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ここはディズニーランド。ジム通いが続く“妄想”の力|立川談慶の「腹割って話そう」(3)

筋トレが好きすぎる落語家・立川談慶さん。過去に『ターザン』誌上のベンチプレス選手権に出場し、また普段から週4日のトレーニングをこなすガチのトレーニー。そんな談慶さんはいかにして筋トレにハマり、また筋トレから何を学んだのか。〈Tarzan Web〉連載で、軽妙に語っていただきます。

前回は、筋トレを始めようとしている皆様方のために、「自宅から一番近いジムを」、そして「そこでベンチプレスを補助し合うなどの友人を作ろう」などと長く続けるための秘訣のようなものを自分の経験と踏まえながら述べさせていただきました。

そもそもなぜ筋トレは続かないものなのでしょうか?

一番は、「成果が見えにくい」という点ではないかと思います。

なぜゴルフにはハマるのか。

ここで、筋トレとは真逆のゴルフを例に挙げてみましょう。

ゴルフは、レッスンプロの指導を仰いだり、ゴルフ仲間からのアドバイス一つで飛距離がグンと伸びたり、ショットの精度も高まったりするもの(だそう)です。

すみません、私は実はゴルフはやらないので憶測でしかものが言えませんが、「ゴルフなんかやるもんか」と拒否していた人たちがいざハマると「こんなに面白いものはない」と目の色を変えてきたりして、その理由を聞いてみると、おしなべて皆さん、「やればすぐにうまくなるから」という声がドライバーショットのごとくズバンと返ってきます。

対費用効果がものすごくいいのでしょう。もっとも企業の経営者各位がこぞってゴルフに熱中するのも、それぞれ仕事でも普段から追い求めている姿勢がやはり基本は対費用効果だからでしょう(やや極論ですが)。

仕事の上で生じた悩みもゴルフと同じようにスッキリ解決させられるという「爽快感」は、ゴルフをやったことのない私でも十分やりたいなと想像できる感覚です。

対費用効果とは、効率です。効率を追い求めてここまで伸びてきた日本経済そしてその下支えをするサラリーマン諸氏に絶大なる親和性があるものこそゴルフの神髄なのです。まして気の置けない友人らとコミュニティを形成しながら進めるスポーツでもあります。その後のシャワールームでの裸の付き合い、酒の付き合いなどがそれをさらに増幅させます。

極端な言い方をすれば、ゴルフはスポーツというより、コミュニケーションなのです。

筋トレは“人生そのもの”である。

さあ、ここからです。

ゴルフがコミュニケーションならば、基本一人でこなし、自分に向き合うべき筋トレはコミュニケーションではなく「生き方」ではないでしょうか。

そうなんです。筋トレは、生き方、人生そのものなのです。そこで、筋トレを「人生」とまずとらえ直してみてはいかがでしょうか?

人生や生き方だったら、スムーズに進むわけありません。3歩進んで2歩下がるのは当たり前です。

私自身、「絶対浪人なんかしたくない!」という意識に凝り固まって取り組んだ結果、大学は現役で入ることが出来、大学も留年などすることなく〈ワコール〉という会社に入りました。そこで3年間勤務の後、落語家になるのですが、いままでのパターン分析というか、徹底的に師匠談志の書いた書物をひも解き、研究し、「落語50席覚えれば誰でもすぐに前座から二つ目へと昇進させる」という一文を見つけ出しました。

「よし、だったら入門する前に30席ぐらい覚えておけば、月に2席覚えるとして一年で前座修行はクリアできるなあ」と青くさい青写真を勝手に描いて入門したものでした。

ところが、いざ入門してみると、入った環境は想像していた世界とは全く異なっていました。「踊りと唄が出来ないと昇進させない」という感じに師匠はその昇進基準をガラリと変えてしまったのです。

もろくも当初の想定は崩れ去ってしまいました。そうなんです、立川流が北朝鮮ならば、そこに「地上の楽園」を見出そうとしていた私は「よど号の犯人」とまったく同じ構図でした(笑)。

その後、一年かそこらでクリアできると思っていた前座修行はなんと9年半もかかってしまったのでした。人生とか生き方って、思い通りにいかないものであります。

さ、ここなんです。

筋トレを人生、生き方と置き換えてみますと、途中さぼってしまったり途中でやめちゃったり、ケガして休んでしまったりするのも当たり前ではないでしょうか? こういう具合にソフトに考えてみるのです。「予定通りに行かないものだ」と。予定通りに行っていたらそれは奇跡に近いのかもしれません。

