【ホルモンって何だ?】カラダ作りに欠かせない3つの威力
仕事を頑張りたいのにやる気が出ない、サボらずやっているのにトレーニングや減量の効果が上がらない。そんな悩みがあるなら、目を向けてほしいものがある。それが、「ホルモン」だ。
取材・文/井上健二 イラストレーション/サタケシュンスケ 取材協力/成瀬光栄(医仁会・武田総合病院内分泌センター長)
初出『Tarzan』No.782・2020年2月22日発売
ホルモンは、カラダを作り、 ココロを動かす!
体内環境を調整するのは、自律神経とホルモン。交感神経と副交感神経からなる自律神経は瞬時に反応し、ホルモンはゆっくり効く。このファスト&スローの組み合わせにより心身はヘルシーに保てる。
「ホルモンは生きていくうえで絶対必要。分泌が乱れると病気に直結します」(武田総合病院内分泌センターの成瀬光栄センター長)
ホルモンは、血中に分泌される化学的情報伝達物質。細胞が合成したホルモンを血中にリリースすることを「内分泌」と呼ぶ。これは、小腸などが消化液を腸管に分泌する「外分泌」に対する言葉。腸管は外界とつながるカラダの外側だから外分泌、血中はカラダの内側なので内分泌と呼ばれるのだ。
ホルモンの分泌は、1日24時間のリズムを刻む脳の体内時計が制御する。この他、食事、ストレス、性周期、加齢なども影響する。こうしたホルモンの働きと効くタイミングを踏まえることはカラダ作り、健康作りへの近道なのである。
ホルモンの3つの威力。
その1| ごくごく少量で効いてほしい場所に効く。
ホルモンの最大の特徴は、ごく少量で効くということ。
ホルモンの種類によって分泌量に差はあるが、なかには1兆分の1gでも効果があるものもある。これは、50mプール(およそ250万L)にスプーン1杯分のホルモンを混ぜた濃度に相当する。 少量で効くワケは、ホルモンは受容体(レセプター)と結びついてはじめて効力があるから。
細胞には、受容体と呼ばれるアンテナのような物質がある。 細胞ごとに持っている受容体のタイプや数は異なる。ホルモンと受容体には1対1の関係があり、ホルモンごとに対応する受容体は異なっている。
あるホルモンが効き目を発揮するのは、その受容体を持っている細胞だけ。だから、少量でも狙った細胞だけできちんと威力を表してくれるというわけ。
ホルモンは効いてほしい場所に加えて、効いてほしいタイミングがある。薬と同じでずっとだらだら効き続けるのはマイナスだから、血液に乗って流れている間に肝臓と腎臓で少しずつ分解されて無力化される。ホルモンは少量だからこそ分解もスムーズに進み、効いてほしいところに効いてほしいタイミングで作用してくれるのだ。
その2| ホルモンの異常は身近な病気と関わる。
ホルモンの異常で起こる病気というと、成長期の成長ホルモンの不足による低身長症や、甲状腺ホルモンの分泌が増えすぎて起こるバセドウ病(甲状腺機能亢進症)のように、ちょっと特殊なものを想像してしまう。
だが、もっと身近な病気がホルモンの異常で起こることがある。その典型といえるのが、高血圧だ。
血圧が高くなりすぎる高血圧の患者は、日本全国で4000万人。まさに国民病だが、その10%にあたる400万人は、ホルモンの異常が関わる可能性がある。その代表が、原発性アルドステロン症だ。
アルドステロンは、副腎皮質が作るホルモン。腎臓に作用し、ナトリウムの再吸収を促して血圧を上げる。生命はナトリウム豊富な海で誕生した。その後陸上へ上がるとナトリウムは一転して貴重品となり、その排出を抑えて体内に留めるために、アルドステロンが作られるようになったのだ。
「原発性アルドステロン症では、副腎皮質に何かの原因で良性の腫瘍が生じ、その刺激でアルドステロンが過剰分泌されて血圧が上がります。血圧を下げる降圧薬の効果が不十分なら、精密検査を受けてください。原発性アルドステロン症なら、手術で腫瘍を取ると血圧の正常化が期待されます」
その3| 有害なものでも、人体には大切な機能になる。
初めて見つかったホルモンは1900年に高峰譲吉らが副腎から精製したアドレナリン。 その後も多くのホルモンが見つかり、ここ四半世紀は心臓や血管からも発見が相次いだ。
35年ほど前に心臓から見つかったのは、心房が分泌するANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)というホルモン。利尿作用を持ち、血管を広げて血圧を下げる。
続いて、心室からもBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)というホルモンが見つかり、同じく利尿効果があり、血管を緩めたりして血圧を下げていると判明。ANPは心不全の治療薬で、BNPは心臓の検査で活用されている。
その後、ANPやBNPとまったく逆のホルモンを血管が出していることがわかった。1988年に発見されたエンドセリンだ。 「エンドセリンは人体でもっとも強力な血管収縮作用がある。興味深いことにその化学的な構造は、サソリや貝の毒に似ています」
ホルモンではないが、同じように危険な物質を血管は作っている。血管の内皮細胞が分泌するNO(一酸化窒素)は光化学スモッグや酸性雨の成分だが、体内では血管を緩めて血圧を下げてくれる。
毒と薬はまさに紙一重なのだ。