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見過ごしていたら危険! 異所性脂肪は今すぐ排除せよ

皮下脂肪、内臓脂肪に次ぐ第3の脂肪などと呼ばれる異所性脂肪。いきなり重大疾患を惹起する可能性があるというから恐ろしい。最新の研究を取材した。

異所性脂肪って、なんだ?

年を重ね、基礎代謝の低下する世代は、非常に残念ながら少しずつ筋量を失っていく世代。筋量が減るから基礎代謝が低下するともいえるが、そのとき体重が変わらなければ、体内では確実に脂肪が増えている。

特に肥満には見えないし、腹が出ていなくても、脂肪は本来つくはずもない臓器にまとわりつく。こいつらをまとめて「異所性脂肪」と呼ぶが、内臓脂肪ともども増え過ぎるとカラダによろしくない事態を惹き起こす厄介者。まったくのゼロにはできないが、限りなく少なく封じ込めたい危険な脂だ。

おとなしい皮下脂肪とおよそ異なり、困ったことに異所性脂肪は、生命活動の要にあたる臓器の周りにまとわりつく。あるいは細胞の中に蓄積する。

こいつらはどこに潜り込み、どんな悪事を働くのか?

骨格筋の中にさえ脂肪は溜まる!

肥満では肝臓に脂肪が溜まる、いわゆる脂肪肝になりやすいことは、昔から知られた事実だ。また、膵臓に蓄積が進むとインスリンを分泌するβ細胞が死滅することが懸念される。

心臓を取り巻く冠動脈の周囲を走る毛細血管脇にも脂肪細胞は存在し、内臓脂肪が増えるような生活を送っていると、気づかないうちに心臓周囲脂肪を溜め込むことになる。これからは内臓脂肪だけでなく、心臓周囲脂肪にも注意した方がいいだろう。

そして、驚くべきは、高脂肪食を摂取し続けると、骨格筋の細胞内に脂肪が目立つようになるという。いわば脂肪筋とでも呼ぶべきものだ。アスリートなら問題ないが、一般人だと大問題!

食事療法や運動療法を取り入れることで対処した方がいいだろう。

心筋に溜まれば、一大事。

女性に顕著に発達する皮下脂肪は、皮下の脂肪細胞の集まりを指す。毛細血管があまり発達していない部位のため、増えにくく減りにくい。

内臓脂肪は腸間膜に広がる毛細血管のすぐそばに存在する脂肪細胞に溜まったもの。こいつは皮下脂肪のようにおとなしい脂ではなく、悪玉のアディポサイトカイン(生理活性物質)もじわじわ分泌し、糖尿病、高血圧などの生活習慣病を招く厄介者だ。

一方で、異所性脂肪とは、本来体脂肪が溜まらないはずの部位に溜まっていく脂肪を指す。前述のように骨格筋の細胞に溜まるし、筋組織内に存在する未分化の間葉系幹細胞(いろんな細胞に成長しうる細胞のモトみたいなもの)も、条件がそろえば脂肪細胞に成長するらしいことが分かってきた。

また、2008年には世界に先駆け大阪大学の平野賢一助教が、遺伝子の異常から心筋細胞内に中性脂肪の溜まる中性脂肪蓄積心筋血管症を発見。翌09年には厚労省は難治性疾患克服研究事業として研究班を立ち上げた。

脂肪細胞でもないのに、なぜか脂肪を蓄えている
脂肪細胞でもないのに、なぜか脂肪を蓄えている。
2型糖尿病患者の骨格筋をH-MRS法(MRIに体外コイルを組み合わせたもの)で測定すると細胞内に脂肪の蓄積が観察された。スペクトルのピークは細胞の内外、計2か所で観測された。
田村好史博士(順天堂大学スポートロジーセンター)からの提供

欧米人は、体格のわりに異所性脂肪は少ない。

脂肪蓄積能力には人種差、民族差があると考えられている。

2009年の世界保健機関(WHO)のデータで国別平均BMIを見ると、日本人女性は21.9で最下位近く。ほとんどの先進国は25以上だ。これを見ても、そもそも日本人は脂肪を蓄えるのが苦手な民族なのかもしれない。

そのため、ほんの少しでも太れば、格納してもらえない脂は、ありえない場所にお邪魔をする可能性がある。肥満が始まると、早い段階から異所性脂肪となって蓄積しやすいのは、実は日本人!?

