CONDITIONING
2019.06.12

なぜ酸化は悪いのか。「老け」の謎を解明する

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呼吸によって絶えず進行する酸化。外見も中身も老けさせる恐怖のメカニズムを直視せよ! 「カラダの老け」はいつ起こってるの? 酸化のダメージを少なくする方法はないの?といった疑問にお答えします。

酸化とは、物質から電子を奪う反応

ヨガでカラダを自在に動かしたり、快適なスピードでジョギングが楽しめたりするのはすべて酸素のおかげ。その酸素が起こす反応が「酸化」だ。酸化という言葉はよく耳にするが、一体どういう現象なのだろう。

そもそも酸素が便利なのは、一度にたくさんのエネルギーが作り出せるから。

筋肉をはじめとする細胞のエネルギー源になっているのはATP(アデノシン三リン酸)という化学物質。カラダの2大エネルギー源は酸素と脂質といわれるが、酸素と脂質はこのATPを作るために使われている。そして酸素がないと糖質から2個のATPしか作れないのに、酸素を介して脂質を代謝すると36個ものATPが生み出せるのである。

便利な反面、酸素は酸化を起こしやすい。酸化とは物質から電子を奪う反応。元素の最小単位である原子は原子核と電子からなり、電子を奪われた側はダメージを負う。雨ざらしの放置自転車がサビたり、古い十円玉が緑青で覆われたりするのも、酸素による酸化の仕業である。

加えて酸素は、体内で遥かに酸化力が高い輩に変化する。これが「活性酸素」。活性酸素による酸化は酸素よりも超危険であり、通常、酸化とは活性酸素を介したものを指す。

活性酸素はカラダを構成するタンパク質や脂質、大事な遺伝情報を伝えるDNAなどを容赦なく傷つける。自転車や十円玉がサビてしまうように、活性酸素による酸化でカラダもサビてしまうのだ。

「酸素でATPを作るプロセスが正常に進んでくれると、電子を失う還元反応を4回繰り返して最終的には安定的で無害な水に変わります。しかし酸素の1〜3%は完全に還元されないため、活性酸素が生じます」(鈴鹿医療科学大学薬学部の佐藤英介教授)。

大切なのは酸性と抗酸化のバランス

活性酸素は変幻自在であり、ドミノ倒しのように電子を奪いながら変化する。酸素から初めに生じるのはスーパーオキシド。次に電子を奪うと過酸化水素になり、もう一度電子を奪うとヒドロキシルラジカルとなる。

活性酸素は1種類ではないので、まとめて「活性酸素種(ROS)」と呼ばれることもある。活性酸素と混同されやすい物質に「フリーラジカル」があるが、正確には不対電子という構造を持つものがフリーラジカル。この定義に沿うと、スーパーオキシドとヒドロキシルラジカルはフリーラジカルだが、過酸化水素はフリーラジカルではない。

現在、空気にはおよそ21%の酸素が含まれているが、生まれたての地球には酸素はまったく含まれていなかった。

ところが、いまから30億年ほど前に光合成を行う細菌が登場し、盛んに酸素を出すようになって酸素が急増。この酸素を介して多くのエネルギーが生み出せるようになり、生物の進化は加速したのである。

酸素を使うと必ず有害な活性酸素が生じるから、酸化に抗う抗酸化力に優れたものだけが自然淘汰を勝ち抜いた。ヒトもその一種で普段は酸化と抗酸化のバランスが取れている。

しかし炎症やストレス、紫外線などで酸化が進んだり、加齢などの要因で抗酸化の力が衰えたりすると、酸化が抗酸化を上回る。これが酸化ストレスで、カラダを内側からサビつかせて機能不全に追い込み、生活習慣病や老化の引き金となる。

活性酸素は連鎖的に生まれて酸化を連続させる
活性酸素は連鎖的に生まれて酸化を連続させる。
スーパーオキシド、過酸化水素、ヒドロキシルラジカルと変化し、電子を奪うたびに周囲を酸化で障害。これに紫外線で生じる一重項酸素を加えた4つが主要な活性酸素種。

酸化の犯人はどこで生まれている?

