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暑さに強くなれば、熱中症にもかかりにくくなる。そのために知っておきたいこと、やっておきたいこと

暑さに強くなれば、熱中症にもかかりにくくなる。そのために知っておきたいこと、やっておきたいこと。本来は梅雨明けまでに済ませておくべきだが、もしもまだなら、いまからでも遅くない。

東京は“暑く”なっているのか?

ヤバイという日本語が海外の研究者の口をついて出た。2015年6月、フランス国立スポーツ科学センターで行われた『ヒートストレス&パフォーマンス』という国際カンファレンスでのことだ。何を指したのかというと、2020年東京オリンピックの気温。

冷涼な気候で試合やトレーニングを積んでいる北欧、西欧の選手たちにとって、東京の高温多湿は脅威であり、世界中から日本の夏は注目されているという。

では、東京は暑くなっているのか? 下記のチャートを見てほしい。温暖化だ、ヒートアイランドだと騒ぎながら、50年前と比べ最高気温、つまり日中の気温はさして高くなっていない。問題は夜になっても温度が下がらないこと。つまり、寝苦しくなったが、現場で選手の足を引っ張る程度は50年前と大差なく見える。

50年前と今の気温の違い
気象庁ホームページより

ただし、開催期間の7月24日から8月9日は、例年梅雨明け直後に当たり、本格的な暑さに慣れていないため、熱中症で搬送される人が最も多いタイミングでもある。どちらかといえば、日本人自身が用心した方がいいのかも。

そもそも、暑さに慣れる(「暑熱馴化(しょねつじゅんか)」という)とは、いかなる現象だろう? そして、暑い環境下ではヒトに何が起きているのか?

暑いときに、ヒトのカラダに起きていること。

猛暑日に屋外で活動したり、運動をすると、ヒトは汗をかき、その汗が乾く際の気化熱でカラダを冷やす。これは小学生でも知っている当たり前の理屈だ。

だが、その汗の原料は何か? 血液のうちの液体成分、血漿だ。おさらいすると、血液は赤血球、白血球、血小板が血漿の中に分散したもの。体重約60kgの成人男性なら、5L弱の血液が脳、筋肉、内臓、皮膚などに分配される。

「暑いとき四肢の静脈の血管は拡張し、太くなります。心拍数・心拍出量も増えます」と語るのは体温・体液の専門家、永島計教授(早稲田大学人間科学学術院)だ。

体表から毛細血管や静脈血の熱を放散しても体温が上がり続ければ、ある瞬間から発汗が始まる。

「運動していると筋肉に行く血流と、体温調節のため皮膚に行く血流のせめぎ合いになります」

そして、運動続行のためには筋肉が優先されがちとなる。

「内臓への血流も減りますが、皮膚への血流が相対的に低下して、汗は減り、体温調節が犠牲になって、じりじりと体温は上がり続けていきます」

少しでも冷やそうと汗は流れ続けるが、内臓への血流がさらに減り、消化吸収機能も低下するから、

「マラソンの大会などでエイドステーションに立ち寄って、少々水を飲んだところで、その全量はとても吸収しきれません」

吸収する水分量より発汗で失う方が多くなれば、脱水状態に陥り、体温は上がり続け、40℃ぐらいまで上昇すると疲労感が強まり(熱疲労)、運動停止に追い込まれる。

「暑さは耐えられるが、脚が言うことをきかなくなったから、などと失速の原因を話すランナーを見かけますが、そうではありません。暑さにやられたのです」

なぜなら、熱疲労は熱中症の始まりだから。暑さに強くなれば、熱中症にもかかりにくくなる。そのためには暑熱馴化のすべを知って、実施することだ。本来は梅雨明けまでに済ませておくべきだが、もしもまだなら、いまからでも遅くない。それほど日本の残暑は厳しく、長いからだ!

暑さに“慣れる”にはどうすればいいのか?

梅雨明けにいきなり高温の日が続くと、熱中症の患者は激増する。カラダが慣れていないからだ。では、暑さに慣れる=暑熱馴化とはいかなる現象か?

