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オンライン×リアル、教育、デバイス…。フィットネスの未来を知るための8つのキーワード

フィットネスが一過性のブームではなく、日常におけるルーティンの一つとして浸透しつつある昨今。その背景に、昨年来否応なく変化したライフスタイルとそれに伴う健康意識の高まりがある。では、フィットネスは今後どうなっていくのか? 国内外のフィットネスに造詣の深い2人のプロが予測する。

教えてくれた人
田丸尚稔さん
田丸尚稔(たまる・なおとし)/広告代理店で営業・マーケティング職を務めた後、出版社でスポーツ誌などの編集職を経て渡米。フロリダ州立大学教育学部にてスポーツマネジメント修士課程を修了後、スポーツ教育機関〈IMGアカデミー〉にてアジア・日本地区代表を務めた。現在はジュニア層を対象とした新事業に取り組む。
東山暦さん
東山暦(ひがしやま・れき)/アメリカ・シアトルで育ち、スポーツビジネス・心理学のスペシャリストとしてプロ選手の育成に関わる。2006年より全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会(NESTA JAPAN)の代表に就任し、アジア・アメリカのフィットネス企業コンサルティングやセミナー活動なども精力的に行う。

キーワード①|オンライン×リアル

アフターコロナに突入してもオンラインの選択肢は残る。

田丸尚稔さん(以下、田丸) 今のフィットネスを語るうえでコロナ禍に目を向けないわけにはいきません。アメリカで定番のトレンド予測で2020年まではジムに関連したトピックが目立ったものの、2021年はオンライントレーニングやアウトドアアクティビティなどに様変わりしました。

東山暦さん(以下、東山) フィットネス教育団体〈SCW〉が、去年の年始にトレンドに挙げていたのはファンクショナルトレーニングやアクティブエイジング、パーソナルトレーニングでしたが、確かに今年はオンライントレーニングアウトドアフィットネスが目立った。HIITブームも健在です。

オンライントレーニングは今後も発展する
参加ハードルの低さなどの利点からオンライントレーニングは今後も発展するはず。

田丸 自分の生活リズムに合うタイミングで運動できたり、遠方のトレーナーのプログラムに参加できたりとオンラインの利点に多くの人が気づいたはず。ワクチンが普及しアフターコロナに突入しても、オンラインとリアルの両方の選択肢が残り、その時々で最適な運動に取り組むというハイブリッド型が主流になるでしょう。

キーワード②|パーソナライズ化

即席のガレージフィットネスやマイクロジムがますます主流。

東山 今までジムに通う人の目的は「筋肉をつけたい」「痩せたい」と比較的“大枠”でしたが、コロナ禍になり「免疫機能を高めたい」「内面からタフになりたい」など全体的に細分化されてきた印象です。そうなると、莫大な会員数を抱える大手スポーツジムには手が回らない。

より細分化するフィットネススタイル
フィットネスのスタイルはより細分化。大きなトレンドが生まれにくい時代ともいえる。

一方、ロサンゼルスや家賃が低い工場地帯では細かなニーズに応えられるマイクロジムが急増しています。アメリカの大手ジムでは業績悪化に伴う解雇が多く、パーソナルトレーナーの数が昨年2月期から4倍以上に増えているという統計もある。独立したトレーナーたちがキャッシュを早急に確保すべく、自宅のガレージにホームジムを作って商売を行う例も見られますね。

田丸 パーソナライズ化に拍車がかかりそうですね。短時間で効率的に運動したい人もいれば、時間に余裕があるぶん丁寧に取り組みたい人も一定数いるはず。その人のニーズに寄り添えるトレーナーが重宝されます。

東山 私が代表を務める〈NESTA JAPAN〉ではパーソナルトレーナーの資格に加えて、37種類に及ぶスペシャリストの資格も揃えています。トレーナーの世界でも日に日にパーソナライズ化が進んでいます。

