• この暑さに、アスリートはどう向き合えばよいのか。「暑熱馴化」をデータでみる
CONDITIONING
2019.08.17

この暑さに、アスリートはどう向き合えばよいのか。「暑熱馴化」をデータでみる

190817_tarzan01

JISSの暑熱対策セミナーでは、熱とパフォーマンスの関係がエビデンスとともに紹介された。競技者にとって貴重な研究で見落とせない。

1. 熱環境は持久性運動に大きく影響する。因子は気温、湿度、輻射熱だ。

暑さに耐えての有酸素運動は暑熱馴化をもたらすが、暑熱環境が最もダメージを与えるのも持久系運動能力だ。被験者には最大酸素摂取量の70%の強度で、自転車エルゴメーターを漕げるところまで漕いでもらった。

結果はおおよそ予想通りのものだった。気温は低ければ低いほどよいものでもなく、恐らく11℃付近に最適な温度があるのだろう。31℃までしか計測しなかった理由は不明だが、東京オリンピックはさらに高温が予想される。パフォーマンスの低下が心配だ。

湿度は上昇につれ、遂行時間が単調減少しているから、低いほどよさそうに見える。輻射熱はゼロが最も好成績だったということは、温湿度管理に留意した屋内競技こそ夏季に満喫すべきってこと?

1/20
ちょっと分かりにくい輻射熱は大体これくらい
ちょっと分かりにくい輻射熱は大体これくらい。
輻射熱の800W/㎡は春から秋までの晴天時屋外の数値。500W/㎡は薄い雲に覆われた日の屋外ぐらい。250W/㎡は厚い雲に覆われた屋外で0W/㎡は屋内など日陰とされる。
Galloway and Maughan. Med Sci Sports Exer. 1997 Maughan, Otani, Watson. Eur J Appl Physiol. 2012 Otani, Maughan et al. Eur J Appl Physiol. 2016
自転車エルゴメーター運動
湿度と運動継続期間

2. ただの水もよいが糖とタンパク質を加えた方がいい!

なぜ、スポーツドリンクには甘みが加えてあるのか? 実はワケがある。

「水だけでなく、少し糖もあった方が吸収は速いからです。腸管上の糖のトランスポーターも水を運ぶので、これを利用するんです。最近のスポーツドリンクはブドウ糖だけでなくマルトデキストリンなど、いくつかの糖を混ぜ、さらにエネルギー摂取効率を高めたものもあります」(安松教授)

また、永島教授によると、「運動後にタンパク質も摂る習慣をつけると、血中にアルブミンが増えます。アルブミンは1gにつき水を18ml呼び込みますから、血漿が増えて脱水の予防につながります」という。

スポーツドリンクとプロテインを一緒に摂る方がよさそうだ
スポーツドリンクとプロテインを一緒に摂る方がよさそうだ。
暑熱環境下で5日間トレーニングを行った後に、糖とタンパク質を適量含んだドリンクを摂った。対照群は糖を加えた飲料を飲んだ。結果は見ての通り。乳製品もオススメだ。
Goto et al,. 2010

3. たった1℃の体温上昇も精神疲労も、体力を低下させる。

暑さだけでなく、精神疲労も持久性運動能力にはダメージを与えている。実験結果はこの通り。精神疲労というのは早い話がパソコン業務。実施時間はきっかり90分間だが、被験者はただそれだけでちょっとダウンだ。

だが、いまどきのオフィスワーカーのパソコン業務が90分間で終わるわけもなく、そのダメージたるや…。

体温上昇は深部体温を1度上げただけだが、それでも安静に過ごした被験者の3分の2まで低下した。精神疲労と体温上昇ではとうとう半分にまで落ち込んだ。

暑熱環境下での通勤による体温上昇は1度なんてものでは済まないだろう。これに長時間のデスクワークを伴えば、ランニングしようにも“足を引っ張られる”だろう。

トータルたった90分間のストレスでも運動能力に大きな影響を及ぼした
トータルたった90分間のストレスでも運動能力に大きな影響を及ぼした。
40℃の温浴は30分間、胸まで浸かり深部体温を1℃高めた。精神疲労とは認知機能テストを90分間実施。その後、最大酸素摂取量80%で自転車エルゴメーターを漕ぐ。居室環境は気温30℃、湿度は50%で実施。
Otani, Watson et al. Eur J Appl Physiol. 2017

