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普通に鍛えるよりも…「低酸素トレーニング」ここがスゴい

トップアスリートのものだった低酸素トレも、体験できる施設が続々オープンしてぐっと身近に。どんな効果があるのか気になります。低酸素トレの、4つのスゴいところ。

その1. 低酸素環境を負荷にして鍛えるという発想。

裸足のランナー、アベベは高地の住人だったし、標高2,400メートルの地で行われたメキシコ・オリンピックでも高地民族が長距離種目を総ナメにした。で、高地の環境はどうやら持久系競技のパフォーマンスアップに有効らしいと分かった。その後、高橋尚子選手がコロラド・ボルダーでの高地トレを取り入れ、金メダルを獲得したことは記憶に新しい。

平地の環境に比べて高地は負荷が高い。ここでいう「負荷」とは強度や頻度のことではなく、「酸素量の低下」のこと。

下の表をご覧のように、標高が上がると空気に含まれる酸素の量はどんどん低くなっていく。つまり、同じ体積の空気を取り込んでも酸素が少ないから苦しい。こうした負荷を受けながら一定期間トレーニングをすると、後に平地に戻ったとき楽に動けるというわけだ。

この特性を利用し、平地にいながら低酸素環境で行うトレーニング法が近年、大注目を浴びている。

標高と酸素濃度の関係
高地ほど酸素が薄い。 標高と酸素濃度の関係/標高0mの平地での酸素の量を100%とすると、1000mでは約89%まで低下。以後、標高が上がるごとに酸素濃度は低くなる。平地で運動するより辛く感じるのはこの酸素の薄さのせい。

その2. 持久力も筋力もアップし、動きに余裕が生まれる。

持久力も筋力もアップし、動きに余裕が生まれる。

酸素が薄い環境で運動するとどうなるか? より多くの酸素を取り入れるために換気量が増える。心拍数が増加し、肋間筋や横隔膜などの呼吸筋や心臓のポンプ機能が鍛えられる。これが真っ先に表れる効果。

とはいえ、体内の酸素量が絶対的に少なくなることは避けられない。そこで、乏しい酸素を体内で効率的に使いこなす能力がアップする。

具体的には、赤血球中で酸素と結びつき、全身に酸素を届けるヘモグロビンの数が増える。ヘモグロビンによって運ばれてきた酸素を受け取り、筋肉にリレーするミオグロビンの数も増える。筋肉にまんべんなく酸素を運ぶために毛細血管が新生されて網の目状に広がる。酸素を介してエネルギーを作り出す細胞内のミトコンドリアの数も増す。つまり、省エネだけどガンガン動けるカラダになるというわけ。

低酸素トレによるミトコンドリアの密度変化
低酸素トレによるミトコンドリアの密度変化/常酸素環境と低酸素環境で高強度トレーニングをする群と低強度トレーニングをする群でミトコンドリアの密度を比較。低酸素環境で高強度トレーニングをした群はミトコンドリアの量が55%と大幅に増えた。
伊藤作図

ここまでは比較的強度の低い運動効果。より高強度の運動を行うと、脂肪だけでなく、糖質をエネルギーとして活用する能力がアップする。筋肉に蓄えられるグリコーゲンの量が増え、より大きな筋力が発揮できるようになる。糖質をエネルギーとして代謝すると、その過程で乳酸が増えてくるが、この乳酸をエネルギーとして利用する能力も強化される。

つまり、高強度運動でバテにくいカラダにもなるのだ。 結果、常酸素環境で階段をヒョイヒョイ駆け上がれる余裕が生まれる。そう低酸素トレ、すごいんです。

その3. 運動後は脂肪が代謝され、少ない食事で満足できる。

持久力と筋力が養われるというのは運動中にカラダの内部で起こる変化。これだけでも嬉しい話だが、低酸素トレは運動後にもすごい効果をもたらしてくれる。

運動後は脂肪が代謝され、少ない食事で満足できる。

まず、運動後に脂質の代謝がアップすることが分かっている。考えられる理由としては、運動後に失われた筋肉中のグリコーゲンを補充するためのエネルギーとして脂質が利用されるというもの。

もうひとつは、胃から分泌されて食欲を促すグレリンというホルモンが抑制され、食欲が抑えられるということ。グレリンは運動によって活性度が低くなることがすでに分かっているが、低酸素の環境で運動するとより活性が下がるという事実も明らかにされている。

グレリンの活性度が下がったところで食事をとれば、自ずと食べる量が減る。ひもじい思いをして食事量を減らすのではなく、運動していないときに比べて少ない量で満足感を得ることができるのだ。運動後、体脂肪が代謝されて食事量が減ったら、さてどうなる?

低酸素環境での運動でグレリンが最も低下。
低酸素環境での運動でグレリンが最も低下。/いずれも運動群でグレリンが低下。常酸素と低酸素では後者の方がグレリンの低下率が高い。
Lucy K. Wasse, David J. Stenselら, J Appl Physiol 112: 552-559, 2012

その4. 細マッチョへの変身が通常より効率よく進む。

有酸素能力だけでなく筋パワーも向上させることができる低酸素トレ。現在ではマラソンなどの持久系スポーツだけでなく、さまざまなスポーツのパフォーマンスアップが期待されている。

アスリートだけではない。一般人のカラダづくりにとってもかなり有効。糖質エネルギーの利用効率がいいので短距離ランニングやインターバルトレをバテずに行える。乳酸をうまく利用できるようになることで強度の高い筋トレにも対応できる。

しかも、運動中は体脂肪の代謝がアップし、食欲も抑制される。となれば、細マッチョへの変身はそう遠くない道のり。

アスリートのパフォーマンスアップ効果は2〜3週間で表れるという。一般人の場合、食欲低下を加味すれば、週2回のトレーニングを1か月くらい行えば細マッチョに近づける可能性は大。低酸素トレは常酸素下のトレーニングより効率がアップすると考えていい。

細マッチョへの変身が通常より効率よく進む。

ただし、注意点はいくつかある。低酸素の環境下の運動はカラダへの負荷が高い。最初はカラダが過剰に反応してショック期に陥ることもある。具体的にはフラフラしたり頭痛がするなど軽い高山病のような症状が出ることも。

1、2回目はカラダを慣らしながら軽い運動を行い、それ以降はしっかり鍛える。知識を持った指導者のもとで計画的にトレーニングを進めることが必要だ。

今、東京都内では、 ASICS Sports Complex TOKYO BAYやOXYGEN with MIURA DOLPHINSといった「低酸素トレが実践できるジム」が多々登場している。それぞれのジムに使い勝手が様々あるので、ぜひこちらの記事で詳細のチェックを。

取材・文/石飛カノ イラストレーション/3rdeye 取材協力/伊藤穣(慶應義塾大学スポーツ医学研究センター、ナショナルトレーニングセンター高地トレーニング強化拠点医科学サポートディレクター)

初出『Tarzan』No.781・2020年2月13日発売

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