キーワード③|見極め力

確実に成果を出すためには“見極め力”を磨くこと。

田丸 パーソナライズ化とは、カラダや精神状態を専門家が見ることで、その人の最適解を見つけること。しかし一方で、例えばオンラインでフィットネス系インフルエンサーの数も増えていて、「絞れる」「免疫力強化」など一様に効果がありそうな“謳い文句”が、ユーチューブなどにもあふれています。

東山 まさしくそれが我々の懸念点。誤った情報が効果不十分ケガを招きかねない。それがフィットネスへの信頼を損ねるとすれば本末転倒です。一般の人も正しい知識を身に付け、そのうえで自分に合う方法やトレーナーを見極める必要がある。指導を仰ぐトレーナーについては、正式に認められた団体の資格を持ち、常に知見をアップデートできている人が確実です。

田丸 例えば10という答え=ゴールがあれば、導き方は5+5や2×5など数多。トレーナーの知識が豊富でないと、教える相手が違ってもワンパターンになってしまいます。

東山 そこは会話を通して見極められるはず。トレーナーに限らずユーザーも相手の話を高解像度で聞けるリスニング能力が求められます。

田丸 仰るとおり、トレーナーにおんぶに抱っこでなく、ユーザーも能動的にフィットネスを楽しむことが重要ですね。どんな運動をしたいか、何を学びたいかを明確にすることで、自ずと見極め力は養われるはず。

ユーザー自身が自分に合ったフィットネスを見極める
“自分に合う”の基準を最も把握しているのは、結局本人。自分のビジョンを明確にすることでトレーナー探しもブレなくなる。

キーワード④|フィットネス→ウェルネス

今後は心身の健康に重点を置いたウェルネスを軸に。

東山 コロナはいうまでもなく災難ですが、結果的に「ウェルネス」という非常に重要な概念を日本人に広める土壌が生まれつつあります。ウェルネスとは健康をフィジカルの側面だけでなく、メンタルも含めてより広義に捉えた概念です。

1946年以後、世界保健機関が打ち出した時から一貫しているのは、フィジカルに焦点を当てたフィットネスだけでは不十分で、健康かどうかは健康診断の結果などから定量的に判断できないということ。カラダもココロも元気でようやく健康と呼べる考えがもとにあります。

新しい生活様式に伴う健康害として、アメリカで非常によく耳にするキーワードは肥満、鬱、孤立。3つのうち2つが心の健康に関わるもので、この状況は日本も似ているはずです。でもカウンセラーに気軽に相談できるアメリカと違い、日本は心療内科に行くしかない。カラダと同様、心も時には風邪をひく。その理解を今こそ深めるべきです。

輝くように生き生きしている状態こそ真の健康状態
ハルバート・ダン医師が唱えた「輝くように生き生きしている状態」こそ真の健康体。

田丸 以前フロリダに住んでいた時、アメリカと日本のウェルネスに対する理解度の差を痛感しました。主に北米ではロングタームアスリートディベロップメント(LTAD)といい、長期的な視野で年齢やレベル、目的を考慮し、スポーツに関わるのが一般的です。そのアプローチはただ試合に勝つといったことだけではなく、個々の心身の健康的成長に重きを置いてます。

また、例えば〈IMGアカデミー〉ではフィジカルやメンタル、栄養学やリーダーシップなど総合的なトレーニングに時間を割いています。一方、日本ではこのような一貫した考え方がないために、特に学生時代は勝利至上主義に陥りやすく、長期的かつ広い視点で運動するという前提が抜けている。身体&人格形成のアプローチだと捉えるためにもウェルネスへの理解を深めたいものです。

キーワード⑤|教育改革

10歳の子供への教育が10年後の未来を決める。

東山 ウェルネスへの理解が深まれば、運動を点ではなく縦軸(時間)と横軸(幅)で捉え、長く広く続けて心身を豊かにするという発想につながります。よって実際は教育から変えなければいけませんね。

最近アメリカでよく見聞きするキーワードは“子供と健康”。家に長くいることで子供の健康が気になる親が増えている状況も示唆していますが、幼少期からウェルネスをしっかり子供に教育できれば、それを見ている親も変わり、ひいては業界全体が変わる好機になりうる。

