ポイントは「寝始めの3時間」。
充実した睡眠はカラダ作りにおいても重要。特に入眠してまもなくは、筋肉合成や脂肪分解などに働く「成長ホルモン」が分泌される。
「最も眠りが深くなる寝始めの3時間には成長ホルモンが盛んに分泌されます」と話すのは、肥満外来専門医の佐藤桂子先生。長年肥満治療に携わるなかで編み出したのは、成長ホルモンの働きに焦点を当てた「3・3・7睡眠法」。
(1)寝始めの3時間は中断せず寝ること、(2)夜中の3時には寝ていること、(3)1日トータルで7時間は寝ること。これらの3つのルールを守るだけと実に簡単。
「ダイエットは健康に付随するもの。また良質な睡眠は運動の成果やパフォーマンス向上に繫がります」
深く眠るための6つのポイント。
睡眠時間は足りているのにカラダがだるい、昼食後眠気に襲われる、移動中の電車で爆睡してしまうなど、思い当たる人は、残念だが睡眠の質が悪い可能性がある。
3・3・7睡眠法に+αで、寝具や寝室環境を変えたり睡眠に対する意識を改めれば、ふか〜く眠れるようになり、太りにくいカラダになれるはず。ぜひ今晩から実践を。
1. よい寝具を選ぶこと
睡眠時、地肌に触れる寝具で寝心地は大きく左右される。睡眠中に起きる腰痛の原因として考えられるのは敷布団。硬すぎるものや薄すぎるものは背中から尻にかけてのS字にフィットしにくく、血流悪化のリスクを伴う。
また枕は頭と首のラインを保てる形状であり、寝返りを打ったときに頭が落ちて睡眠が中断されないよう、大きめのものを選ぶのがベター。素材やクッション性の好みは人それぞれ、購入前に実物を試しておきたい。
寝具が睡眠や日常の作業の質にどれほど影響するかは、多くのアスリートが国際試合の会場にマイマットレスを持参することからも明らかだ。もちろん我々だってカラダが資本。ココは多少奮発してでも、自分好みの寝具を揃えよう。
2. 一晩で300キロカロリー消費する
300キロカロリーを消費するにはランで30分、水泳は20分かかるのを思えば驚異的な消費量だ(体重65kgの場合)。
「睡眠中の消費カロリーは、寝ている間も絶えず内臓が働き、体温を維持するために消費される基礎代謝が行われているからです」(佐藤先生)
眠りが浅かったり睡眠時間が短くなると、基礎代謝や成長ホルモンの分泌が70%近くも減少。質の低い睡眠では、200キロカロリーしか消費しないことに。
また睡眠不足になればホルモンバランスが乱れて、食欲を抑えるレプチンが減少すると同時に空腹感を促すグレリンが増加。さらに食の嗜好まで変わり、ヘルシーなものよりジャンクフードなどを欲するようになるというデータも。
3. 最適な布団の中の温度と湿度
ぐっすり眠るには寝室と布団の中(寝床内気候)、両方の温湿度に配慮すべし。理想的な寝室の湿度は50〜60%で室温26度。寝具やパジャマなどで調整し、寝床内は湿度40〜60%に保つと一年中快適。
人間が気温のストレスを受けない温度は29度とされるが、寝床内気候は睡眠中の体温の変動や発汗、または室内の温湿度から常に変動する。また就寝前や睡眠時は日中の活動時より深部体温が下がるので、寝床内は32〜34度が最適温度だ。
温度と湿度の変動はレム・ノンレムのスイッチにも影響するので、眠り始めはエアコンで調整し、睡眠の後半にエアコンがOFFになるようタイマーで設定すれば、起床に向けてのゆるやかな体温上昇もスムーズに。
4. 無呼吸症候群にご注意
睡眠と肥満の関連に佐藤先生が気づいたのは、睡眠中に無呼吸状態を繰り返す「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」の患者を治療した経験がきっかけ。
SASは睡眠中に通常通りの呼吸ができなくなることで息苦しくなり、眠りが浅くなって睡眠の質が低下する。結果として慢性的な睡眠不足に。
「SAS患者は肥満状態の人も少なくありませんが、治療のなかで睡眠中の無呼吸を防ぐ機械『CPAP(シーパップ)』を使うと、深く眠れるようになるだけでなく痩せる人が多いのです」(佐藤先生)。
なかには1年で10kg減のケースもあるとか。肥満治療で最初に睡眠の指導から行うという佐藤先生。睡眠指導以外の治療ももちろん行うが、いかに比重が高いかがよく分かる。
5. 30分のパワーナップ
仕事や家事で夜の睡眠を削らざるを得ないときは、日中の空き時間にパワーナップ(仮眠)を。ポイントは30分以内に収めることと、頭や首が固定された状態で眠ること。
30分以上寝ると脳とカラダが入眠状態になるノンレム睡眠に切り替わり、目覚めにくくなるだけでなく、その後の作業効率に悪影響を与えかねないからだ。
また不自然な姿勢で寝て、頭や首に負担がかかるのは避けたい。椅子の背もたれやU字形クッションで角度を調整したり、デスクに伏せて腕や鞄で支えるなどして、リラックスして眠れる姿勢を保とう。
「30分じゃ寝足りない」という人は、1日2回仮眠するのもアリ。午前は前夜の補充、午後はその日の夜の前倒しという目的でパワーナップを。
6. ソファで寝落ち、眠るための寝酒は論外
寝酒は百害あって一利なし。たとえ眠れても、入眠後数時間経てばアルコールは覚醒作用を持つアセトアルデヒドに分解される。
眠れないなら、睡眠3時間前までに牛乳やプロテインなどを飲み、快眠作用のあるトリプトファンを摂る方が賢明。
それとソファでの寝落ち常習犯は根本的に生活を見直すべし。熟睡できないから、疲れが取れず、ホルモンの分泌にも支障をきたし、カラダはリセットしない。
教えてくれた人
佐藤桂子(さとう・けいこ)/30年間で3万人以上の患者の肥満治療に携わる肥満外来担当医。日本肥満学会をはじめ複数の学会に所属。多くの症例から睡眠と肥満の関連に気づき、『ダイエット外来の寝るだけダイエット』(経済界)などの書籍を多数執筆。