改めて学ぶ「痛風」の原因。
つい暴飲暴食を満喫した後の夜半または翌朝に激痛が足の親指の付け根に。悶絶しつつも数日後、痛みが鎮まったのを機に受診すれば「痛風ですね」とあっさり宣告され、予想外の病名に呆然とする人も…。
痛風とは血中に尿酸の増え過ぎる高尿酸血症が惹き起こす関節炎だ。食事で摂った、あるいは体内で作られたプリン体が代謝されて、最終的に尿酸となる。
プリン体とはプリン環という化学構造を持つ物質の総称。DNA、RNAやエネルギー物質のATP、あるいはレバーやイワシの干物などの食品に多く含まれる。このプリン体が原材料の尿酸は、健常者なら毎日約700mg作られ、ほぼ同量が尿、便、汗などとともに排泄され、体内の備蓄量は約1200mgに保たれている。
だが、尿酸の産生が過剰になったり、排泄が低下して備蓄量の限界を越えると、尿酸の血中濃度は高まる。やがて過飽和の状態に達すると、関節内や腎臓で析出し、結晶となる。
発症のピークは30代男性。
日本人では排泄低下型が約60%、産生過剰型が約15%、混合型が約25%とされる。我々はもともと尿酸の排泄が下手らしい。
そして、尿酸の結晶を白血球が異物と見なし、炎症性物質を作って攻撃し始めると、関節の滑膜や周囲の神経組織に激痛をもたらす。この痛風患者が増えている。
痛風は血清尿酸値が高いほど、またその持続期間が長いほどリスクの高くなることが知られていて、古くは美食に目がない中高年の男性に多いと考えられていた。ところが、いまや発症のピークは30代男性。若い世代にとって持続期間は大して長くないから、もう一方の変数=血清尿酸値がいかに高いかが推測される。
言葉を換えれば、少し前の時代までは一部の富裕層しか楽しめなかった贅沢三昧が、食が欧米化したいまでは普通の生活で摂れてしまっているともいえるだろう。食の欧米化に伴い肥満しやすくなっている事実も否定しようがない。内臓脂肪の蓄積が進むと、血清尿酸値は高くなっていく。
ヒトの尿酸値が高くなる理由については諸説あるが、進化の過程で尿酸を分解する酵素の遺伝子活性を失ったからだという説明がある。この突然変異に先立ち、ビタミンCの合成能力を失ったヒトにとって、尿酸は貴重な抗酸化物質。紫外線による酸化傷害から身を守るため、尿酸を手放したくなかったのかもしれない。
増え過ぎた尿酸が難治疾患を招く。
だからなのか尿酸の80%は尿中に排泄されるが、実はその90%以上が尿細管で回収されている。回収しているのはURAT1という名の尿酸トランスポーター(下図参照)。これは尿細管だけでなく血管平滑筋細胞や腎臓、脂肪組織などにも存在する。
つまり、これらの部位に尿酸が取り込まれ、細胞内に異常をきたすこともありうる。抗酸化物質という味方だった尿酸が、細胞内で増え過ぎると問題を起こすのだ。この状態が招き寄せる疾患には心血管障害や腎障害、果てはインスリン抵抗性から糖尿病まで視野に入ってくる。痛風はこれら多数の疾患のうちの一つともいえる。
ちなみに、女性ホルモン、エストロゲンにはURAT1の活性を抑える働きがあるため、血中の尿酸値は低くなり、閉経前の女性に痛風の発症は少ない。
予防の第一は食生活。
では、痛風を予防するにはどうすべきか? 冒頭でプリン体が代謝されて尿酸になると書いたが、食事由来のプリン体からできる尿酸は体内の全尿酸のせいぜい20%。残る80%は新陳代謝など生命活動に伴ってやむを得ず作られるもの。だからといって、食事に無頓着では予防にならない。
尿酸は酸性の環境下では溶けにくくなり、結晶化しやすくなる。にも拘わらず、日本人の尿pHレベルは年々低下している。つまり、徐々に酸性に向かっている。尿酸の結晶化を回避するには、尿をアルカリ性に近づけるような食品を選び、酸性に近づけるような食品を減らすのが賢明だ。
運動で内臓脂肪を減らすのももちろん有効だが、高強度の運動をすると筋肉内で尿酸が多く作られる。適度な有酸素運動にとどめるのがお勧めだ。
なお、痛みが治まったからといって放置すると、発作の発生間隔は短くなり、長い間に骨の破壊を起こしたり、既に述べた多種多様な疾患を招きかねない。発症後は通院、治療を中断しないことだ。