田丸 10年後を考えた場合、今10歳の子供は成人しているわけです。未来を変えるなら彼らにどうアプローチできるか。広い目と長い目を兼ね備えた教育者も当然必要不可欠。いかに優秀なコーチを育てるかが今後の日本のフィットネスの命運を分ける気がします。

東山 日本の教育はいまだに体育から来ていますが、さすがに限界がある。

運動には多角的な意義がある
ウェルネスの普及が道半ばなのは旧態依然とした教育も一因。部活動の“スポ根”にとどまらず、運動の多角的な意義を伝えたい。

田丸 日本の学校ではよく“文武両道”と言われますが、そこには部活動と勉強を別物として考えるという前提があると感じます。でもアメリカでは特にその2つを分けず、同じフィールドのものと捉える。文武両道ならぬ「文武不岐」です。

東山 同意です! スポーツの技術や一般知識などをいかに社会で活かしてビジネスにするかということが、本来の教育の目的であるはず。

田丸 中高生のスポーツに関する研究にも携わるなかで、子供の教育を見直すことは、つまり指導者など大人が変わることでもあると感じます。トレーナー育成を担う東山さんのお話と僕が行っている中高生の子供にフォーカスした事業は、実は地続きなのだと大いに感じました!

キーワード⑥|ウェアラブルデバイス

ウェアラブルデバイスは玄人向け? 今なお進化中。

東山 ウェアラブルデバイスの技術や正確性が上がってきたのも、フィットネス業界においては大きな転換期となるように思います。私が最近気になったのはコンディショニングに特化した《WHOOP》。心拍トラッキングのほか、休養スコアや睡眠状況が分かる。

また《Amazon Halo Band》では加速度計や温度センサー、心拍センサーが搭載されていて健康管理に使えるほか、ユーザーの声の調子から精神状態を解析し、相手にどう認識されるかを予測してくれる「Tone」を搭載。今までなかったメンタルヘルスに関わる機能に新しさを感じました。

田丸 ウェルネスを念頭に置いているのですね。私は〈アシックス〉×〈カシオ〉の《MOTION SENSOR》が気になります。ランナーの走りを計測し、その人に適した目標設定とアドバイスをもらえる、パーソナライズ化するための商品です。〈カシオ〉のセンシング技術も興味深い。

ただしこれらの技術はデータを取って「なるほど」で終わらせずにどう使うかが課題ですね。データを練習などに活かすのが本来重要なはずですが。

東山 同感! 正直、メーカーが先を行き過ぎていると感じることも。

田丸 例えば蓄積された莫大な量のビッグデータが重要な時代ですが、意味を解せず活用できないデータなら、いくら集めてもゴミも同然です。

東山 ハハハ(笑)。現状、トレーナーですらデータを活用できる人が少ないので、一般ユーザーが使いこなすのはかなり難しいと思います。

スマートウォッチはデータの読み解きが重要
フィットネス愛好家のシンボルともいえるスマートウォッチ。計測したデータを正確に読み解き、その後の行動に活かせられれば、健康管理の幅が広がる。

田丸 収集したデータを踏まえて自分がどうなりたいのかをユーザー側も明確にした方が有意義ですよね。「良質な睡眠をとって毎日の運動を楽しみたい」「体脂肪率を減らして肉体改造したい」など、その人の目的によって、有用なデータも解釈の仕方も当然変わります。

東山 メーカーの方でおそらくもう研究・開発が進められていると思いますが、今後ウェアラブルデバイスと連動されるフィットネスマシンなどが生まれたりすると、今の対個人ではない活用法が生まれて面白そうです。ウェアラブルデバイスがさらに進化して使いやすくなれば、より幅広い層に浸透していくはず。

キーワード⑦|データサイエンティスト

アメリカでデータを駆使するプロが次々に生まれている。

田丸 今後ますます需要が高まるデータサイエンティストのような専門的な知識を持ったフィットネス系のトレーナーを育成するのはハードルが高いのでしょうか。

東山 そうですねぇ。データサイエンティストは意思決定の局面で、データに基づき合理的な判断を行えるように意思決定者をサポートする職業で、近年アメリカの大手企業やメガベンチャーでもプレゼンスを発揮しています。