こんな曲がりくねった実人生を不器用に歩き続ける私だからこそ、筋トレは私とも親和性があり、それゆえ私は長続きできているのかもしれません。

筋トレに人格を与えるのなら、ゴルフみたいな素直な人間ではないのです。ほうっておくとすぐさぼり、怠けたがるのが筋トレなのです。だって、筋肉自体は鍛えれば増大しますが、基本とことん怠け者なんですもの。

すぐに休みたがり、疲れたがる筋肉との対話である筋トレは、まず「思い通りにはいかない奴だ」というレベルで接しましょう。

さ、こんな体たらくな筋トレとの向き合い方の秘策をこれから述べてゆきます。

ジム = ディズニーランド?

ここからは「妄想力」をフル回転させてみるのです。

私は筋トレ開始直後、ジムを「ディズニーランド」だと妄想した時期がありました。

重いカラダを引きずり、ジムに着いた時に「ああ、疲れているな」という思いに負けそうになり、「今日は帰ろうかなあ」という考えが頭をよぎりました。

「ここで踏みとどまるには?」と考えた結果、「あ、ここはディズニーランドなんだ。マシンやフリーウェイとはアトラクションなんだ」と切り替えてみたのです。人気のあるベンチはさしずめ「スプラッシュマウンテン」でしょうか。共に水分というか汗が飛び散ります。

スクワットをやるスミスマシンは「ビッグサンダーマウンテン」でしょうか。恐怖心からではなくひと踏ん張りする際に出る絶叫系と同じ大声が出てきます。

一連の妄想後の各種トレーニングでの追い込みにより、脳が誤作動し、「本当にここはディズニーランドにいるのでは」と錯覚してしまったようで、いつもより苦にすることなく集中できた感が身体中にみなぎりました。

「あ、こうすればいいのか」。

これは一つの山場を乗り越えたような格好となりました。筋トレではなく、仕事などの難敵に遭遇した場合、「俺は、この辛い筋トレという魔物と毎日格闘しているんだ!」という自信と自負はゆるぎないものになりました。これは筋トレからもらった継続の余禄のようなものでしょうか。実に大きなプレゼントになったと確信しています。

『不動坊』に学ぶ“妄想”の力。

いざという時に手助けしてくれるのは「妄想」かもしれません。『不動坊』という落語があります。吉公という男が、長屋の大家さんから、「長屋の美人未亡人・お滝さんと一緒になれ」と言われます。お滝さんは亭主である不動坊という芸人と死別したばかりでした。

対して吉公は「いやあ、もともとお滝さんはあっしの嫁だったんですよ」と訳の分からないことを言い出します。大家さんが疑問に思って「そりゃ一体どういうわけだい?」と問い質すと、「本当はお滝さんはあっしの嫁なんですが、今あっしが忙しいんで、不動坊の馬鹿に貸してやっているんだと思うようにしたんですよ。それからってえもんはお滝さんはあっしの嫁なんです」と答えます。

どうです、いいでしょ、この発想というか「妄想」。こんなある意味スーパープラス思考の持ち主の吉公はその後、「実はお滝さんは不動坊が生前起こした借金を抱えている」と大家さんから打ち明けられた時、「借金ぐらいあった方が働く張り合いが出ますから」と言ってのけます。

落語から「妄想」を引っ張り出してみましたが、「ジムはディズニーランド」という私の「妄想」もぜひ使ってみたらいかがでしょうか。バカバカしい妄想でジム通いが継続できたとしたら、きっと答えとして「筋肉増大」が待っているに違いありません。

継続の頑張りは自信にもつながり、身も心も強くしてくれるのが筋トレなのです。妄想は確実にあなたの人生を変えます! レッツ妄想!

PROFILE
立川談慶さんの写真
立川談慶(たてかわ・だんけい)/1965年、長野県生まれ。1988年に慶応義塾大学経済学部を卒業後、〈ワコール〉に入社。その3年後に独立し、立川談志門下へ入門。2000年に二つ目昇進、談志より「談慶」と命名。2005年に真打ち昇進。『大事なことはすべて立川談志に教わった』(KKベストセラーズ社)など著書多数。近著に『老後は非マジメのすすめ』(春陽堂書店)。
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