シックスパックの3つの条件
理想はシックスパック!と何気に口にしているけれど、なぜ腹が6つに割れるのか知ってます? ぼーっと生きていると、あなたの腹は永遠にそのままかも。
取材・文/石飛カノ イラストレーション/阿部伸二 取材協力/白戸拓也(フージャース ウェルネス&スポーツ)
(初出『Tarzan』No.763・2019年4月18日発売)
目次
腹は割れる。誰でも必ず割ることができる。
だって、お母さんのお腹の中にいるときからヒトの腹筋はしっかり割れているのだから。
そもそもの腹筋の構造をおさらいしてみよう。股間にある恥骨から肋骨までカラダの前面を覆っているのが腹直筋。これがいわゆる腹筋だ。その役割は背骨を丸めたり伸ばしたりすること。
一方、脇腹部分に広く斜め方向に走っているのが外腹斜筋。外から見るとこの筋肉しか確認できないが、その内側には逆斜め、タスキ状に内腹斜筋というインナーマッスルが存在する。ふたつの筋肉が協働することで体幹を横に倒したり、斜めに伸ばしたり、左右に捻るという3D動作が可能になる。
腹筋はいくつかのブロックに分かれている。
さて、これら腹筋の構造は全身の筋肉の中でも、極めて特殊。普通の筋肉はひとつ、あるいはふたつの関節をまたぎ、その関節を曲げたり伸ばしたりする働きをする。
ところが、腹筋がまたいでいる関節はひとつやふたつどころではない。背骨は椎骨という似たような形をした骨が24個重なってできている。これらが絶妙なS字カーブを描いて二足歩行のヒトのカラダを支えているのだ。腹筋がコントロールしているのは椎骨と椎骨のジョイント部分の動き。これを関節と考えると、実に2ケタの関節をまたいでその動きに関与していることになる。
こうなると、腹筋が1枚ののっぺらぼうの状態では都合が悪い。細かい動きのコントロールができないからだ。そこで、いくつかのブロックに分かれた構造が必要になったというわけ。
「白線」と「腱画」、2つのライン。
まず、腹直筋の中央を縦に走っているのが白線という区分けライン。生物のカラダは基本、カラダの正中線を境にして左右対称の構造になっている。これで腹直筋は左右2枚の筋肉に分かれた。
次に左右に走っている腱画という区分けライン。これらが筋肉を横に分断することで、短い距離で筋肉が収縮し背骨の微妙な動きがコントロールできるようになった。腹筋の上部だけ、下部だけと狭い範囲で力を入れられるのは腱画があるおかげなのだ。
で、見た目的には中央の白線を境にして、右側に3ブロック(人によっては4ブロック)、左側に3ブロックの筋肉のできあがり。これが世に言うシックスパック。
インナーマッスルが見栄えに貢献。
さらに、外からは見えないが、ハラマキのように深奥で体幹部を覆う腹横筋というインナーマッスルがある。この筋肉もまた重要。腹直筋の下でぐっと腹部を固定することで、精悍なシックスパックの見栄えに貢献している。
誰しもの腹が備えているこの構造。ではなぜ、生まれてこのかた割れて見えたことがないのかって? それはシックスパックの3つの条件をクリアしていないから。逆に言えば3条件を満たすことで、誰でも腹割りが可能ということ。
条件1. 体幹部の皮下脂肪が少ない。
胎児の段階、それもだいぶ早い段階から白線もあれば腱画も存在し、腹はしっかり割れていると考えられている。
ではなぜ、6パックはもちろん、縦割りの2パックにさえならないのか? 答えは簡単、腹の上にある体脂肪が邪魔をしているから。
体脂肪とは余分なエネルギーを細胞の中に溜め込んで膨張する白色脂肪細胞の塊のこと。このうち、筋肉の上に乗っかっているのが皮下脂肪、筋肉の内側にあるのが内臓脂肪。どちらが蓄積されすぎても腹は出っ張るが、腹割りを直接妨害しているのは皮下脂肪の方。シックスパックのお相撲さんはいない。でも、皮下脂肪の下で彼らの腹は人並み以上に割れている。そして内臓脂肪はほとんどない。
一般人の場合、皮下脂肪に比べ内臓脂肪の方が消費されるのが早いので、皮下脂肪が減れば内臓脂肪も減る。手っ取り早く腹を割りたいなら、つまり痩せることが第一条件。
条件2. 腹筋にそれなりの厚みがある。
出腹というほどの体型ではない。指でつまめる皮下脂肪もそんなに分厚くはない。でも、腹が割れているかといえば、ちょっとギモン。薄く2パックには割れているような気もするけれど、イマイチぼんやりした印象。
一般的な中肉男子が誠に惜しい、この状態。こういうタイプに足りないのは、ズバリ筋肉の厚みだ。いくら構造上割れているからとはいえ、持って生まれたものにだけ頼っていては人が羨むシックスパックは実現できない。
腱画と腱画に挟まれたひとつひとつのブロックが主張するためには、それなりの筋肉の厚みが必要。同じ皮下脂肪の厚さの人間がいたとしたら、筋厚が勝っている方がより腹筋が割れて見えるのは当たり前。
筋肉の厚みを増すために何をすべきかは、言わずと知れている。腹筋に負荷をかけて肥大させるのみ。より高みを目指すならこの条件をクリアのこと。
条件3. アウターとインナーのバランスがいい。
肩の筋肉ゴツい、背中の筋肉ハンパない、腕の筋肉は女子の脚より太いかも。そんなマッチョ体型なのに、なぜか腹だけ普通のおっさん並みの出っ張り具合。プロレスラーなどの格闘技系アスリートに見るあるある体型。
ここで注目すべきはインナーマッスル、腹横筋の存在意義だ。腹横筋の役割は腹圧を上げて腹を凹ませ、脊柱をしゃんと立てた姿勢を維持すること。
トレーニングで腹直筋ばかりを鍛えていると、インナーは貧弱でアウターだけが厚みを増したアンバランスな状態になってしまう。腹筋はボリューミーなのに腹圧が高められず、姿勢も乱れて腹が前に出っ張る。マッチョ体型なのに出腹に見えてしまうのは、まさにこうした状態。
これを防ぐ条件は、アウターの腹直筋とインナーの腹横筋をバランスよく鍛えること。ドローインなどを積極的に取り入れたい。