活性酸素がつねに生じている危ない場所がある。それが細胞内にあるミトコンドリア。カプセルまたはボールのような形をした小さな小さな器官であり、一つの細胞に数百個から数千個も含まれる。

私たちは酸素を介して爆発的なエネルギーを得ており、その際に活性酸素が生じる。ミトコンドリアこそ、酸素を使ってエネルギーを作る張本人。

ミトコンドリアは、糖質や脂質を原料に酸素を水に変えるプロセスでエネルギー源であるATPを合成している。活性酸素が生じるのは、その最終段階である「電子伝達系」というプロセス。

ミトコンドリアは外膜と内膜という二重の膜で覆われており、内膜では電子伝達系により、全部で4つの酵素の集団(複合体)の間で電子の受け渡しが行われている。この1番目(複合体Ⅰ)と3番目(複合体Ⅲ)から、ときおりスーパーオキシドが漏れ出している。

活性酸素でミトコンドリア自身が傷つくとエネルギー不足で細胞の働きが落ちるため、損傷したミトコンドリアは自動で分解処理される。このマイトファジー(自食作用)という仕組みでミトコンドリアの品質管理を行い、酸化の害を食い止めるのだ。

「カラダの老け」はいつ起こってるの?

駅までダッシュしたり、階段を駆け上がったりするときのように、活発に動くほど多くのエネルギーが要り、酸素消費量が増えて活性酸素による酸化も進みやすい。

けれど、私たちは安静時でも1分間に14〜20回の呼吸を行い、1日2万回もの呼吸で酸素を取り込んで利用する。睡眠時でも呼吸は止まらず、ミトコンドリアは最小限の活動を支えるエネルギーを作り続ける。

体重1kg当たり、安静時に1時間で消費する酸素は200ccほど。その裏側で1日24時間、365日ノンストップで活性酸素はできているのだ。

ミトコンドリアは細胞の発電所である
ミトコンドリアは細胞の発電所である。
ミトコンドリアは細胞の発電所という別名を持ち、酸素でATPを効率的に合成する。筋肉や肝臓や脳のように活動性が高く多くのエネルギーを求める細胞では最大数千個もある。

酸化との戦いは秒単位であり、油断は禁物。初めに生まれるスーパーオキシドは数秒で過酸化水素に変化する。過酸化水素は構造的に安定しており、体内につねに存在する。

過酸化水素の毒性はさほど強くないが、余分な鉄や銅が働きかけると、フェントン反応という反応で最恐の活性酸素であるヒドロキシルラジカルができる。

ヒドロキシルラジカルの寿命は200万分の1秒ほどと極めて短いけれど、酸化力が強く(逆にいうと酸化力が強すぎるため、即座に還元されて短時間だけしか存命できない)、人体に強烈な痛手を与える。

電子伝達系のプロセスで活性酸素が生じる。
電子伝達系のプロセスで活性酸素が生じる。
ミトコンドリアの内膜で行われている電子伝達系で電子を受け渡す際、エネルギー産生に関わる酵素群である複合体Ⅰと複合体Ⅲのところで電子が溢れ出やすく、酸素をスーパーオキシドに変えて酸化が始まる。

老けるって言われても、そんな自覚はないけど?

大事な脳も心臓も筋肉も、突き詰めると細胞の集まり。人体は約37兆個ともいわれる細胞からなる。酸化が怖いのは、この細胞一つひとつを傷つけるから。細胞には、活性酸素の供給源となるミトコンドリアが多数含まれる。

「細胞を包む細胞膜、細胞内でさまざまな代謝活動を担っている酵素、そして遺伝情報を伝えている細胞核内のDNAは、すべてミトコンドリアなどから生じる活性酸素の標的になり得ます」(佐藤教授)。

細胞膜は脂質からなる二重の膜で、ホルモンなどをキャッチするアンテナに相当する受容体を備える。細胞膜を作る脂質が酸化されると受容体の性能が落ち、ホルモンなどの効き目もダウン。

代謝を担う酵素を作るのはタンパク質。このタンパク質が酸化されると酵素の活性が下がり、代謝全般が滞る。さらにDNAが酸化されると正しく遺伝情報が伝わらなくなり、がんの誘因となり得る。

細胞には酸化されて不良品と化したパーツを処分して再生するシステムが備わっているが、酸化ストレスが高すぎるとパーツを再生する材料が不足し、メインテナンスが追いつかないダメな細胞が増える。ダメ細胞が増えると組織や臓器が麻痺に陥り、全身にダメージが波及するのだ。

活性酸素は酸化で細胞を同時攻撃する。
活性酸素は酸化で細胞を同時攻撃する。
細胞にはスーパーオキシドが生じるミトコンドリアが点在。スーパーオキシドは脂質でできた細胞膜、タンパク質でできた酵素、遺伝情報を伝えるDNAを酸化。

酸化のダメージを少なくする方法はないの?