「季節変動のある地域で、より汗をかいたり、血管を拡張するような耐暑反応を自律神経が指示することで熱を逃がす能力を一時的に高めた状態です」(永島教授)

視床下部からの指令が強くなり、発汗が増す。
視床下部からの指令が強くなり、発汗が増す。
発汗を促すシグナルは脳内の視床下部から発令され、脊髄、交感神経を経て、汗腺へと伝わっていく。「暑熱馴化を遂げると、視床下部から発するこのシグナル自体が強くなっている可能性があります」(永島教授)。

熱帯で暮らしてきた人たちは生まれつきの強さ(長期馴化)を持っているが、現代の日本人が努力しても、この能力は獲得できない。ただし、プログラムに則って取り組めば一時的な適応(短期馴化)は可能だ。

「手っ取り早いのは“暑い×運動”の組み合わせです。カラダの中心温度や脳の温度を上げることが刺激としては一番強い。それが約38℃を維持できるような強度の有酸素運動と、高温の環境下で集中的に取り組めば4~5日で達成でき、2週間続ければほぼ完全な状態にたどり着けます」

体温調節の中枢、視床下部が適応。
体温調節の中枢、視床下部が適応。
暑熱にさらされることを繰り返すと、心理的な慣れを生じる。「日常的な暑熱馴化は中枢の変化だといわれています」(永島教授)。体温調節の中枢といわれる視床下部が強化されると暑熱耐性が高まるらしい。

暑熱馴化後はその能力を落とさないよう、週に2~3回の有酸素運動を続ければ、恐らくそのシーズンは乗り切れる。だが、まったく維持の努力をしなければ、3週間くらいで完全に元に戻るし、翌年までは絶対にもたない。

「体温調節の中枢は脳の視床下部で、そこから発汗を促すシグナルが出ます。暑熱に曝露を繰り返すと、その細胞が増えて、シグナルが強くなる可能性があります」

暑熱曝露されたラットの視床下部では神経前駆細胞の分裂が促進し、そのほとんどが神経細胞に分化したという報告もある(島根大学・松崎健太郎助教授、2015年)。変化は脳から始まるようだ。

暑熱馴化による生理学的機能の変化
Periard et al., 2015

発汗のシグナルは視床下部から交感神経経由で汗腺に伝わるが、暑熱馴化後の汗腺はそのシグナルに対する反応性がよくなる。

「普段あまり発汗しない四肢からも発汗が盛んになるし、日常的に熱めの湯に入浴すると汗腺が肥大し、さらに発汗量は増えます」

こうして暑熱に強いカラダへと鍛え上げていくプロセスでは、体内に蓄えられる水分量が増える。何が増えるかといえば、先にも名前を挙げた血中の血漿。汗の原料となる血液の液体成分だ。血漿を多めに蓄えられれば、盛んになった発汗を底支えできる。

「馴化すると血管内容量が向上して、血液量が増えます」

また、運動が習慣化すると、呼吸器・循環器系の能力が向上する。このため同じ負荷・運動量が必要とする酸素、エネルギーは減っていくため、単位容積当たりの血中の赤血球は相対的に少なくなる。

「血漿が増え、赤血球の数値が低いと血液の粘性が下がり、毛細血管の血流がよくなるはずです」

汗腺の反応性が高まり、汗は増加
汗腺の反応性が高まり、汗は増加。
中枢に暑熱馴化が起きるとき、同時に末梢部でも変化は起きる。「局所的に皮膚が高温を経験すると汗腺が肥大して、発汗量が増えたり、中枢からの発汗を促すシグナルに対する汗腺の感受性が高まります」(永島教授)。

この状態に達すると、給水、休息を怠らなければ、猛暑の中でも動き続けられる。これはスポーツ界でも重要なテーマだ。

「日本が秋や冬でも海外の暑い地域で大会があるなら、4週間前から準備を始め、1週間前には完成させるスケジュールが必要です」と語るのはサッカーの暑熱対策研究を行っている安松幹展教授(立教大学コミュニティ福祉学部)。

「ただし、時間をかけて馴化しても、その後で脱水状態を経験すると馴化の効果は消失してしまいます。馴化をした後も過信せず、水分補給をしていくことは、暑熱環境において必須なんです」

苦心して手に入れる一時的な耐性はデリケートだ。慎重に、長くキープしてほしい。

取材・文/廣松正浩 イラストレーション/Seiji Matsumoto 取材協力/永島計(早稲田大学人間科学学術院体温・体液研究室教授・医学博士)、安松幹展(国立スポーツ科学センターサバティカル研究員、立教大学コミュニティ福祉学部スポーツウエルネス学科教授、博士(理学))

(初出『Tarzan』No.725・2017年9月14日発売)

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