日頃の鍛錬が物をいう。
格闘技で腹筋というとメディシンボールを腹で受けたり、トレーナーに腹に乗ってもらうなど刺激的な構図をイメージする人もいるだろうが、「昔はやったことがありますけど、いまはやらないですね」と、いま最も注目される男性総合格闘家、猿田洋祐選手が練習を見せてくれた。
「腹筋単体を強化しようとは思ってません。ただ、カラダを温めるためにメニューに組み込んだり、スパーリングで意識を向けることで、結果、鍛えられているのだと思います」
器械体操にのめり込んだ高校の卒業間際に、ふと足を踏み入れた総合格闘技。所属ジム〈HEARTS〉では毎週プロ同士のガチ・スパーリングがある。練習といってもダウンさせられることもある激しいものだ。
「もちろん、腹を殴られたり蹴られたりもしますから、その瞬間に気が緩んでいたらまずいですよ」
できないトッププロも、実は多数いる。
ここで紹介しているウォーミングアップは、ほんの一端。指導を担当する森安一好トレーナーによると、腹筋を伸ばすときにエキセントリックな張力が働いていないと攻撃をもろに受けることになり、内臓の疲労が募る。だから、エキセントリックな筋力も強化するメニュー構成を考えているという。
「全部ディフェンスして、一発ももらわないで勝とうとは思ってません。ある程度もらう覚悟はできてます(笑)。とはいえ試合中、あまりボディが効くことはないですね。選手はみんな頑丈だから、特に序盤は何をしても効かないんじゃないかな」
スパーリング以外に、試合より長い「5分×6R」の高強度トレも。
去る1月、チャンピオンとなったONEチャンピオンシップのタイトルマッチは5分5ラウンドと長い。
「相手が疲労困憊し、息が上がった状態なら腹への警戒も薄くなり、その瞬間に蹴れば効くでしょうが」
その状態を作るには自分も動き続けなければならない。筋力だけでなく、強靱な心肺機能も必要になる。上で紹介しているのが、そのためのサーキットトレーニング。タイトルマッチは5分5ラウンドだが、5ラウンドだけ“やっと”もてばいいものではないから、トレーニングは5分6ラウンドにしている。
試合が近づくと、高強度のインターバルトレーニングに取り組む。
日替わりの5種目を1分ずつ。どの種目でも腹筋は激しく伸縮する。合間に1分間のインターバルで水分を補給し、呼吸を整える。これを6ラウンドみっちり行う。
足を顔の高さまで上げて、腹直筋、腹斜筋を追い込む。
「総合格闘技では立ち技から寝技など、体勢の切り替わる局面で繫ぎの動作が素早くできないと、せっかくの攻撃技術がまったく役立たなくなってしまいます」
体幹の要、腹筋で始動し、ある体勢から次の体勢にいたる流れを迅速に行うことが必要になる。
「5分5ラウンドは修斗でも数年前からやっています。5ラウンド制は得意というか好きですね。互いに疲労がピークに達したときにこそ、日頃の鍛錬が物をいうと思うので!」
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