総合格闘家・猿田洋祐「技から技への繋ぎは腹筋の質が左右する」

打撃、投げ技、寝技が許される総合格闘技は最強のカラダ、特に強い腹筋が必要不可欠。トップをひた走る男性総合格闘家、猿田洋祐選手の驚きの特訓を見よ!

取材・文/廣松正浩 撮影/大嶋千尋

(初出『Tarzan』No.763・2019年4月18日発売)

日頃の鍛錬が物をいう。

格闘技で腹筋というとメディシンボールを腹で受けたり、トレーナーに腹に乗ってもらうなど刺激的な構図をイメージする人もいるだろうが、「昔はやったことがありますけど、いまはやらないですね」と、いま最も注目される男性総合格闘家、猿田洋祐選手が練習を見せてくれた。

「腹筋単体を強化しようとは思ってません。ただ、カラダを温めるためにメニューに組み込んだり、スパーリングで意識を向けることで、結果、鍛えられているのだと思います」

器械体操にのめり込んだ高校の卒業間際に、ふと足を踏み入れた総合格闘技。所属ジム〈HEARTS〉では毎週プロ同士のガチ・スパーリングがある。練習といってもダウンさせられることもある激しいものだ。

「もちろん、腹を殴られたり蹴られたりもしますから、その瞬間に気が緩んでいたらまずいですよ」

できないトッププロも、実は多数いる。

仰向けに寝て反動を使わず両脚を上げ、膝を伸ばす。足先は顔の真上に。
仰向けに寝て反動を使わず両脚を上げ、膝を伸ばす。足先は顔の真上に。
ポールに両脛を預け、ローラーの要領で膝を曲げ伸ばす。
ポールに両脛を預け、ローラーの要領で膝を曲げ伸ばす。

ここで紹介しているウォーミングアップは、ほんの一端。指導を担当する森安一好トレーナーによると、腹筋を伸ばすときにエキセントリックな張力が働いていないと攻撃をもろに受けることになり、内臓の疲労が募る。だから、エキセントリックな筋力も強化するメニュー構成を考えているという。

「全部ディフェンスして、一発ももらわないで勝とうとは思ってません。ある程度もらう覚悟はできてます(笑)。とはいえ試合中、あまりボディが効くことはないですね。選手はみんな頑丈だから、特に序盤は何をしても効かないんじゃないかな」

スパーリング以外に、試合より長い「5分×6R」の高強度トレも。

去る1月、チャンピオンとなったONEチャンピオンシップのタイトルマッチは5分5ラウンドと長い。

「相手が疲労困憊し、息が上がった状態なら腹への警戒も薄くなり、その瞬間に蹴れば効くでしょうが」

その状態を作るには自分も動き続けなければならない。筋力だけでなく、強靱な心肺機能も必要になる。上で紹介しているのが、そのためのサーキットトレーニング。タイトルマッチは5分5ラウンドだが、5ラウンドだけ“やっと”もてばいいものではないから、トレーニングは5分6ラウンドにしている。

試合が近づくと、高強度のインターバルトレーニングに取り組む。

10kg強の水を入れたウォーターバッグを1分間、前後左右に操作。
10kg強の水を入れたウォーターバッグを1分間、前後左右に操作。
第1種目として両腕同じ動きでトレーニングロープを1分間振り続ける。最終種目としても1分間、今度は左右の腕を交差させる動き(写真の動作)で振る。
第1種目として両腕同じ動きでトレーニングロープを1分間振り続ける。最終種目としても1分間、今度は左右の腕を交差させる動き(写真の動作)で振る。
立って全速力のシャドー。
立って全速力のシャドー。
続いて、前転後転からの起き上がりを交互に。合図に合わせて1分間繰り返す。
続いて、前転後転からの起き上がりを交互に。合図に合わせて1分間繰り返す。
素早い動きでハイクリーンを。
素早い動きでハイクリーンを。

日替わりの5種目を1分ずつ。どの種目でも腹筋は激しく伸縮する。合間に1分間のインターバルで水分を補給し、呼吸を整える。これを6ラウンドみっちり行う。

足を顔の高さまで上げて、腹直筋、腹斜筋を追い込む。

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パワーラックにぶら下がり、両脚を高く上げたら下げる。10回×3セット実施後は、上げたまま脚をワイパーのように左右に振る。これも10往復×3セット。器械体操出身者の面目躍如だ。

「総合格闘技では立ち技から寝技など、体勢の切り替わる局面で繫ぎの動作が素早くできないと、せっかくの攻撃技術がまったく役立たなくなってしまいます」

体幹の要、腹筋で始動し、ある体勢から次の体勢にいたる流れを迅速に行うことが必要になる。

「5分5ラウンドは修斗でも数年前からやっています。5ラウンド制は得意というか好きですね。互いに疲労がピークに達したときにこそ、日頃の鍛錬が物をいうと思うので!」

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