運動はアレルギー体質改善に効果あり。アレルギーのことを、ちゃんと知る
花粉症や食物アレルギー、猫アレルギー。いわゆる「アレルギー」と呼ばれる症状は、カラダを守る免疫システムのバグが原因。発症したら専門医を訪れて適切な治療を受けることが大事だが、最近の研究では運動がアレルギー体質の改善につながることも明らかになっている。
取材・文/黒田 創 イラストレーション/しりあがり寿、岡田 丈(visiontrack) 取材協力/永田真(埼玉医科大学病院アレルギーセンター センター長)
(初出『Tarzan』No.766・2019年6月13日発売)
日本人の約4割がアレルギー体質だ。
今から40~50年前、アレルギー疾患の人はそれほど多くなかったという。それが今や、日本人の4割が何かしらのアレルギーを持っているという。
多くの人を苦しめる花粉症をはじめ、アトピー性皮膚炎や食物アレルギー…。しかしなぜ、私たちはそこまでアレルギー体質になってしまったのか。
「原因はさまざまですが、密閉されたマンションなど、生活しやすい家屋が増えたことは大きいと思います」と語るのは、埼玉医科大学病院アレルギーセンター長・永田真先生。
「一年中冷暖房が行き届いたような住み心地のいい家は、同時にダニが繁殖しやすい環境でもある。私たちがアレルギー反応を起こす物質、アレルゲンはいくつもの種類がありますが、その割合が最も高いのがダニなのです」
また、その昔よりも身のまわりには雑菌が少なくなったのも事実。衛生状態が良くなりすぎたために、体内の免疫組織がアレルゲンに過剰に反応し、アレルギーを発症しやすい体質になったとも考えられている。
アレルギーが起こるメカニズムとは?
私たちのカラダにはもともと細菌やウイルス、寄生虫などの微生物や異物などから身を守るために免疫というシステムが備わっている。この機能が環境やライフサイクルの変化によってバグを起こし、くしゃみやじんましん、呼吸困難などの症状を起こしてしまう。
図にすると下の通り。アレルギー反応を起こすアレルゲンという物質が体内に入ると「IgE」と呼ばれる抗体を作り出すのだが、これは全身の組織にあるマスト細胞とくっつきやすい厄介な性質の持ち主だ。
全身のマスト細胞に結合したIgE抗体は、次に同じアレルゲンが体内に入ってくるとマスト細胞を活性化させてしまい、細胞内部にあるヒスタミンなどの化学物質がドバッと放出される。ヒスタミンは神経や粘膜を刺激し、くしゃみや鼻水などを引き起こすのだ。
「自分はアレルギーや花粉症はないから安心」と思っていても、ある日突然症状が出ても不思議じゃない。
好物を食べてアレルギーに。これって本当?
「好きなものを食べ過ぎるとそのうちアレルギーになるよ」。そんな噂を聞いたことがある。永田先生、それ科学的に見て正しいですか?
「必ずしもそうとは言えないです。仮に特定の食べ物を頻繁に口にして結果的にアレルギー反応が出たとすれば、それはその人がもともとアレルギー体質で、たまたまそのタイミングで症状が表れたということ。アレルギー体質でなければそうしたことは稀と思われます」
冒頭で触れた通り、今や日本人の4割が程度の差こそあれアレルギー体質を持っている時代。「まさかそんなことでアレルギーに?」というケースが増えているのだ。
「アレルギー体質の方の多くがダニアレルギーですが、そこを起点に果物や甲殻類などの食べ物や、花粉や動物などさまざまな物質でアレルギー反応を見せるケースが極めて多いのです。ひいては飼っている猫や犬の体毛につくダニでさらに重症化することも。決して侮れません」
アレルギー体質改善には運動がいい?
運動はカラダにいい。賢明な『ターザン』読者であればそんなのは百も承知だと思うが、実はカラダを動かすことはアレルギー体質の改善にもつながるという。
「運動をすると、アレルギー反応を抑える役割を持つ体内の制御性Tリンパ球の働きが活発になることが最近の研究で明らかになっています。治療法として確立されてはいませんが。昔からよく“喘息を持つお子さんには水泳がいい”と言われてきましたが、その科学的根拠がはっきりしてきたのです」(永田先生)
近年はアレルギー治療薬を使う対症療法に加え、アレルギーの原因となるアレルゲンを投与して免疫をつくり、体質を改善していくアレルゲン免疫療法もポピュラーになりつつある。
まずはそれらの適切な治療を受けて症状を抑え、体調を整えたうえで軽めの運動から始めるのがベターなのだとか。治療と適度な運動の両立を!