罹患してから長い時間がたっていたり、重症で膵臓が機能をほぼ失ってしまったら話は別だが、「職場の健診で血糖値高めぐらいの診断なら、食餌療法と運動療法を3か月頑張れば十分に改善できます。初診時に指導の意味を理解した方の中には瞬間的に治るケースもありましたよ」と語るのは、栗原毅院長(栗原クリニック東京・日本橋)。
いよいよとなったら薬があるさという甘い考えから真の原因を放置し、いよいよ合併症の足音が近づいてきたときに慌てるようなことのないように、そもそも血糖値高めにならないよう、賢く、快適に暮らすには何をいかに工夫すべきか。やるべきことは実は意外と単純だ。これぐらいなら受け入れられるでしょ?
目次
対処法1|健診結果をきちんと読み解き現状を知る。
気になるのは血糖値の項目だろうが、健診はほとんど絶食後の数値。食後の状態は分からないし、その日の体調にも影響されるから、この数値だけで一喜一憂するのは問題だ。
「過去1~2か月間、赤血球のヘモグロビンのうち、どれぐらいが糖化したのかを表すHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の数値を見るといいでしょう。目標になる正常値は4.3~5.5%。6.0%を超えてしまうと境界型といえます」
また、肝細胞に異常が起きると最初に増えるALT(GPT)も頼りになる検査項目。糖質の摂り過ぎなどによりALTが20を超えたら脂肪肝の疑いあり。
「糖尿病を引き起こす元の原因として脂肪肝があって、こうなると肝細胞がセレノプロテインPという、サイトカイン(ヘパトカイン)を分泌し始めます。この物質はインスリン抵抗性を募らせ、せっかくの運動の効果をなくしてしまいます」
現在、日本人の4人に1人、約3,000万人が脂肪肝と考えられるという。特に女性に多く見られるので、ALTの数値には注意しよう。
対処法2|体重2kg減の効果を馬鹿にするな。
少なからぬ社会人は多忙によるストレスを食事で癒やし、多忙から運動不足になりがち。こうしたライフスタイルから内臓脂肪の蓄積が進み、内臓脂肪が分泌する生理活性物質、アディポサイトカインの作用はインスリンの効きを悪くする…。
かくして糖尿病をはじめとする生活習慣病が出現する。そこで運動療法と食餌療法で生活を改善し、内臓脂肪を減らす努力が始まるのだが、
「持続困難なペース設定はダメです。生活を改善して1年間で体重が6kg減らせれば、ほとんどの人の糖尿病は治ります。まずは現在の体重から2kg減を目指してください」
それにはご飯、パン、麺などの主食を10%減らすのが近道。20%減らすと嫌になって挫折しやすい。
「2kg落とせたら、そのうち1.6kgは内臓脂肪の減少分で、残り400gは肝臓に溜まっていた脂肪という計算になります。肝臓から脂肪が400g取れたら上出来で、これで大体よくなります」
肝臓自身が身軽になれば、血中にだぶつく余分な糖質、脂質を肝臓がどんどん代謝してくれるようになる。
対処法3|筋肉の脂肪を追い出す下半身トレを日課に。
体脂肪を主に燃焼し、減少させるのは有酸素運動。この理屈自体は正しいが、運動でエネルギーを消費する際に使うのは脂肪だけではない。
どうしても筋肉をいくらか道連れにする。だから、有酸素運動だけに取り組むと、体重は減るが筋肉も痩せていく。ダイエットに成功しても、手にしたカラダは以前よりも太りやすくなっている…。
「お勧めはどこでもできるスクワットです。太腿が床と平行になるまで5秒かけて腰を下げ、上げるのも5秒。最初は5回から始めましょう」
強めの刺激を習慣化し、大腿四頭筋についていた脂肪を減らせれば、内臓に溜まっていた異所性脂肪の燃焼効率も格段によくなり、血糖値を下げやすくなるはずだ。
「同様の効果を期待できるのは、椅子に座ったまま、ながらでできる腿上げとウォーキングです」
腿上げは両手で座面をつかみ、片脚ずつ、あるいは両脚を一緒にまっすぐに伸ばす。ウォーキングの際は腕を大きく振ったり、肘を軽く曲げ、腕を左右に広げて胸を張るなど、上半身も動員すると効果的だ。
対処法4|肉、卵を意識的に摂り、タンパク質の不足に注意。
体内でタンパク質が足りているかどうかはアルブミンの値でわかる。数値が4.1g/dL以下だと栄養失調の恐れがあり、3.6g/dL以下になるとカラダの機能が衰弱する可能性も否定できなくなる。
「この範囲を超えないと筋量アップは望みにくいので、タンパク質の豊富な食事を心がけてください」
目安は1日に脂身の少ない肉を150gに卵2個、ここに豆腐半丁を足せば理想的だ。これで体重60kgの成人が1日に必要とするタンパク質60gを摂取できる。運動強度を高めれば、もう少し多く摂るも可。
食事の改善でアルブミン値が4.5g/dL以上になると、筋肉がしっかりしてくるので根気よく続けよう。
対処法5|賢い間食で食欲をコントロール。
引き締まったカラダを維持しているのに、ちょいちょい間食に手を伸ばす人がいる。適度な糖質の補給は悪いことではない。血糖値の低下を放置すると、ホルモン(グルカゴン)の分泌が亢進し、筋タンパクの分解が進むからだ。
けれど、間食が度を越すと、せっかくスクワットに励んでも元も子もない。3食をきちんと食べて、血糖値の乱高下は極力避けよう。
「内臓脂肪を落としたい人に特にお勧めなのが、カカオ成分を70%以上含む高カカオチョコレートです」
高カカオチョコレートにはカカオのポリフェノールが非常に多く、イタリアで行われた実験では、1日25gを数回に分けて3ヶ月間摂取したところ、肝機能、血糖値、脂質代謝、便通が軒並み改善したという。
「ポリフェノールは体内に貯めておくことができないので、1日に25gを5gずつ食前とおやつの時間の5回に分けて食べるのがお勧めです」
他にも小腹が空いたときにコンビニで手軽に手に入るビーフジャーキー、あたりめ、ミックスナッツ、スモークチーズなどは高タンパク質&低脂質で間食にはもってこいだ。