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【ホルモンって何だ?】ホルモンが体内で作用するメカニズムについての、ちょっと専門的な4つの話

体内環境の調整で大きな役割を担っているのが、自律神経とホルモン。そのうちホルモンは血中に分泌される科学的情報物質で、食事やストレス、性周期、加齢などに影響する。種類によってさまざまな働きをするホルモンだが、どのようなメカニズムでカラダに作用しているのか。ちょっとマニアックで専門的なその仕組みを、4つのトピックから深掘りする。

受け手がある細胞だけに効く物質。

ホルモンがピンポイントで効いてくれるのは、こちらのホルモンの3つの威力を解説した記事で述べたように、各細胞の受容体と1対1の関係があるため。この受容体には、細胞膜受容体と細胞内受容体という2タイプがある。

ホルモンと受容体は、 鍵と鍵穴の関係にある。
ホルモンと受容体は、 鍵と鍵穴の関係にある。/ホルモンが鍵だとすると、受容体は鍵穴。受容体という鍵穴に合うホルモンだけがターゲットとなる細胞に取り込まれる。だからホルモンは少量でも効き目抜群だ。

細胞膜受容体は、細胞を包む細胞膜上にあるレセプター。

細胞膜とは、脂質が作る二重のバリア。ホルモンには脂質に溶ける脂溶性のものと、水に溶ける水溶性のものがある。このうち水溶性のホルモンは、「水とアブラ」で細胞膜を通過できない。このため、細胞膜受容体にキャッチされるのだ。

その後、細胞内のシグナル伝達に関わる物質を活性化。シグナルが伝わり、ホルモンの作用が発現する。細胞膜受容体にキャッチされるのは、甲状腺ホルモン、アドレナリン、インスリンなどである。 細胞内受容体は、細胞膜を通過できる脂溶性ホルモンをキャッチするもの。該当するのは、男性ホルモン、女性ホルモン、コルチゾールなど。 詳しく見ると、細胞膜を通り抜けた後、細胞質にある受容体と合体するケースと、細胞核にある受容体と合体するケースがある。いずれも最終的には細胞核内の遺伝子を呼び出して、ホルモンの機能を発揮する。

“下克上” という 仕組み。

ホルモンの効き目は、その分泌量(濃度)によって左右される。

最適の分泌量を保つために、ホルモン自身や、ホルモンが機能した結果生まれた物質により、分泌量の調整(フィードバック)が行われる。

ホルモン調節の大半は、ネガティブフィードバックと呼ばれる仕組みで行われている。より下位にある内分泌腺が、上位にある内分泌腺を制御して分泌量を抑えるのだ。

ホルモンの過剰な分泌をセーブする。
ホルモンの過剰な分泌をセーブする。/ホルモンの適正な分泌量(血中濃度)を保つ仕組みの主役。ホルモンによって体内環境が正常化すると、分泌を促す上位の内分泌腺に働きかけて分泌を減らす。

たとえば精巣からの男性ホルモンの分泌は、上位の脳の下垂体が分泌するLH(黄体化ホルモン)で促される。そしてLHは、さらに上位の視床下部が分泌する性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)で促進される。男性ホルモンが増えすぎると、LHとGnRHを抑制する。加えてLHもGnRHをセーブし、男性ホルモンの濃度は安定する。

大半はネガティブフィードバックだが、例外的に逆のポジティブフィードバックを示すものもある。その一つが、分娩時に下垂体から出るオキシトシン。オキシトシンは子宮の平滑筋の収縮を促し、その収縮は下垂体からのさらなるオキシトシンの分泌を促進する。かくて子宮が連続的に収縮して分娩が成功するのだ。

ホルモンには 3つのタイプがある。

ホルモンは全部で100種類以上あり、化学的な作りと原材料から、3つのタイプに分けられる。

まずはステロイドホルモン。原料はステロイドで、コルチゾール、アルドステロン、男性ホルモンなどがある。ステロイドはコレステロールから生じる物質だ。ステロイドホルモンは脂溶性だから、細胞膜を通過して細胞内受容体にキャッチされる。

作りと原料から、 3タイプに分類する。
作りと原料から、 3タイプに分類する。/ステロイドホルモンはコレステロール、ペプチド型ホルモンとアミン型ホルモンはアミノ酸が原料。ステロイドホルモンは細胞内受容体、ペプチド型ホルモンとアミン型ホルモンは細胞膜受容体が標的。

ペプチドホルモンは、アミノ酸を数個から数百個も連ねたポリペプチドからなる。これにはインスリン、成長ホルモンなどがある。

アミン型ホルモンは、アミノ酸から酵素により合成されるもの。ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリン、メラトニンなどがある。

ペプチドホルモンとアミン型ホルモンは水溶性なので、細胞膜上にある細胞膜受容体でキャッチされる。

ホルモンは、分泌する細胞内の小胞体で合成される。小胞体には、リボソームが鋲のように付いた粗面小胞体と、リボソームがない滑面小胞体がある。ステロイドホルモンは滑面小胞体で作られる。ペプチドホルモンとアミン型ホルモンは粗面小胞体で合成された後、ゴルジ体で濃縮されて細胞外へリリースされる。

古典的な分泌法以外のホルモンもある。

ホルモンは通常、内分泌腺などの臓器で作られ、血中に分泌されてターゲットとなる細胞で威力を振るう。血液に乗って広がるから、遠く離れたところでも効いてくれるのがメリット。たとえば脳の下垂体から出る成長ホルモンは、はるばる肝臓まで届いて、インスリン様成長因子-1(IGF-1)の合成を促している。

こうした正統的なスタイル以外に、血液に乗らない内分泌の仕組みがある。それがパラクリン(傍分泌)とオートクリン(自己分泌)。

狭い範囲内に限り、 効力を出す分泌法。
狭い範囲内に限り、 効力を出す分泌法。/ホルモンの多くは全身で作用する。それに対して周囲の細胞だけに働くのがパラクリン、自分自身に働くのがオートクリン。両者を合わせて局所ホルモンという。

パラクリンでは、細胞から分泌された物質が拡散してすぐ周囲の細胞の受容体に合体して働く。典型例は、膵臓のランゲルハンス島のδ細胞から分泌されるソマトスタチンというホルモン。隣接するβ細胞に作用し、インスリンの分泌を抑える。

オートクリンとは、細胞が自身に効く物質を分泌するもの。ホルモンではないが、母乳の量を調整する乳汁産生抑制因子(FIL)がこれに相当する。

FILは母乳を出す乳腺細胞が分泌。FILが蓄積すると乳腺細胞に働き、母乳分泌を抑える。だから赤ちゃんが母乳を飲み取るか、搾乳して乳房を空に近い状態にすることが母乳分泌の維持には役立つ。

取材・文/井上健二 撮影/小川朋央 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/天野誠吾 取材協力/成瀬光栄(医仁会・武田総合病院内分泌センター長)

初出『Tarzan』No.782・2020年2月22日発売

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