暴れん坊の活性酸素を抑える頼もしい仕組みが抗酸化。その主役となるのが、抗酸化酵素と呼ばれる酵素の数々である。

もっとも有力な抗酸化酵素はSOD(スーパーオキシド・ディスムターゼ)。いちばん最初に発生する活性酸素であり、酸化のドミノ倒しの最上流にいるスーパーオキシドを消去する役目を担う。全部で3つのタイプがあり、スーパーオキシドの故郷であるミトコンドリアを取り囲むように細胞内外にバランス良く配置されており、スーパーオキシドを瞬時に捕まえて処分する。

SODは、スーパーオキシドを、活性酸素では比較的扱いやすい過酸化水素に転換。次にカタラーゼやペルオキシダーゼといった抗酸化酵素により、人畜無害な水に変える。過酸化水素からできる最恐の活性酸素であるヒドロキシルラジカルに対抗できる抗酸化酵素は残念ながら存在しないから、過酸化水素の段階で酸化をストップさせることが求められる。

この他、3種類のアミノ酸からなるグルタチオンという抗酸化酵素は、細胞内の他の酵素やタンパク質の酸化を強力にブロックしてくれる。

体内に備わっているおもな抗酸化酵素。
体内に備わっているおもな抗酸化酵素。
スーパーオキシドを過酸化水素と酸素に転換するSODは全部で3タイプある。過酸化水素はカタラーゼなどで水と酸素に変わる。過酸化水素から生じるヒドロキシルラジカルに対抗する抗酸化酵素をヒトは持っていない。

見た目さえ気にしなければ、問題ないでしょ?

見た目が老けている人はカラダの中身も老けているといわれる。酸化をほったらかしにすると老化の誘因となり、老化が進むと寿命が短くなる恐れもある。

傍証を挙げよう。動物では活発に活動して代謝率が高いほど、種としての最長寿命は短くなる。これは代謝率が高まるほど酸素消費も増えて活性酸素の発生量も多いからだと推定される。

活性酸素を無毒化する代表的な抗酸化酵素であるSODの活性が高い動物ほど、長生きする傾向もある。また、カロリー制限で活性化する長寿遺伝子には、酸化ストレスへの耐性を高める働きもある。

カラダを形作る細胞の寿命を決めている要素の一つにテロメアがある。テロメアは、遺伝子を収めている染色体の両端にある構造。細胞分裂を繰り返すたびに短くなり、テロメアがなくなると細胞はそれ以上分裂できなくなることから、“命の回数券”とも称される。活性酸素にはこのテロメアを短くし、細胞レベルで寿命を短くしている可能性もある。

ただし寿命を決める要素は他にもたくさんあり、酸化だけでは寿命の長短はクリアに説明できない。今後、糖化や炎症といった要素を踏まえた研究が進むことを期待しよう。

代謝率が高いほど、最長寿命は短い。
代謝率が高いほど、最長寿命は短い。
代謝率が高くなるほど、エネルギーを得るために酸素の消費量が増えるから、スーパーオキシドの産生量も多くなる。その結果、いずれも種としての最長寿命が短くなる傾向がある。
出典/『活性酸素の本当の姿』(鈴木敬一郎編集)

ストレスでもカラダの酸化が起こるってホント?

通勤電車で肘鉄を喰ったり、些細なミスを上司にねちねち怒られたり…。ストレスを感じない一日なんて滅多にないが、ストレスも酸化を進めるきっかけとなる。

鍵を握るのは、カラダの機能を調整している自律神経。ストレスを感じると自律神経のうち、交感神経が優位となる。交感神経には血管を縮める作用があり、血流が一時的に滞る。ずっとそのままだと困るので、ストレスが山を越えると、交感神経に代わり血管を緩める副交感神経が優位になる。

これで一件落着に思えるけれど、そうは問屋が卸さない。「血管が縮んで血流が悪くなる虚血状態から、血管が緩んで血液が勢いよく流れる再灌流に切り替わる際、余計な活性酸素が増えてきます」(佐藤教授)。

詳細は次の通り。虚血状態では細胞内のエネルギー物質であるATPが壊れてしまい、ヒポキサンチンという成分に分解される。ヒポキサンチンは尿酸に代謝されて尿から排泄されるが、再灌流時にはヒポキサンチンを処分してくれる酵素の構造が変わり、再灌流で供給された酸素から平時には生じないはずのスーパーオキシドが大量発生するというワケ。

老けないためにも、ストレスに振り回されない日々を心掛けたい。

取材・文/井上健二 撮影/小川朋央 撮影協力/諸貫きよ恵(彫刻家=鉄の果物オブジェ) 監修/佐藤英介(鈴鹿医療科学大学薬学部薬学科教授)

(初出『Tarzan』No.721・2017年6月22日発売)

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