一方、欧米人が太ろうと思ったら、驚くほどに膨らめる。これは脂肪を蓄える容量が我々とはケタ違いに大きいことをうかがわせる。長年の高脂肪食、肉食で鍛えた脂肪組織は、ちょっとのことでは音を上げないのかもしれない。でぶは一日にしてならず。

【グラフ】太らなくても、いともたやすく脂肪肝になる日本人
太らなくても、いともたやすく脂肪肝になる日本人。
アメリカ人はBMIが28を超えても、23未満の日本人と同じくらいの有病率だ。そして、23を超えるや日本人の有病率はぐんとはね上がってしまう。アメリカ国内では人種による差が非常に顕著だ。
出典/Everhart JE, Bambha KM: Fatty liver; think globally. Hepatology 51; 1491-1493, 2010

日本人は太る前から異所性脂肪を溜め込んでしまう。

既に解説したように、日本人の特に男性は皮下脂肪が貧弱であるケースが多い。そこに余った栄養が格納しきれなくなれば、ありえない場所に脂肪があふれ出る。

現在は体格の指数であるBMI25以上を肥満の指標として採用することは多いが、日本人で糖尿病を発症する患者の平均BMIは、25未満である。つまり、日本人の糖尿病患者の多くは太る前に発症していることになる。

BMIがまだ25未満だからといって、油断は禁物だ。贅肉なんて一切ついていなかった20歳の頃は20未満で、社会人になったら2~3増えちゃった、などという人は胸に手を当てて考えるべし。

増えた分の体重は筋肉ですか、脂肪ですか。筋肉が増えるほど、トレーニングや栄養戦略を頑張ってきましたか? そういう人は、かなり少数だろう。

成人後、増えた体重はほぼ体脂肪。BMI25未満でも、まったく安心できないのだ。困ったね。

【グラフ】たとえ太っていなくてもメタボにすり寄るかも
たとえ太っていなくてもメタボにすり寄るかも。
メタボリックシンドロームの診断基準になる心血管代謝リスク因子を1つ持つだけで、非肥満者でも骨格筋にインスリン抵抗性を生じる。リスク因子が増えるほど、骨格筋の質は低下する。
出典/Kageumi Takeno, Yoshifumi Tamura, et al. Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism 2016, 101(10): 3676-3684より

たった3日間でも異所性脂肪は増加します。

高脂肪食を3週間も食べ続ける…そんなことするわけないだろうと思う人でも、カラダの中に異所性脂肪が溜まっている可能性は大だ。

順天堂大学の田村好史博士らは、健常者50人に総カロリーの60%が脂質という高脂肪食を食べさせ、その前後で筋肉細胞内の脂肪を測定した。

すると、たった3日間の実施で骨格筋細胞内脂質はなんと30~40%も有意に増加し、インスリン感受性は約7%も有意に低下したという驚くべき結果であった。

3日連チャンの宴会なんて、年末年始にはザラにある。っていうか、ほぼ毎年の恒例行事ではあるまいか。しかもお正月には餅もたっぷりのザ・カーボパーティーとなり果てる。あな恐ろしや日本の伝統…。

食事療法と運動療法で十分に改善できます。

糖尿病やら脂質異常症といった診断が下れば、医師の監督下で投薬治療も始まるだろう。

だが、異所性脂肪だから特に太って見えるわけではないし、肥満症の段階でなければ病名はつかない。だから、薬も出てはこない。それはそうだ。病的な状態かもしれないが、まだ病気ではない。

内臓脂肪の周囲には毛細血管が豊かに発達しているが、異所性脂肪の周囲に毛細血管がたくさん張り巡らされているかどうかは、よく分かっていない。だが、放っておくのは大問題だ。

脂肪を使う運動といえば、おなじみの有酸素運動。脂汗をかきながら、高重量なんかと闘わなくても、軽い運動で脂肪はどんどん燃えていく。このときに食事療法も並行して行えば、薬なんかに頼らずに、異所性脂肪は比較的短期間で減らせるはず。

前述の田村好史博士らの高脂肪食の実験でも、日ごろ歩く量の多い被験者では、骨格筋細胞内脂質の増加が生じにくかったという。まずは1駅分多く歩いてみよう。

【グラフ】2週間でも運動を行えば、細胞の中の脂肪は減らせる
2週間でも運動を行えば、細胞の中の脂肪は減らせる。
2週間、教育入院した14名の2型糖尿病患者で調査したところ、食事療法のみの群(左)に有意な変化はなかったが、運動療法も加えた群(右)の細胞内脂質は19%と顕著に減少した。
出典/Yoshifumi Tamura, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2005; 90(6): 3191-6より

取材・文/廣松正浩 イラストレーション/阿部伸二 取材協力/南勲(東京医科歯科大学医学部附属病院糖尿病・内分泌・代謝内科助教、医学博士)、竹野景海(順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学・スポートロジーセンター助教、医学博士)、寺島正浩(医療法人社団CVIC 心臓画像クリニック飯田橋理事長、医学博士)

(初出『Tarzan』No.713・2017年2月23日発売)

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