食事と運動“以外”のダイエット。睡眠と入浴の正解

ダイエット中に気にすべきは「食事と運動だけ」は少し情報が古いかもしれない。ものを食べていない、カラダを動かしていない「睡眠と入浴」という2つの時間の過ごし方で、ダイエット中の心身のコンディションに大きな違いが出るのだ。

取材・文/廣松正浩 イラストレーション/泰間敬視

初出『Tarzan』No.795・2020年9月10日発売

ほんとうに必要な睡眠時間は?

睡眠は最初の深い眠り(ノンレム睡眠)がきちんととれれば大丈夫、睡眠は量より質だと、まことしやかな情報を目にするが、どうやらそうでもなさそうな調査結果がある。

下のグラフは、睡眠不足が解消した状態で自然な目覚めに任せると、実験前の睡眠時間よりも1時間長くなったという調査結果。それが本来、必要な睡眠時間らしい。睡眠は質だけではなく量も重要なのだ。ダイエット期間の早寝早起きは、必ずしも正解ではないようだ。

“潜在的睡眠不足”の解消が内分泌機能の改善につながることを明らかに
必要睡眠時間は約8時間25分健康な成人男性15人(平均年齢23.4歳)を実験室で9日間にわたり睡眠時間を12時間に延長してもらった後、自由に起床してもらったところ、日頃の時刻より約1時間長い時刻に落ち着いた。つまり、必要睡眠時間に約1時間の不足が常態化していた。この実験を通して睡眠不足を解消した参加者たちは血糖値、ストレスホルモンであるコルチゾールなどが低値を記録した。
出典/『“潜在的睡眠不足”の解消が内分泌機能の改善につながることを明らかに』(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター/2016年10月26日付)

就寝の前にメラトニンが出るよう朝から準備せよ。

さて、よかれと思って朝食に無糖のブラックコーヒーとGI値が低そうなパンなどで1日3食を厳守するダイエッターは多い。が、これでは夜の快眠の準備になりにくい。

人を睡眠に導くホルモン、メラトニンは体内でセロトニンから合成される。朝はセロトニンの材料、トリプトファンを含むタンパク質を摂ると、就寝時刻が近づくころにはメラトニンに変換されている。

朝はタンパク質をきちんと摂るのが正解。洋食なら、牛乳やヨーグルトなどの乳製品を加えるといい。乳製品を摂る頻度が高い運動選手ほど、睡眠の質も高いという調査結果がある(下の表)。ダイエット時の朝食にプロテインを加えるのも、高タンパク低脂肪でいいかもしれない。

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乳製品の摂取は睡眠の質を高める。/トップ選手と大学生選手計1145人を乳類摂取頻度が週0~2日の群、3~5日の群、6~7日の群に分け、睡眠状況を解析。主観的睡眠状況が良好=0、その他=1でオッズ比で評価した。乳類の摂取頻度が高い人ほど睡眠の質が良好である可能性が見てとれる。
出典/『トップアスリートの牛乳・乳製品摂取状況と睡眠状況との関係』(牛乳乳製品健康科学会議/亀井明子)

ダイエットにはストレスがつきものだが、対処としては乳酸菌食品を摂るのも正解だ。実験ではストレス下で乳酸菌飲料を飲んだ群は、飲まなかった対照群よりも熟眠度が高かった。よく眠れたわけである。

腸内細菌の活動は短鎖脂肪酸を産生する。短鎖脂肪酸は腸管からのセロトニン分泌を促すことが知られている。それが関係しているのだろう。

プロバイオティクスは通過菌で、簡単には腸に定着しないという悲観論も根強くあるようだが、少なくとも“通過中”は腸内環境が(少し)よくなって熟睡しやすくなり、睡眠への満足感から日中のストレスも軽くなると期待しよう。ストレス食い防止はダイエットの正解だ。

ストレス下でも十分に熟睡できた
ストレス下でも十分に熟睡できた。/学術試験前の精神的ストレス下にある医学部生にL.カゼイ・シロタ株1000億個を含む飲料を3週間飲用してもらい、この菌株を含まない飲料を飲んでもらった対照群と睡眠を比較。対照群に比べ深い睡眠を示すデルタパワーが高まり、熟眠度の向上が確認できた。
出典/『脳腸相関⑤:乳酸菌が脳腸相関に及ぼす影響(後編)』(ヤクルト中央研究所)

入浴でカロリー消費は時代遅れな不正解。

昼間、密になるのを恐れて外出の機会がめっきり減ると、運動不足を気にするあまり、入浴でカロリー消費した気分に浸る人が現れる。懐かしい半身浴で長時間ねばってみたり、リバイバルブームの高温反復浴を試みたり。見かけ上の発汗量で、やった気になってしまう。

2007年の報告では、1回30分、週3回、湯温40度の半身浴を4週間実施した結果、安静時のエネルギー消費量が1日当たり約200キロカロリー増加したという(花王スキンケア研究所、北海道大学などの共同研究)。

軽いジョギング20分間と同等と評価していたが、他の研究(※『半身浴による生理変化』(日温気物医誌2007; 70(3): 165‐171/山崎律子、本多泰揮、原田潮他)では湯温41度×30分の半身浴によるエネルギー消費は約50キロカロリーとしている。体脂肪燃焼は期待できそうにない。

ぬるめのお湯でさっと手抜き入浴が正解だ。

入浴による発汗は温度に対する単なる反応。運動による発汗とは異なるし、消費エネルギーもはかばかしくはない。減量そのものではなく、生活習慣病の対策を目的にした方が賢明だろう。高温で長風呂しても、健康につながるものではなさそうだと訴えるのが下のグラフ。

入浴はぬるいぐらいが、いい感じ!
入浴はぬるいぐらいが、いい感じ!/全国20~70代の男女計960人を調査。湯温40度以下で入浴時間が10分以下の“健康手抜き風呂”で済ませている人は、同じ10分以下でも湯温41度以上の“江戸っ子風呂”に入っている人に比べ、将来的に各種疾患にかかる可能性の低い傾向が見てとれた。
出典/『NEWS LETTER 熱中症と暮らし通信』(Rinnai, 2017年11月6日付)

ぬるめの湯温40度以下で10分以内カラスの行水式の手抜き入浴をする方が、41度以上の江戸っ子好みの入浴よりも、将来的に生活習慣病にかかる可能性が高いと診断され“にくい”という結果が出ている。近年、湯温は40度までとする提言が医学界から多く出ている。新しい時代の正解かもしれない。

ちなみに、高温のサウナにはまた別の作用機序があるようだ。参加者2,315人(42~60歳)で1984年にフィンランド東部で開始された前向きコホート研究の結果、入浴頻度別で3群に分けて追跡調査をしたところ、頻繁にサウナ入浴を続けた群ほど心臓突然死は明らかに少ないという結果が出た。

サウナ入浴頻度が多いほど健康的か。
サウナ入浴頻度が多いほど健康的か。/1週間にサウナ入浴が1回の群、2~3回の群、4~7回の群を追跡調査した。入浴頻度が高いほど、心臓突然死の危険は低かった。
“Association Between Sauna Bathing and Fatal Cardiovascular and All-Cause Mortality Events”(T. Laukkanen, H. Khan, F. Zaccardi,et al. / JAMA Intern Med. 2015; 175(4): 542-548)

これがそのまま日本人に当てはまるかどうかは不明だが、メタボ回避がダイエットの目的なら、サウナも悪くないかもしれない。頭の片隅にとどめておいて損はないだろう。