そもそも口が臭う原因は?
口臭を生み出す最大の要因と疑われる歯周病に罹っている人は、35歳以上の日本人の8割に上るといわれている。これは中年以降には深刻な問題だ。歯周病は口の中だけの疾患にとどまらず、多くの生活習慣病の呼び水になりうることもわかってきた。
実は歯周病だけが口臭の原因ではない。健康な人の口の中には約800種、2,000億個以上の常在菌が棲息する。これに対し抗菌・殺菌作用を持つ唾液が、たっぷり分泌されていれば、口の中の環境は安定する。
だが、ストレスや口呼吸、ドライマウスなどで唾液が減ると常在菌は増え、口はニオイを発し始める。就寝中も唾液の分泌量は減るから、起き抜けの口は臭いやすい。
食事やホルモンの変動、口の中の構造が影響。
常在菌が生み出す物質のうち、悪臭として目立つのは揮発性イオウ化合物。その発生には概日リズムがあり、グラフに見られるように食前に強くなり、食後は低値を示す。唾液や飲食物に希釈され、流されるからだ。
ニンニクを例に挙げるまでもなく、特定の飲食物が口臭、体臭をもたらすことは誰しも経験しているはず。
意外なことに健康的なイメージにあふれるブロッコリーなど、アブラナ科の植物に多く含まれるコリンは、代謝されてトリメチルアミンになると、魚臭を漂わせる。
グリーンアスパラガスも代謝されるとメチルメルカプタンやジメチルスルフィドといったイオウ化合物を生み出し、やはり臭う。生のキャベツに含まれるメチオナールもイオウ化合物だし、ナッツ類にもコリンは豊富だ。どれもカラダによさそうな食材だが…。
体内のホルモン環境の変動にも影響される。女性の中には月経周期に連動して口臭の強くなる人もいる。特に排卵直前は女性ホルモンによって発育する歯周病菌、プレボテラ・インターメディアが増え、イオウ化合物を生み出すのだ。このことは妊娠期間中にもあてはまり、妊婦は歯周病を悪化させやすい。
口の中の物理的構造も影響する。歯を失い、欠損箇所をブリッジで補っている人は、ブリッジと歯肉の間に食べかすを溜めやすく、それが臭いがち。
インプラントを入れている人は、歯と歯肉の境目の窪み(歯肉溝)が深くなりがちなので、そこに歯垢ができやすい。歯垢はもちろん臭う。歯周病も虫歯も治療せず、放置すればほぼ間違いなく臭う。
唾液の分泌を促すのが第一歩。
そして、前回の体臭で指摘したように、人は自分のニオイがわからない。手で囲った中に息を吹き込み、嗅いだところで感知できないのだ。
では、どうする? いまではニオイセンサーやブレスチェッカーなどといった製品が販売されている。顧客と直接対話する職種の人は、取り入れてみてもいいだろう。
口臭がする、もしもその自覚があるなら最初に見直すべきは食事内容。
多忙にかまけ、ろくに咀嚼もせず、流し込み型の食事を繰り返していないだろうか? これが常態化すると唾液の分泌量の低下を招く。食物繊維の豊富な嚙み応えのある食事を心がければ、腸内環境にも好影響が及び、カラダの芯からのニオイはやわらぎ、おならも臭いにくくなる。
唾液量が不足気味で、ストレスなど根本的原因の解決が困難な場合、対症療法だが唾液腺のマッサージを習慣化するといいだろう。
食後の歯磨きも見直すべきだ。歯ブラシだけでなく、普段からフロスや歯間ブラシも極力使いたい。
また、ノズルから勢いよく水流が噴き出る口腔水流洗浄器を自宅に置くのもお勧めだ。これを使えば歯肉溝、歯周ポケットも清掃できる。食べかすの徹底排除はニオイの撃退だけでなく、虫歯や歯周病の予防にもつながって一挙両得だ。
ペーストの歯ミガキ以外にも洗口液を使うと、歯ブラシの届きにくい隙間を攻略しやすい。ただしアルコール(エタノール)を十数%含むものもあり、粘膜の炎症や口腔内の乾燥をもたらすことがある。成分表示で確認のこと。
ニオイをもたらしやすい食材を好んで、頻繁に食べてきたなら、量や頻度の見直しが必要だろう。大切なデートの日には控えるなどの工夫も推奨したい。
最後に、虫歯や歯周病のある人は、さっさと受診し、治療を受けることだ。この2つの疾患は放っておいて自然治癒することはない。なぜ歯周病がメタボリックシンドロームを招き寄せるかは次回、お届けする。