをまとめ、体幹のスタビリティ(安定性)を出しつつ、手足のモビリティを発揮する動きのパターンを繰り返しインプットする。
⑥ 【全身の統合】
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体幹を固定して片腕を伸ばす(左右各20~30回)
フォームローラー(またはバスタオルを筒状に丸めたもの)に仰向けに。両膝を腰幅に開いて曲げて立てる。両腕を天井へ上げ、手のひらを向かい合わせる。右腕を床と平行に下ろし、戻す。左右を変えて同様に。
体幹を固定して片脚を伸ばす(左右各20~30回)
先ほどと同じように仰向けになり、両腕を体側で伸ばし、手のひらを床に置く。体幹を固定したまま、右膝を股関節の真上まで引き上げてから、床と平行に伸ばして、元に戻す。左右を変えて同様に行う。
不安定な姿勢で片脚を伸ばす(左右各20~30回)
最初のエクササイズと同じように両腕は天井へ上げ、手のひらを向かい合わせる。不安定な姿勢でも体幹を固定して右膝を引き寄せ、床と平行に伸ばし、元に戻す。左右を変えて同様に行う。
対角の腕と脚を同時に伸ばす(左右交互に各20~30回)
1つ前のエクササイズ(不安定な姿勢で片足を伸ばす)のスタート姿勢を取る。片膝を引き寄せてから床と平行に伸ばしながら、対角の腕も床と平行に伸ばして、手足を元に戻す。左右を変えて同様に行う。
同じ側の腕と脚を同時に伸ばす(左右交互に各20~30回)
対角の動きの方がバランスを取りやすいのでラク。さらに難度を上げるなら、対角ではなく、同じ側の手足を同時に床と平行に伸ばしてみる。左右を変えて同様に行う。
以上の「①〜⑥」をトレーニング前や、体温が上がったお風呂上がりなどの新たな習慣として取り入れてみよう。