それに近い情報提供をできるトレーナーが求められるのは間違いないので、我々も育成に力を入れ始めており、今後データに造詣の深いトレーナーをより多く育成できればと考えています。アメリカではカリフォルニア大学バークレー校でデータサイエンスは全学部生の必修科目となっています。

データサイエンスの関心が高まる
日本で希少なデータサイエンス専攻の大学院がアメリカで急増。今後も関心の高まりは必至。

田丸 日本では現在データサイエンティストの知名度がまだまだ低いですが、ウェアラブルデバイスの普及やセンシング技術の革新が進めば、そのデータを活かすことに重点が置かれるため、データサイエンティストやデータアナリストの存在がより一般的になるはずです。テクノロジーはかなり進化しつつあるので、あとはそれを扱える人材が揃うと、フィットネスのパーソナライズ化がより進むと思います。

キーワード⑧|日本型フィットネス

欧米のフィットネスにない日本独自のアプローチに期待。

東山 データサイエンスの分野など、アメリカの方が進んでいる部分もありますが、日本にも強力なコンテンツはあります。ここ数年マインドフルネスのブームからに対する関心が世界的に高まっていますが、禅を体感するスポットはまだまだ限定的。心の健康をサポートするという点でも禅は最適ですが、外見を変えるためのコンテンツに偏っているのが日本の今の課題ですね。

田丸 フロリダに住んでいた2010年代後半、現地の人には「日本食はヘルシーだ」とポジティブなイメージを持つ人が想像以上に多かったのが個人的に印象的でした。

東山 伝統的な発酵食品にはプロバイオティクスが豊富でしょう。腸と脳の相関性についての研究が多いですが、その有用性が明らかになれば、日本にはウェルネスにつながる豊かな食文化がすでにあるという強固な裏付けになります。

田丸 日本食の知見を活かした栄養指導が組み合わさったサービスなどはアメリカではウケそうです。

東山 いずれにせよ、欧米のフィットネスを導入するばかりでなく、他国にない“日本型フィットネス”の選択肢が増えると面白いはず。

田丸 確かに“欧米型”がそのまま日本人にフィットするかといえば、難しい面がありますね。以前〈IMGアカデミー〉で日本から渡米するスポーツ留学生を見ていた時、象徴的な出来事がありました。球技の授業で、アメリカ人は短時間で効率性の高い練習に価値を置いているので、必要最低限の練習を1日2時間に凝縮してこなす。

一方日本人は、部活動などで朝から夜まで練習に取り組む原体験があるためか、アメリカ人と同じ2時間の練習をやってもらっても、いまいちしっくりきていないようでした。効率性の利点を見出す一方で、長時間&多回数こなすことで得られる“達成感”に重きを置く傾向があるとすれば、ケガをせず一定の効率性を確保したうえで、バランス感のある練習法を指導者は模索するべきかなと。

東山 欧米型が必ずしもベストとは限らない。日本人にフィットするメソッドが広まるとより生活にフィットネスが根付くと思います。

田丸 研究段階ですが、日本でも少なくない自治体が街づくりとして「ウェルネスシティ」に関心を向けつつあります。センシング技術を応用した健康管理に秀でたシステムを随所にちりばめて、町全体をフィットネスジム化するイメージでしょうか。もしこれが気候条件と地理的条件が多様な日本で実現すれば、その地域固有の面白いコンテンツにもなるのではないかと。

ウェルネスシティの実現が待たれる
歩行速度と健康状態の関連性などの研究が進む。センシング技術を応用したウェルネスシティ、実現が待ち遠しい!

東山 欧米万歳や日本礼賛と偏らず、それぞれの利点を取り入れながらウェルネスを追求できる土壌ができるとより楽しいでしょうね!

取材・文/門上奈央 イラストレーション/エイドリアン・ホーガン

初出『Tarzan』No.808・2021年4月22日発売

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