4. パフォーマンス低下に早い遅いはあっても結局落ちる。

発汗による脱水が体重の2%を超えると持久性パフォーマンスが低下することは知られている。

「実際には1%でもパフォーマンスが低下することが報告されています」(安松教授)

2%までなら体温が著しくは上昇しないが、そこで水分補給や冷却を怠ると、1%脱水が進むごとに直腸温は0.3℃の上昇が、また心拍数は毎分10拍の増加が引き起こされる。飲んでもすぐには吸収できないから、水分補給は早め、こまめに開始すべし!

パフォ−マンス低下と脱水は反比例する
パフォ−マンス低下と脱水は反比例する。
発汗で脱水が進み、カラダから水分が2%以上失われると持久性パフォーマンスが低下し、3%を超えるとスプリントパフォーマンスも低下。ほとんどの人は体力に応じてピンクの範囲に収まる。
Bangsbo et al., 1992

5. 暑熱環境を作って運動すればスプリント能力は向上する!

人工的に暑熱環境を作ることができるなら、そうした温湿度の地域でのパフォーマンス低下を避けられるどころか、やり方次第では向上できる可能性もある。

「暑くなるようにウェアを着て、練習後スプリントのタイムを測りましたが、5日後には強化できていました。強度の高いトレーニングを行いながら暑熱馴化すると、パフォーマンスは上がります。寒い時期には暑い地域でトレーニングを実施するサッカーチームもありますよ」(安松教授)

暑熱トレーニングという分野の可能性も
暑熱トレーニングという分野の可能性も。
スキーウェアのインナー上下にウィンドブレーカーまで着込み、カラダを温めながら強度の高いトレーニングを5日間実施。暑熱馴化後はベストタイムとの開きが縮まった。
安松幹展氏作成

6. 危険な体温、40℃に達するのをいかにして遅くするかが重要だ。

一目瞭然である。運動前に深部体温をしっかり下げておくと、運動開始後の体温上昇は明らかに遅くなるのが分かる。

問題はほとんどの人が運動停止に至る40℃に達するタイミングをいかに先送りするか。開始前に深部体温を下げることは重要だし、種目によっては運動中やハーフタイムなどのインターバルでも冷やすことは重要だ。

状況が許すならクライオセラピー(液体窒素の冷気で全身を冷やす)も試みるとパフォーマンスの改善だけでなく、運動後、疲労からの迅速な回復が期待できる。

深部体温を下げておくと運動継続時間は大幅に延びた
深部体温を下げておくと運動継続時間は大幅に延びた!
運動前に十分深部体温を下げておくと、開始直後の立ち上がりが遅くなり、37℃を超すまでに10分以上かかった。対照群との運動継続時間の差は結局20分以上も開いた。これは冷やしとかないと損!なのだ。
Gonzalez-Alonso et al., 1999

取材・文/廣松正浩 イラストレーション/Seiji Matsumoto 取材協力/国立スポーツ科学センター(JISS)『暑熱対策セミナー「東京 2020 オリンピック・パラリンピックに向けた暑熱環境対策」』

(初出『Tarzan』No.725・2017年9月14日発売)

Tarzan 公式アカウントから
最新情報をお届けします。

ここにエラー文言が入りますなりゆきですここにエラー文言が入35文字以内

ご登録いただくと、弊社のプライバシーポリシーとメールマガジンの配信に同意したことになります

完了

ご登録ありがとうございます。